最東対地

ホラー作家です。怖い話を書きます。

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えんぶれむっ! 士道ノ弐 抜刀拒否!

  さて、――ここは日本帝國。  皆々様が知ったるかの日本国と似て非なる国。    一つ、この国では廃刀令が敷かれず、現代まで文化として生き残った。  一つ、この国の刀には、それぞれに紋章が施された日本刀の進化形、紋刀がある。  一つ、それを用いた武士を現代では【士(さむらい)】という。  一つ、士同士の闘いを【士道】といい、相撲と並ぶ帝國の国技となっている。  さて、この【士道】であるが、なにも真剣を用いての闘いではない。  あくまでスポーツとしての競技であり、紋刀を所

    • えんぶれむっ! ~学苑紋刀録・士道ノ壱~

       ……ガリガリガリガリガリガリ 「お、おいなんの音だ?」 「どっかで工事か?」 「ちょ、やだ……あれ見て……」 ガリガリガリガリガリガリ 「あれ……なに引き摺ってんの」 「もしかして……刀か?」 「あの音からして超重たそうなんだけど……」 ガリガリガリガリガリガリ 「どんな奴があんなでかい刀持ってんだ」 「いや、それが刀身よりも背の低い……」 「あの制服って、もしかして……」 「ということは、アレって……紋刀!?」 ――國営機関 帝國紋刀認定所 『士

      • 『ペトリコール』第一話

        〈あらすじ〉 2013年春。西川理恵はとある事情から妹の娘・花菜と大阪で暮らすことになった。ふたりが暮らす市営団地は大阪のさつき町。どういうわけか雨がよく降り、そこかしこに錆びた筒状の鉄が落ちていて、奇妙な町だった。さつき町にはさらに奇妙な規則があり、それは『雨の日に子供を外に出さない』、『子供をひとりで水場に行かせない』ということだった。慣れない土地で慣れない花菜ははついこれを破ってしまい、その日から不可解な行動を取るようになる。手に負えなくなった梨恵はあらゆる方面に助けを

        • 『ペトリコール』第十三話

          ■13  雨の大阪城公園は、傘をさして記念写真を撮る外国人ばかりが目立つ。  そんな中、天守閣を囲む外周歩道で、腰を擦りながら歩く寺井の姿があった。 「ええ、福島のねぇ、そうなんよぉ。ああ、そうかいな。わかりましたぁ」  寺井は携帯電話で話しながら、ゆっくりと歩き、受話器相手にお辞儀をして通話を切った。 「あの、すみません~」 「はい?」  不意に呼び止められ顔を上げる。一眼レフのごつごつしたカメラを首から下げた男が作り笑いを顔に張り付けながらこちらを見ていた。

          『ペトリコール』第十二話

          ■12  ――プォーー!  獣の咆哮のようなサイレンの音で飛び起き、すぐに三和土まで駆けると玄関を開けて空を見た。  漆黒の空に甲高いサイレンの音が突き刺さり、近所の住民がぞろぞろと外にでて空を見上げている。空襲警報だった。 「多枝ちゃん、起き! 多枝ちゃん、空襲警報が鳴っとる! 防空壕に逃げるよ!」 「んん……」  幼い多枝を揺り起こし、眼を擦っている間に防空頭巾を被せた。  そしてすぐに自分もモンペを穿き、防空頭巾を被る。 「お母ちゃん、しっこ」 「ええっ、後にしなさい

          『ペトリコール』第十二話

          『ペトリコール』第十一話

          ■11  教室の窓際、一番端の奥。  通常の机の列よりも大きくはみだし、ひと目でクラスメートに避けられているとわかる席に花菜は座っていた。  藤本がなにを聞いても花菜は「ここがいいから」と言って譲らない。そうするのがもっとも波風が立たないと経験則で知っていた。  クスクスと押し殺した笑いが漏れて聞こえる。  前に森谷が花菜をのけものにするなと一喝したことがあった。だが結局のところなにも変わらなかった。それも知っている。  クラスでの花菜に対してのいじめが表面化しているかいな

          『ペトリコール』第十一話

          『ペトリコール』第十話

          ■10 「あんた、あない言うたのにあおむしに会わせてもうたんか」  さみだれ住宅に帰ってきて早々、住人に声をかけられた。無視して、花菜を背負ったまま急いで部屋に駆け込んだ。 「ごめん、花菜ちゃん。今日はシャワーで我慢して」  キッチンのテーブルで足をぶらぶらさせながら、それには答えずこちらを向いた。 「ねえ、りえちゃん。寝るまでたえちゃんと遊んでいい?」  心臓が止まりかけた。その名は今一番聞きたくない。 「たえちゃんとは遊んじゃだめ」 「なんで?」 「なん

          『ペトリコール』第十話

          『ペトリコール』第九話

          ■9  町の境目にある小さな社の前で梨恵は立ち止った。考え事をしながら歩いている時、不思議とこの社の前で立ち止まることが多い。確かに神様に頼りたいくらい悩んでいるだけに、これを見るだけですこし落ち着くような気になっていた。  ここのところ、天気予報が当たったためしがない。  天気予報が外れている……というより、この町だけ雨が降っていることが多い。  外にでた時は雨が降っていたなのに、最寄りのニュー有宮駅に着く頃にはいつのまにか止んでいる――というより、地面は乾いていて

