ライネッケ、ブゾーニ、ニールセンのフルート協奏曲(ニコレ)
これは私がときどき書くクラシック音楽マニアックネタです。それでもよろしいというかたはどうぞお読みください。
いままで私はクラシック音楽オタクネタの記事と言いますと「やったことのある曲」もしくは「聴いた演奏会」の記事がほとんどだったと思います。「好きなCD」という記事が少なかったのです。これから、そういうマニア路線まっしぐらの記事も書きたいと思います。
オーレル・ニコレ(フルート)、クルト・マズア指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団による、ライネッケ、ブゾーニ、ニールセンのフルート協奏曲のCDを、十代のころから持っています。東大駒場キャンパスを思い出します。当時、私は東大オケの団員でした。ぴかぴかの東大生でした。
私のフルートの先生は、ニコレに習っています。ニコレに興味があって購入したCDだと思います。当時は、まだインターネットもそれほどなく、メールも携帯電話もありませんでした(私が駒場の1年生になったとき、全員に学生証番号に基づいたメールアドレスが配布されました。もともとEメールやインターネットは研究者の連絡ツールだったのです)。
このCDのジャケットは、フルートを吹くニコレの似顔絵です。メガネをかけて、フルートを吹くニコレの姿です。確かにニコレはこのようなシャツを着ていることが多いようです。これはおそらくオフのときのニコレと言いますか、「本番でないときのニコレ」だと思います。プロの演奏家というものは、燕尾服を着なければならない演奏会の本番以外は(反動で?)、私服がけばけばしい人も少なからずおられます。ニコレの私服はこんな感じが多かったと思います。このレコード録音の日は、おそらく演奏会じゃないでしょうから、私服だったと思います。よく描けているイラストです。
収録曲は3曲です。ライネッケのフルート協奏曲、ブゾーニの「フルートとオーケストラのためのディヴェルティメント」、ニールセンのフルート協奏曲、です。
このCDで、2人の仲間と話題になったことを覚えています。ひとりはフルートの仲間です。その人も(私の先生とは違うものの)「ニコレの孫弟子」でした。その人は、おそらくそのとき、ライネッケのフルート協奏曲を習っていたのだと思います。「ライネッケの協奏曲に関しては、ニコレもいいけれど、ゴールウェイもいいと思う」というようなことを言っていました。私は長いこと、ライネッケのフルート協奏曲はこのニコレのCDでしか聴いたことがありませんでした。
もうひとりは、フルートでない仲間でした。ショスタコーヴィチやシベリウスに詳しく、私も彼からいろいろな刺激を受けたものです。ニールセンも好きだった彼に、ある日、このCDを貸しました。彼は、ちょっと不思議そうにこのCDを見ました。そして、彼は3曲目がニールセンのフルート協奏曲であることに気が付きました。とにかく当時はCDでしか音楽が聴けない状況にありましたから、ニールセンのフルート協奏曲を聴きたくても聴けないのでした。彼は喜んで借りて行きました。ニールセンのフルート協奏曲は、ニールセンの6つの交響曲よりあとの作品であることを知っていて、喜んで借りて行ったのです。「ニールセンのいちばんいい時期の作品じゃん!」。それから30年が経過する2023年現在は、だいぶニールセンの交響曲なども演奏会で好んで取り上げられるようになりました。
私はこのCDを何度も聴きました。買ってから30年くらいがたつ現在でも、愛聴しています。
のちに、私のフルートの先生があるとき、レッスンで言いました。このレコーディングをしたときのニコレがどう言っていたか。「きみ、あのオケは最高だよ!」と言っていたらしいのです。「あのオケ」とはこのゲヴァントハウス管弦楽団のことです。確かにうまいです。これは1984年の録音です。ゲヴァントハウス管弦楽団は、CDで聴く限り、1960年前後はそれほどうまくありません。いまでも聴いているCDとして、ストコフスキー指揮による、ドビュッシーの「夜想曲」と、ラヴェルの「スペイン狂詩曲」がありますが、とくに木管がうまいとは言えません(ストコフスキーの指揮はさすがなのですが)。それから、コンヴィチュニー指揮のベートーヴェンの交響曲第2、第4番もCDで聴きましたが、やはりうまくないのでした。しかし、このニコレのCDにおけるオケ演奏はすばらしいものです。
この3曲のなかで、一般にも知られていると思われる作品は、まずニールセンでしょう。先述の通り、昨今のニールセン人気からしても、ニールセンの6曲の交響曲はだいぶ浸透して来ました。交響曲第6番についてストコフスキーがどう思っていたかについては、まだ記事にしたことがないと思います。いずれ記事にできたら、と思っています。ブゾーニの作品は、この3曲のなかで最も知られていないものだと思います。しかし、ニコレのインタビューで、ニコレがフルート・コンクールをやるとしたら、最終選考にこれを使いたいようなことを言っていたと思います。北京でニコレのフルート・コンクールが行われるようになる前の話です。
