2022年2月10日 帰宅、新しい生活
あかちゃんはまだ体重が足りないということで産院に残して、妻だけが退院することになった。
朝、産院に妻を迎えに行く。ついでにちょっとでも生のあかちゃんを見られないものかな、と思ったのだけど、それはダメだった。
数日ぶりに会った妻は、大きなお腹がへっこんでいた。それまでは胎児が中にいたために、お腹が大きくなっていたが、胎児が外に出たから、お腹がへこんだ。当たり前のことだ。
……当たり前のことなんだけど、この「お腹がへっこんでいる」という現象が、「出産」という行為の生々しさを想起させる。
妻に
「(妊娠中はお腹が大きくて歩くのも大変だったけど)歩くのが楽になった?」
と聞く。
「もう、お腹が大きかったときの感覚を忘れちゃったよ」
と返ってきた。わすれるの早いな。
妻は帝王切開の傷がまだひきつるというが、総じて元気であった。家に到着すると「家~!最高~ッ!」と言ってバーンと寝転がる。ゴキゲンだ。
おれは妻を家において、お寿司を買いに行く。家から電車で30分くらいのところにいいお寿司屋さんがあるのだ。
晩に寿司をたらふく食べた。ケーキも買っておいたので食べた。オミクロン株の大爆発で外食が厳しいけど、家でもお祝いになったと思う。
妻の日記より
退院の日。朝から雪が降っている。
いつも通り、7時に搾乳と授乳。これから赤ちゃんと離れると思うと寂しくてたまらず、授乳後はすぐに新生児室に連れて来るように言われていたのに、呆れた助産師さんが部屋に迎えに来るまで、ずっと赤ちゃんを眺めていた。
雪が積もる前に帰りたくて、早めに精算を済ませてもらった。その後、夫が迎えに来てくれて、雪の中を二人で帰る。途中でベビー用品店に寄って、搾乳機を買った。明日から毎日授乳に通わなくてはいけない。その時に、家で搾乳した母乳を冷凍して持ってくるように言われているのだが、まだ搾乳が上手くできないので、専用器具に頼ることにした。
帰宅すると、何とも不思議な感覚だった。久しぶりに座るソファ。自分のにおいがするベッド。とても懐かしいのに、他人の家のようにも感じられて、何だかそわそわした。
退院はしたが、まだ子宮の収縮と悪露は続いている。腰が痛いので骨盤ベルトを着けようと思い、床に仰向けに横になってみたら(骨盤ベルトはこうやって着けるのだ)、お腹が痛くて起き上がれなくなってしまった。マジで余計なことをした。夫が手を引っ張って起こそうとしてくれるのだが、腹筋を使う動きをするとすごく痛むのでそれは断って、自分でじっくり時間をかけながら起き上がった。
これからしばらくこの状態で日常生活をやっていくのか。もう食事は自動的に出てこない。部屋の清掃もしてくれない。ベッドも電動じゃない。ちゃんとやっていけるのか不安になる。
とても疲れていたので、久しぶりに自分のベッドで昼寝をした。とても気持ちが良かった。
その間に、夫が寿司を買ってきてくれた。近所に、夫婦でお気に入りの寿司屋があるのだ。安くて新鮮で盛りが良い、奇跡のような店だ。妊娠中は免疫力が下がっているから、生物を食べない方が良いと本に書いてあって、そのくらい大丈夫だろうと思う自分もいたんだけど、もし寿司を食べたことで赤ちゃんに何かあったら一生寿司が食べられなくなるなあと思い、一年寿司を我慢して、一生分の寿司を得る選択をした。
久々の寿司は、本当に本当に美味しかった。お腹の中から赤ちゃんが出ていった事で胃の圧迫感も無くなり、スイスイと寿司が入った。最高の気分。
夫と二人で過ごす夜、これまでと何も変わらないようだけれど、今頃赤ちゃんはミルクを貰っているかなあと考えたり、一緒に入院中に撮った写真を眺めたり、頭の中は赤ちゃんでいっぱいだった。
この子はどんな人なんだろう。
どんなものが好きなんだろう。
どんなふうに話すんだろう。
彼女との日々は、きっと毎日がサプライズだ。いっぱい驚いて、いっぱい笑って、いっぱいお祝いをしたいとおもう。これからの生活が、とても楽しみだ。
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これで「おれと妻の妊娠日記」は終了です。ここまで読んで下さった方ありがとうございました。
終了と言いましたが、もうちょっとだけ続きまして、明日はちょっと意外なオマケコンテンツが更新されます。妊娠にも出産にもぜんぜん関係ないのですが、よかったら読んでもらえるとうれしいです。
過去分はこちらから。