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20年ぶりにコーヒーを飲む

 コーヒーを20年以上、1滴も飲んでいなかったのですが、最近、再びコーヒーを飲むようになりました。25歳くらいからコーヒーを1滴も飲んでいなかったのです。

 20歳ごろは、むしろコーヒー中毒みたいでした。朝食後に1本、昼食後に1本、飲んで、目を覚ましていました。旅行中に、食後のコーヒーを飲むチャンスがなかったときに、眠くて体調を崩すという経験もしました。それくらい、コーヒー中毒だったのです。

 25歳のときに、いま思えば発達障害の二次障害である、精神障害を患い、いろいろなものを奪われました。とにかく寝ていなければならなかったので、必然的に療養中はコーヒーを飲まなくなりました。これはコーヒーをやめるチャンスかもしれない、と思った私は、少し回復してきたころ、当時の医師に、このままコーヒーをやめるかどうかという相談をしました。そのときの医師は「腹ぺこさんにとって、コーヒーは『覚せい剤』だったのかもしれませんね」とおっしゃり、私の後押しをしてくださいました。

 以来、コーヒーを1滴も飲まなくなったのです。

 たいへんでしたね。25歳の大病以来、私はひどい睡眠障害になりました。1日に10時間くらい寝ないと、「寝足りた」気がしないのです。それは20年後のいまでもそうで、ついゆうべも、10時間くらい寝て、けさは午後から起きてきました。そして、「目をさますツール」としてのコーヒーが使えない!30歳で就職して、嫌でも月から土は早起きせざるを得なくなって、いろいろ試しました。紅茶を飲んだり、緑茶を飲んだり、コーラを飲んだり。500mlのペットボトルが多かったですね。お金はかかりますが、当時はそれなりに収入がありましたから…。ほんとうに、必死な思いをして、月から土まで起きていましたので、日曜日など起きられるはずもなく、教会の礼拝だって行けないのです。当然、教会の人の顔と名前も(お互いに)一致せず、もう15年以上も通っている教会でも、たまに礼拝に行けば、はじめて来た人と間違われるのがしょっちゅう。(しかも教会って、この立場になればわかることですけど、はじめて来た人にたいして、無意識的に上から目線なんですよね。)くやしい思いをしてきました。私には「毎週、日曜に教会に行ける人」というのが、もうすでに信じられない人なのです。

 コーヒーの話に戻ります。コーヒーが飲めないというのはまことに不便なもので、どこでもコーヒーは出ますし、おもてなしをお受けして、コーヒーを入れてくださるかたも多いわけですけど、いちいちお断りしなくてはならない。極めて心苦しい。そしてまた「コーヒーを断る理由」を述べるのがまた極めて難しい。「精神障害のため、コーヒーをお断りします」というようなことは言いづらい(言えない)からです。それだけでなく、コーヒーが飲めないということは、選択肢が極めて限られるということです。喫茶店などに入っても、まずコーヒーが飲めなかったら、どれほど選択肢がなくなるか。これを言うとみなさん「コーヒー以外にもいろいろあるではないか」とおっしゃいますが、いやいやコーヒー以外って、ほとんどないですよ。べつに飲みたくもないココアとかを頼まざるを得ないのですよ。これは、いま考えてみると、「ほんとうはコーヒーが好きで、飲みたいのに、飲めない。やむを得ず、飲みたくもない飲み物を注文せざるを得ない」という「くやしさ」が強かったのでしょうね。この「くやしさ」という「気持ちの問題」は、無視できないほど大きいものでした。(だいたいコーヒー以外のソフトドリンクは、コーヒーより少し高い、ということも、くやしさに輪をかけていました。)喫茶店に限らず、たとえばファミレスのドリンクバーにしても、コーヒーという選択肢を除いたら、かなり飲めるものが限られてしまいますし、冬場の自販機の「あったか~い」という飲み物も、ほとんどはコーヒーであって、コーヒー以外から選択しなければならないとしたら、かなり限られます。「くやしい」。そんなにコーヒーが飲みたいのであれば、飲めば?とお思いになるかもしれませんが、私は、そんなに長い期間、「コーヒー断ち」をしているので、もしコーヒーを飲んだら、体がどうかなってしまうのではないかという恐ろしさにとらわれていましたので、恐ろしくてコーヒーは飲めなくなっていたのです。ノンカフェインコーヒーにしたら?とのんきに提案してくる仲間もいましたが(悪気はないことはよくわかります)、いやいやカフェインのあるコーヒーが飲みたいんですって!あの、シャキっと目が覚めるカフェイン入りのコーヒーが飲みたいんですって!