そして、私は博士課程の学生となり、25歳の大病を患い、楽器が決定的にへたになってしまいました。もうどのように練習しても前のようには吹けないのです。絶望の日々のなか、レッスンにだけは通い続けました。そのころ、先生から与えられた曲に、ライネッケのフルート協奏曲があったのです!長い年月をへて、ライネッケのフルート協奏曲を練習することになりました。それでも2000年代の話です。いまから20年くらいは前の話です。当時の教会を借りて練習していましたが、おそらくうるさかったのでしょう、主任牧師にも嫌われていました。いいですけど。
さて、演奏ですが、極めてすばらしいです。なかんずくニールセンのフルート協奏曲は、これを上回る演奏はなかなかないと思います。トロンボーンの下降グリッサンドがこんなに生きている演奏はなかなかないのです。発表会で、これの第2楽章を聴く機会があったかもしれないのですが、トロンボーンの下降グリッサンドって、ピアノ伴奏でどう表現するのでしょうね。
ライネッケは、あるオルガンの友人は「フルート業界作曲家」と認識していましたが、そうではありません。ロマン派のマルチな作曲家です。確かにこの曲と、フルート・ソナタ「ウンディーヌ」は有名です。しかしライネッケはピアノ協奏曲を4曲、書いていますし、それからたくさんのカデンツァも書き残しました。モーツァルトのフルートとハープのための協奏曲のランパルやラスキーヌの用いているカデンツァはライネッケによるものであり、また、ベートーヴェンの協奏曲のカデンツァなどもたくさん書いているようです。室内楽作品としては、オーボエ、ホルンとピアノのためのトリオ、クラリネット、ホルンとピアノのためのトリオなどが有名です(前者はヘルツォーゲンベルクに同じ編成の曲あり)。
ブゾーニは、バッハのピアノ編曲で有名な作曲家でしょう。バッハ=ブゾーニの「シャコンヌ」は極めて有名です。ホロヴィッツもバッハ=ブゾーニはしばしば弾きました(カーネギーホールのカムバックリサイタルで「トッカータ、アダージョとフーガ」を弾いたほか、自宅で「いざ来たれ、異教徒の救い主よ」を弾いています)。話に聞くだけですが、ブゾーニのピアノ協奏曲は、合唱の入る大規模な作品であるとのことです。余談ですが、「ライネッケ」は「きつねの裁判」を思い出させ「ブゾーニ」は「モンテ・クリスト伯」を思い出させます。ニールセンで思い出すこともあるのかもしれませんが、それは脱線が過ぎますので、このへんで。
ニールセンは、再評価いちじるしい作曲家であるようです。交響曲第2番「四つの気質」や交響曲第6番「素朴な交響曲」はいずれ記事を書きたい気持ちがあります。一般には交響曲第4番「不滅」や、交響曲第5番の人気が高いです。意外と交響曲第1番が好きな人もいます。協奏曲は、このフルート協奏曲のほか、クラリネット協奏曲、また、ヴァイオリン協奏曲があります。ストコフスキーが高く評価していた曲で「夢の古譚(ゆめのこたん)」があります。(夢の古譚のストコフスキーの録音が残っていないとはなんということ。)またニールセンには木管五重奏曲という傑作があります。その木管五重奏の団員さんのために、晩年に管楽器のための協奏曲を書く計画があり、このフルート協奏曲と、クラリネット協奏曲だけを完成させ、亡くなったわけですが。(同じようなくやしさとしては、サンサーンスが管楽器のためのソナタを書く計画を晩年に立て、オーボエソナタ、クラリネットソナタ、ファゴットソナタだけを書いて亡くなったということがあります。)フルート独奏のための「子供たちが遊んでいる」という作品もあります。ピアノ曲でも見るべき曲があります。
さて、このCDは、現在、入手困難のようです。少し入手しやすい同じ曲の別の演奏を紹介しますと、パユ(フルート)、イヴァン・レプシッチ指揮ミュンヘン放送管弦楽団のCDがムラマツで在庫ありとなっています(2023年8月1日現在)。リンクをはります。
ムラマツフルート|DREAMTIME: CD/DVD (muramatsuflute.com)
これは、ライネッケの協奏曲と、ブゾーニのディヴェルティメントの2曲が入っています。そのほかに、ペンデレツキの協奏曲、モーツァルトのアンダンテ(名曲です!いつかこの曲で記事が書きたいです)、ライネッケのバラード、そして、武満徹の「ウォーター・ドリーミング」が入っています。最後の武満徹の曲がまた名曲なので、これはおすすめできます。
それから、ニールセンのフルート協奏曲ですが、これも古いCDながら、同じくパユのフルート、ラトル指揮ベルリン・フィルのものが、本日、Amazonで在庫ありとなっているのを見ました。(情報が古くてごめんなさいね。私も、自分で持っているもののなかからしかおすすめができないものですから…。)このCDは、クラリネット協奏曲(ザビーネ・マイヤー)と、木管五重奏曲が聴けます。木管五重奏曲は、ザビーネ・マイヤーや、バボラクとの録音です。のちにパユは、このニールセンの木管五重奏曲を、レ・ヴァン・フランセで再録音しました。そちらは私もよく知りません。
では、かつてライネッケのフルート協奏曲で書いた記事のリンクをはって終わりにいたしますね。律儀にお読みになる必要はございませんよ。本日は「好きなCD」の記事でした。オタク話にお付き合いくださり、ありがとうございました。
https://note.com/316b421/n/ndd47ba8b5a17