ある少女の人形と風船と旗~結びあわされた人々の願い~
ある円形の広場の噴水から水が出なくなって、噴水の上には少女の人形が置かれた。赤い服の少女の人形だが、三メートルはある大きさである。風船の紐が更に無数の紐に括り付けられていて、紐は広場に並ぶ商店の入り口にある、それぞれのマスコットに繋がっている。紐を持つ猫。紐を口にくわえる犬。頭の上に浮かぶテレパシーで紐を確保する宇宙人……各々の店のマスコットが、少女の人形と風船を共有している。
人がたくさん広場にいた頃は、噴水からも華麗に水が出て、少女の人形も噴水の横の台に立ち、買い物する親子やカップル、ベンチで寛ぐ老人たちを見守っていた。少女が各店のマスコットと持ち合う紐には、世界各国の旗が括り付けられていた。
しかしあるときを境に、広場には人が歩くのを見つける方が大変になってしまった。水は枯れ、閉まった全ての店の奥で、店主たちの憂いは増していった。いつの間にか、紐の国旗は無くなっていた。
だけれど紐には、札や、小銭の入った袋が無数に縫い付けられるようになった。普段から広場で買い物をしている人たちが、「必要な用事」で外出した際の、いつもの御礼と応援の気持ちであった。店主たちはためらうように、しかし目を潤ませながら、紐からお金をほどいた。
お金より、もっと大切なこともある。小銭や札の間を縫って、赤い布がいくつも括り付けられた。いつの間にか少女の持つ風船の色も全て赤くなり、風船を持つ方ではない手には、赤い旗が握られるようになった。これは全店主が共同でSNS上で呼びかけ、買い物客も呼応として行われたことである。
「批判するな」という弱弱しい仲良しこよしはいらない。
自粛させるなら、補償金を渡せ。