「むしのよさ」は宗教の本質

　最近、ある牧師（いままで出て来たどの牧師とも違います）の前で「お金より友達」の話をしました。たちまち「お金も大事だよ」という話になりました。この手の話をするときに気をつけねばならないのは、「お金より友達」と言ってしまうと、お金を軽視しているように聞こえる点です。私は決してきれいごとを言ったつもりはないのですが、難しいことです。

　「ゆだねる」ということを言って、「人間、そんなになにもかもゆだねてしまって、努力をしなくなってしまってはダメなのだ！」という説教を食らうこともあります。キリスト教で言う「ゆだねる」とは、決して「努力を放棄する」という意味ではないのですが、これもなかなかうまく伝わらないというか、誤解を招く件です。

　パウロも、しばしば自分の言説が誤解を招くことを承知していました。「では、何と言うべきでしょうか。律法は罪なのか。決してそうではない」（新約聖書ローマ７章７節）。この言いかたはローマ書に頻出します。一言で言うと、自分の言うことがあまりにも「むしがよく」聞こえるので、開き直っているように聞こえる可能性があることをパウロは重々承知していたわけです。

　最近、オンラインで関田寛雄（せきたひろお）牧師の説教を聴く機会がありました。関田牧師は９３歳になる超ベテランで、その最新の説教です。ひとことで言うと関田牧師は「誰でも救われますよ」と言っていました。誰でも救われる！なんてむしがいいんだ！しかし、これが宗教の本質なのです。

　（これはあるフォロワーさんのコメントで聞きましたが）浄土真宗のお寺さんの法話で「とにかくなむあみだぶつ（お念仏）を唱えさえすればよい」と言われるのもまさにそれであり、親鸞の教えは「なむあみだぶつ」と唱えるだけで極楽往生するというものだったわけです。むしがいい！でも、それくらい宗教というのはむしがよくないと、本当に困っている人ほど助からないという根本的矛盾に陥るのです。人間にはむしのよい教えが必要です。逆に自助努力ばかり強調する宗教というものは、にせものであると言い切っていい気がします。クリスチャンになって２１年がたちますが、まともな教会ほど、この「むしのよさ」を教えの中心にすえています。私みたく露骨に「むしのよさ」という言いかたをするところはあまりないと思いますが、でもそうです。（なぜ「むしのよさ」という言いかたはしないかと言ったら、私がこの記事でここまで書いてきているとおり、それは極めて誤解を招くからです。宗教の真理はいつも誤解を招きやすいのです。）

　「あなたはそのままのあなたでいいのですよ」という言葉ならよく聞く気がします。でも、これだってむしのいい教えであるわけです。変わらなくていいわけですから。とにかく「甘やかしてくれる教会」というのは本物です。

　私のこの小文も、だいぶ誤解されやすい内容だろうなあと思いながら書いています。だからこそ聖書を解説した「注解書」みたいなものは、極めて難しいわけです。親鸞で言えば親鸞自身の書いた「教行信証」みたいなものは極めて難しいわけです。しかし、言いたいことは極めてシンプルで、とくに「困っている人ほどスッと理解できる」内容なのです。最初のお金の話に戻りますけど「貧しい人々は、幸いである」（新約聖書ルカ６章２０節）と言われたら「お金は大事だよ」と言いたくなりますが、この言葉はそういうことが言いたいわけではないことは貧しい人ほどわかるでしょう。