          『ペトリコール』第九話

          『ペトリコール』第八話

          ■8  傘にぶつかる雨粒のせいで、梨恵は気が滅入っていた。  雨を感じるだけで吐き気がする。  地面から上がってくる雨と土のにおいが帰りたい気持ちに拍車をかけ、滲んだ町にひとりだけぽつんと取り残されたような心境になった。  大輔がいなくなってから、梨恵の生活は日々荒んでいった。花菜の面倒ですら危うくなっている。  毎日が悪夢のようだった。できれば外にでたくない。だが家にずっといても神経がすり減るだけだ。そんな状態なのに、畳みかけるようにして頼れる人間が周りから消えてゆく。

          『ペトリコール』第八話

          『ペトリコール』第七話

          ■7  京阪枚方公園駅で降りると、舞の鼻先にパンの焼けたいい匂いが漂ってきた。 「お腹減ったね、花菜ちゃん」  手を繋いだ花菜はうんうん、とうなずき、照れ臭そうに笑った。  梅雨明けの発表を待って、舞は花菜とふたりで遊びにやってきたのだ。  駅そばのパン屋の香りの誘惑を振り切って、さらにくらわんか餅の和菓子屋を早足で横切ると派手な入場ゲートが目の前に飛び込んできた。 「西日本で一番歴史のある遊園地、ひらかたパークやで」 「わあー」  得意げに紹介すると花菜は声を上げて喜んだ

          『ペトリコール』第七話

          『ペトリコール』第六話

          ■6  窓際の席から灰色の空を見上げ、花菜はこの町にきてから快晴だったことなど一度もないような気がしていた。  周りの児童たちの遊びもなんだか奇妙だった。おかっぱ頭の女子は毬つきやままごと。坊主頭の男子は走り回っている。何人かは普通だが、多くの児童はなぜか坊主やおかっぱ頭だった。服装もやけに地味な印象だ。  なんだか教科書に載っているような昔にタイムスリップしてきたような錯覚に陥るが、地域独特の個性だと思うことにした。  ここから見る空はいつも暗い。  晴れている日もそれな

          『ペトリコール』第六話

          『ペトリコール』第五話

          ■5 「花菜ちゃーん! 舞ちゃんが遊びにきたでー」  ドアを開けて開口一番、舞が部屋の奥にいる花菜に呼びかけた。  慌ただしい足音を響かせて花菜が姿を現す。 「舞ちゃんだ!」 「花菜ちゃん、いい子にしてたぁ? 悪さばっかしてたんちゃう~ん」 「してないもん! ね、ね、舞ちゃん一緒に遊ぼう!」  舞が「ええよー」と笑うと花菜は嬉しそうにその手を引いた。 「ただいま」 「あ、おかえり! 今から舞ちゃんと遊ぶ!」  梨恵が玄関から中に入った頃には、手を引かれた舞の後ろ姿しか見えな

          『ペトリコール』第五話

          『ペトリコール』第四話

          ■4 「梨恵さん梨恵さん」  店のフロアの掃除をしていると舞が血相を変えてやってきた。 「どうしたの?」 「梨恵さん……あの人、知ってはる人ですか?」  舞は声を潜め、待合のソファを小さく指差す。 「なんかずっと梨恵さんをだせって言うてて。なんかガラ悪そうやし、知り合いちゃうかったら警察呼ぼうかってなってるんですけど」  そう言った舞に釣られて目をやると、フロントカウンター越しに店長と口論している男の姿が目に入った。  金髪にサングラス、お気に入りのBEAMS

          『ペトリコール』第四話

          『ペトリコール』第三話

          ■3  金曜日の雨。ふたりで雨に濡れて家に帰った。 「濡れちゃったね、タオル持ってくるから」  ベランダからは灰色の空が覗いている。花菜はそれをじっと見つめている。タオルで花菜の髪を拭きながら、このところ顔を見ていない大輔を思った。  ――大輔、どうしてるんだろ。  大輔と最後に会ったのは、二週間も前だ。  灰空の小さな雲の隙間から光の筋が差している。それが大輔の派手な金髪の色と重なり、切なさで胸が締め付けられた。  花菜との慣れないふたり暮らし。溜まったストレスを大輔で発

          『ペトリコール』第三話

          『ペトリコール』第二話

          ■2  知らない土地、知らない学校、初めての新学期。教室を埋める知らない顔の担任と、名前も知らない児童たち。花菜はその中心にいた。 「なあなあお前って、どっからきたん?」 「大阪? 大阪のどこからきたん? なんでうちの小学校なん」  次から次に投げかけられる質問の嵐。何度経験しても慣れるものではないと思った。だからこそなにも答えず、ただじっとして嵐が去るのを待つ。それがこの状況をやりすごす唯一のやりかたなのだ。 「ほら、みんなすーわーりーなーさーいー! 先生の言うこと聞かれ

          『ペトリコール』第二話