『レヴェナント 蘇りし者』
レオ様オスカー受賞作。
ちなみにこの映画、レオ様の台詞は非常に少ない。映像・演技は凄いにしても、この映画自体の力なくしてオスカー受賞はなかっただろう。
監督のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ、この人の才能に私は惚れ込んでいる。
『アモーレス・ペロス』『21グラム』『バベル』『BIUTIFUL ビューティフル』『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』……
この監督の特徴は「境界」。
『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』は長回しを利用することで現実と非現実の境界を敢えてぼかしている。
いきなり楽屋の場面からいきなり演技の場面に移ったり、主人公がいきなり超能力のようなものを使い始めたかとおもえば、普通の現実がその後描かれたり。
『バベル』は言語と言語、男と女・国と国、など境界を強調している。
『21グラム』では、移植された心臓を巡ってドラマが繰り広げられる。一個の心臓を持つ人間を境界にしているように映る。
この監督が群像劇的な作品を撮るのは、「境界」というテーマを考えたら必然のように見える。境界の向こう側から見た世界、こちら側から見た世界、と視点が増えて然るべき。
この映画のわかりやすい境界といえば、まず白人(侵略者)側とネイティヴアメリカンという境界。
レオ様は侵略者側。しかし、ネイティヴアメリカンの女性との間に子どもがいる。で、その子どもを白人(侵略者側)に殺される。
もう一つは、健康な人間と不健康な人間という境界。
熊に襲われて瀕死の重傷を負ったレオ様は、「治療しても無理だ」ということで、仲間に置き去りにされる。本当に瀕死だから、事情を考えたら置き去りにされても仕方ない。
ただ、レオ様は立場の偉い人間だからきちんと最期を見届けましょうということになった。しかし、その見届けるはずの悪い奴が、レオ様の息子を殺してレオ様も見殺しにしようとする。
結局、『ザ・ビーチ』でサメと戦って勝ったレオ様だけあって死なないんだけど。あ、でも『タイタニック』では死んだな。とにかくレオ様はこの仕打を受けて、復讐に燃える。
他、面白いなと思ったのが、レオ様が熊に襲われるシーン。
このyoutube動画でレオ様が「僕が傷を負うシーンは、観客の誰もが初めて目にする映像体験だと思う」と言っている。
本当にそう感じるシーン。
熊が人を襲うって、どう襲うか想像つく人はどのくらいいるのかな?
ライオンが頸動脈にかみつくみたいに、一発で致命傷与えるようなのではなくて、遊ぶように襲う。熊が遊んでるのか襲ってるのかいまいち分からんのだけども、熊の力ではどうやっても人間は致命傷負うよな、で、遊び飽きたのか知らんけど熊は一回致命傷を負わせたレオ様から離れて、それからまた襲ってくるんだよ。「え、こう襲われるのか……」と、たまにニュースで見る「熊に襲われて死亡」を想像した。
この場面に限らないんだけども、一瞬で状況が一変することの表現方法がうまい。そりゃサバイバル化では、一瞬で状況が変化する。熊に襲われるのも、何か前触れがあったのではなくて、突然なんだよ。でも全くご都合主義な感じがない。
このイニャリトゥ監督は元からグロい映像を撮影するのが上手い。今作は、イニャリトゥ監督のグロさ表現だけで突っ走った映画、グロさを突き詰めた映画、といっても良いのではないか?
グロさでは、『21グラム』の心臓移植とかのほうが、「うわ、自分も心臓取られるのか……」と内臓の辺りが気持ち悪くなってリアルなんだが、そういう想像力抜きの、直接の見た目的なグロさではこの映画で追求している感はある。
しかしこのグロさは、「境界」を描いたらどうしても出てくる部分ではなかろうか?
人間と熊、飼い犬を闘犬にして金を稼ぐ人間、人間と人間の臓器移植、言語が通じない外国人同士、通じても知的水準・文化水準が違う者同士……、ある意味、血が流れて当然だとも言える(そうでない世界が理想だが)。
そうした境界を描く中でえぐり出てきてしまう膿のようなものを、この監督は描いているように見える。
サバイバルの世界は、突然何かが起きる「境界なき世界」だ。
そのスケールの大きな世界に、レオ様視点、レオ様チームのリーダー視点、レオ様を殺そうとした人間視点、の三者の思惑が混入することで、緊迫感を高めあっている。繊細な心理描写のイニャリトゥ監督の中では、大味な作品に仕上がっている。
追記:これ、監督がメキシコ人というのが「境界」を意識する要因なんだろうなと今気づいた。『バベル』で、メキシコ人が国境超えて仕事していることで警察に逮捕されたりが描かれている。メキシコ、の意味がどれほどのものなのかは自分には分からないが、おそらく影響が大なのだろうと思う。
(2016/8/30 執筆 2019/1/11 修正)
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