「お猿の幻視、幽霊と手を繋ぐ」12月9日から2024年12月15日
お猿の幻視
ぜんぜん自転車に乗らないのんちゃん(2歳10か月)。でも最近、うまい方法を発見した。
それは、自転車に乗せようとするときに、植木を指さし「あっ! あの木の陰にお猿がいたよ!」と言うことである。
こうするとのんちゃんは「おさる?」と、木の方に気をとられて、一切の抵抗をしなくなる。そのスキに手際よく自転車に乗せて、ハーネスをつけてしまうのだ。この方法を使うと、ほぼ100発100中でのんちゃんを自転車に乗せることができる。
ただ、ちょっと問題もあるような気がする。
最初は
「木の陰にお猿がいるね!」
と言うと
「おさるどこ? どこなの?」
と、お猿を探していた。
最近では
「木の陰にお猿がいるね!」
と言うと
「おさるいるね!」
と返してくる。
そう、何度もやっていたら、のんちゃんがいもしないお猿を見るようになってしまったのだ。人間の認識のいい加減さって、怖い。
この後におれがお猿の幻を見るようになったら、ホラー小説だな(そういうの、ありませんでしたっけ?)。
幽霊と手を繋ぐ
寝かしつけのときにのんちゃんがいつまで経っても騒いでいる。これってひょっとしたら「おれが舐められているから」なのかもしれない。
そこで、おれはいったん引っ込んで、おれじゃないやつに寝かしつけをしてもらうことにした。幽霊である。
「アアアアアアアアアアアアアアア……。私は幽霊……」
「ゆうれい? パパはどこにいったの?」
「パパは、この体の奥深くで、眠ってもらった……。私は幽霊~。」
「パパにあいたいよう」
「パパに会いたいのなら、自分のお布団ででゴロリンして、大人しくするのだよ……」
(すぐに自分のお布団に行くのんちゃん)
「のんちゃんはそのままゴロリンできるのかな?」
「パパにあいたいよう」
「それでは会わせてやろう……ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ、ウェッ…………あ、のんちゃん、ちゃんとゴロリンできたんだね。じゃあねんねしようか」
という具合。幽霊のときは裏声を使っている。太字のところにアクセントを置いている。
のんちゃんは幽霊の言うことをちゃんと聞く。ただ、幽霊を怖がっているわけでもないのがおもしろい。
ある日
「のんちゃんは、なぜいつもねんねのときに騒いでいるんだ?」
と幽霊になって聞いてみたら
「のんちゃんは、じぶんのまくらでうまくねられないんだ……」
としみじみと語ってくれた。
親に説明するときの子どもっぽい口調ではなくて、親しい第三者に話すときのていねいな口調だった。
その後
「ゆうれい、てをつなごう」
と、幽霊と添い寝することを選択。おれはパパに戻ることなく、幽霊のままのんちゃんを寝かしつけた。
のんちゃんの中で幽霊は当たり前の存在になってしまっている。日常で、おれが裏声になってしまうと「ぱぱ?(幽霊じゃないの?)」と聞いてくる。
おれは幽霊に体をのっとられているときの記憶はない、という設定なのですっとぼけている。
これもだんだん、おれが本当に自分の作り出した「幽霊」という人格に、自分がのっとられるようになったら、ホラー小説だな……。
似てるね
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