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プロの仕事部屋: 北方謙三とお笑い芸人たちの聖域 (元教授、定年退職202日目)
約1ヶ月前に「情熱大陸」で北方謙三さんの特集を視聴しました(注1)。学生時代、彼のハードボイルド小説『友よ、静かに瞑れ』『さらば、荒野』『君に決別の時を』などに熱中した記憶が蘇ります。しかし、北方さんが歴史小説に転向してからは、時間不足を言い訳に彼の長編から遠ざかっていました。そのため、note で記事を書くことをためらっていたのですが、「プロの仕事部屋」というテーマで語るならば、やはり北方さんには触れざるを得ません。
芸人さんの仕事部屋探訪
今回の記事を書くきっかけは「アメトーーク!」の「仕事部屋をもってる芸人」特集でした。この番組は毎回とはいかないまでも、定期的に録画して楽しんでいます(奥様は、アメトーク CLUB に加入しており、過去の放送や未公開部分も視聴しています)。この回では、6人のクリエイティブな芸人が、仕事部屋を持つことによって仕事がはかどると語り、番組は盛り上がっていました。
<追記1> 番組の冒頭で、ゲストである仕事部屋を持っていない「麒麟」の川島さんが、「欲しいけど、奥さんに打ち明けたところ『作ったら帰ってこなくなるよね』と言われ、『あ゙ーーー』としか言い返せなかった」というエピソードを話していました。やはり、仕事部屋を持つ上で、問題はそこですね。
特に興味深かったのは、バカリズムさん、「ナイツ」の塙さん、「NON STYLE」の石田さんの仕事部屋です(下写真)。彼らは自宅とは別の環境で集中できる場所を確保し、デスクワークに適した空間を作り上げていました。バカリズムさんは、当初デザイナーズマンション風の部屋を作ったものの、徐々に行くのがストレスになり、最終的には趣味のものもあり長時間滞在できる快適な部屋に変更したそうです。
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<追記2> 面白かったのが、バカリズムさんと塙さんの部屋に、昔の流行りであった LARK の赤いゴミ箱が共通していた点です(下写真)。実は私の部屋にも、 LARK ではなく CABIN でしたが、同じ赤いゴミ箱がありました(笑)。
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北方謙三さんの創作現場
次に、作家の執筆場所について触れてみましょう。「ハリー・ポッター」の著者である J.K. ローリングさんがカフェに居座って原稿を書いていたという話は有名です。私の好きな作家である伊坂幸太郎さんも、街のスターバックスを2時間おきに渡り歩きながら執筆しているそうです。一方、ハードボイルド作家で歴史小説家でもある北方健三さんの執筆スタイルは、YouTube「有隣堂しか知らない世界:ホテルに缶詰になる作家の世界」やテレビ番組「情熱大陸」で紹介されています。
YouTube のインタビューによると、北方さんは 40 年間、自宅の書斎、ホテル(缶詰)、海の別荘を 10 日ごとに移動しながら執筆しているそうです。ホテルでは、あえて本を置かず(読んでしまうから)、比較的狭めの部屋で集中して執筆しているとのこと。締め切り間近の時は、1日に 20 時間もの執筆を行うことがあるそうです。すべて万年筆で手書きし、何本もの万年筆を使い分けながら書いていると言います。興味深かったのは、筆が進まなくなったらペンを変え、「最初の一言が書きだせると、その後はスラスラと書き進められることがある」という話です。そして、「いいものが書けなかったら、お前を取り替えるぞ」と万年筆を脅しながら書いていると笑っていました。(下写真もどうぞ)
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「情熱大陸」では、海の別荘での様子が映し出されていました。そこはホテルの密室とは異なり、机が海に向かって設置されていました。収録中、突然北方さんの表情が変わり、原稿用紙に執筆を始める瞬間が捉えられていました(彼が執筆している姿を公に晒すことは滅多にないとのこと)。北方さんはまるでゾーンに入ったかのように無表情で、しばらくの間、万年筆を走らせていました。ファンの一人として、貴重な瞬間を垣間見ることができ、至福の一時でした。(タイトル写真、下写真をどうぞ:注1)
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プロフェッショナルと呼ばれる人たちは集中力を高めるために環境を変え、他のものをシャットアウトしていることがよくわかりました。その方法は人それぞれですが、このような環境づくりこそが新たな創造につながるのでしょう。
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注1: MBS毎日放送「情熱大陸:北方謙三/作家 レジェンドSP 書くことは生きること “最後”の大長編」より
注2:テレビ朝日「アメトーーク!:仕事部屋をもってる芸人」より
注3: YouTube「ホテルに缶詰になる作家の世界 〜有隣堂しか知らない世界〜」より https://www.youtube.com/watch?v=BebfJXz8BL4