人に頼らないことを自立と言うのではなく人に頼ることを自立と言う
数年前、ある私より若い牧師さんに、安冨歩(やすとみ・あゆみ)『生きる技法』をすすめられました。「自立とは依存することだ」というその本の主張を最初に聞いた私の反応は「変わったことを主張する人ですね」でした。
しかし、だんだん著者の言いたいことがわかってきました。助けてもらわないと人は生きていけないからです。「助けてください、と言えたとき、あなたは自立している」という安冨さんの主張もいまは非常に納得がいきます。北九州の奥田知志(おくだ・ともし)さんも、たくさんのホームレス状態にある人を「自立」に導いています。その奥田さんも「もっと『助けて』と言いましょう」とよく言っています。自立とは「助けて」と言えることであり、人に頼らないことを自立と言うのではなく人に頼ることを自立と言うのです。奥田さんも長年の経験から、安冨さんと同じような結論に達しています。
安冨さんの2016年くらいの、ある教会での講演会の講演録を読んだことがあります。エックハルトが出て来ました。エックハルトは中世の神学者です。岩波文庫の『エックハルト説教集』の冒頭に収録されているエックハルトの説教で、「善行を積んで天国に入れてもらおうとする人は、神と取引をする商人であって、商人はイエスが神殿から追い出すぞ」と言っているものについて語っておられます。つまり、自分の善行で天国に行こうとする人は自分の力で救われようとしている人であり、一見、自立しているように見えますが、実際には神に頼らないで生きようとしているわけです。エックハルトの言いかたでは「神と取引する者」です。「いいことをしたから天国に入れてよ」と言っているわけです。しかし、他者に頼って生きるのが人間の本質です。神に頼り、人に頼って生きるのが人間の本質であり、人に頼ることを自立と言うのです。「自立とは依存することだ」というのは本当でありました!
この『生きる技法』という本には弱点もあります。最も大きな弱点は、著者は経済的にも社会的にも恵まれた地位にあり、ほんとうの弱者からの視点が欠けていると思われる点です。たとえば「現代日本では、簡単に飢え死にしないから、怯えなくてよい」という主張などは、ほんとうに飢え死にする人が現代日本でもいるという現実をあまりご存知ないと言わざるを得ません。しかし、大筋でこの本の言いたいことは納得できます。自立とは依存することです。
その「自立とは依存することである」という命題を安冨さんは「小島=中村の原理」と呼んでいます。小島直子さんという重い障害を持った人が、その自伝のなかで、たくさんの人に依存することによって自立しているのを書き、それを中村尚司さんという経済学者が読んで、「自立とは依存することだ」と論文に書いたというのです。小島さんの自伝が2000年、中村さんの論文が2002年です。安冨さんのこの本が2011年です。しかし、このことに気づく人がつい最近しかいないわけではありません。さきに述べたエックハルトは中世の人です。安冨さんが「おわりに」で挙げている本のなかで『論語』があります。ただし、安冨さんは、従来の論語の読みかたは基本的に間違っていると書いています。それは小島=中村の原理から読んでいないからだと書いています。私は『論語』には詳しくありませんが、その代わり『聖書』をこの視点から読み直しています。私は、いままでの聖書の読みかたが「間違っている」とまで言い切ったりはしませんが、私の聖書の読みかたが、既存の聖書の主流の読みかたと少し異なるのは確かだと思います。(あまり聖書やキリスト教に詳しくないフォロワーの皆さんへ。私の聖書の解釈は主流ではありませんよ!笑)よく私は「あなたの聖書の読みかたはずいぶん自分に都合がいいんだね」と言われたりします。でも私が知っているのは、ほとんどの人は聖書を自分に都合よく読んでいるという事実です。どれほど偉大な学者でも、自分に都合よく聖書を読んでいます。だからいいのです。私は実際に自分が生きる上での知恵を、聖書からもらっています。どれほど聖書に助けられているかわかりません。
ほかに安冨さんはガンジー、グリューン、フロムなどの本を挙げたうえで、親鸞を挙げています。親鸞の「他力」という発想は、まさに人は助けてもらわないと生きていけないことの本質を言ったものであり、自立とは依存することであることを言っているようなものです。仏様という「他」の「力」に頼るのです。親鸞自身の著作は難しいけれども『歎異抄』は読みやすい、と書いてあります。私も『歎異抄』はすごいと思います。最後に安冨さんはマイケル・ジャクソンを挙げています。私はほとんどマイケル・ジャクソンを知りませんが、こういう思想を唱える人は、どの時代にも、どの世界にもいた(いる)ということでしょう。
この『生きる技法』という本の言いたいことは、自由も名声も富もないこの私がこのnoteに書いていることのほうがより「じょうずに」伝えていると思いますので、わざわざこの本をお読みにならなくても大丈夫です。私の記事をどうぞお読みください(笑)。クリプレ(クリスチャンプレス)に「発達障害クリスチャンのつぶやき」として載っているもののほうが、よい記事が厳選されていますので、効率よくお読みになれると思います。(リンクははりませんが、興味のあるかたはどうぞ検索してお読みくださればと思います。)ようするにこの本の言いたいことは「人に頼らないことを自立と言うのではなく人に頼ることを自立と言う」のであるということです。アーメン!(その通り!)
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