 しかも、私はコーヒーが飲めないことを知っている友人でも、以下のようなことがありました。私の目の前で、おいしそうにコーヒーを飲むのです。どうやら、私はたくさんの薬を飲んでいて、コーヒーは1滴も飲まないので、私は「薬が大好き」「コーヒーは嫌い」というふうに見えるらしいのでした(無意識的に)。私は、友人たちが私の目の前でおいしそうにコーヒーを飲むのを見て、なんとも言えない気持ちになるのは、「私は、ほんとうはコーヒーが飲みたいのに、飲めない」からだということが、ようやくわかってきました。やはりこれも「気持ちの問題」ですね。「くやしい」のです。でも、この気持ちは、長いこと言葉にならなかったです。話は飛んでいないつもりですが、私が教師で、オーケストラの顧問であったころ、私が選曲で候補に挙げる曲は、「腹ぺこ先生のやりたい曲だ」と思われていました。違うのに!私は、自分の経験と知識をフル稼働して、「可能な編成で」「可能な難易度の」曲を候補曲として挙げていたのに!自分の「好きな」曲を挙げていたわけではないのに!それから、また話は飛んでいないのですが、私の母の友人で、病気のデパートみたいな、たくさんの病気を持った人がおり、よくいろいろな行事をドタキャンなさるらしい。ご自分でもそのことをネタにしておられるようでしたが、よく考えると、好きで病気をしている人は一人もいない。その人も好きでドタキャンをしているわけではない。しかし、周囲のその人の友人たちも、おそらく無意識的に「その人は好きで病気をしているのでしょう」というふうにとらえるようになっていったのではないか。私も、好きで薬を飲んでいるわけではないのですが、よく「薬が主食」とバカにされるし、「薬はリスク」と注意してくれる人もいますが、いやいや薬は好きで飲んでいるわけではありませんから!やめられるものならやめたいですから。薬は高いし。同様に、私はコーヒーは「嫌いで」「苦手で」飲まないように見えているのでしょうね。でも自分で自分が「ほんとうはコーヒーが飲みたいのだ」ということさえ、長いこと、言葉になりませんでした。なんとなく、私の目の前でおいしそうにコーヒーを飲む友人を、割り切れない思いでながめていただけ。

 そんな私ですが、つい最近、コーヒーを飲むようになりました。どういう心境の変化か、うまく説明できないのですが、飲む気になったのです。最初は、コーヒー牛乳のようなものから。そして、カフェオレのようなものを買って飲んでみて、つい最近の診察で、「午後5時までなら」ということで、コーヒーを飲んでもだいじょうぶでしょうという話になり、以降、コーヒーを飲んでいます。

 たしかに、つい半年くらい前も、午後6時半くらいに、ジャスミン茶を飲んだら、頭が痛くなったことがあり、あまり夕方にカフェインの入ったものを飲むのはよくないらしいということは気づいていました。それは25歳になる前からわかっていたことで、あまり夕方にカフェインの入ったものは飲まないほうがよい。それはともかく、20年ぶりにコーヒーを飲んで思ったことは、「こんな味だっけ?」という感触でした。どうも、25歳から45歳までの長きにわたって、コーヒーを飲まなかったので、私のなかで、「コーヒーとはとてもおいしいもの」という思いが強くなりすぎていたのかもしれません。20年ぶりに飲むコーヒーは、期待を外すほど、そんなに特別においしいと思う飲み物ではないと感じています。もちろんおいしいですけど、ちょっと期待が高すぎたのではないかということですね。それから、驚いたのは、コーヒーを飲んでも眠気は去らないこと!やはり「コーヒーとは眠気が去る飲み物。私はコーヒーが飲めないからこんなに睡眠障害で苦労している」という思いが強すぎたのかもしれません。でも信じられないのは、先日も、コーヒーを飲んだ直後に、巨大な昼寝をしてしまいました!25歳以前では考えられないこと!この、「コーヒーでは目が覚めない」という現象が、果たして、25歳から45歳までの、どの時点で生じた体の変化か、というのは、20年間、コーヒーを飲んでこなかったのでわかりませんが、おそらく25歳の病気以来か?なぜなら、25歳の病気で、体のいろいろなところに変化(多くはいろいろなものを奪われた)があったし、なにより、コーヒーと同じようにカフェインで目を覚ます効果のある、紅茶や緑茶やコーラはたくさん飲んできたのに、やはりあまり目は覚めなかったからです。というわけで、20年ぶりにコーヒーを飲んだわりに、味も効果も、期待はずれな感じがありました。

 でも、少なくとも「コーヒーが飲めないくやしさ」からは解放された気がします。うえにさんざん書きましたように、「コーヒーが飲めない」というのは、「くやしい」という「気持ちの問題」が大きかったことは、だんだんわかってきたことですので。(ときどき、宗教的理由か?と言われることもなんかくやしい理由のひとつでした。私はたくさん薬を飲んでいるので酒も飲めないのですが、これも宗教的理由かと思われるのは心外なことです。ただ、お酒は、もともと強くもなければ好きでもないので、飲めないからと言ってそこまでくやしいわけではないというのがコーヒーと違うところですね。)これからは、おもてなしでコーヒーを入れていただいても断るという失礼をせずにすむ。これからは喫茶店に行ってもコーヒーを頼もう。一番安いブレンドコーヒーを頼もう。午後5時より前ならば!

 (※サムネについて。20年間、コーヒーを飲んでいなかったということは、こういうタイプのコーヒーも、飲んだことはないということです。みなさんがおいしそうに飲んでいるのを見ていただけ。そもそもスターバックスって、20年前にあっただろうか?私はスタバのコーヒーを飲んだことはあるのだろうか?)

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