ロストロポーヴィチの思い出
いまから、20年くらい前の演奏会の記憶を書きます。印象に残っている演奏会ですので。
私の友人の、アマチュアでフルートを吹いている仲間の先生で、当時、新日本フィル(新日本フィルハーモニー交響楽団)でおもにピッコロを吹いている先生がいました。その先生が、ショスタコーヴィチの交響曲第10番を吹くと言います。ショスタコーヴィチの10番と言えば、有名な交響曲のなかでは、ピッコロが最も活躍するものと言えるかもしれないものです。場所は、すみだトリフォニーホールでした。私は、高いチケットを買って、聴きにいきました。
指揮はムスティスラフ・ロストロポーヴィチ。プログラムはオール・ショスタコーヴィチで、前半がヴァイオリン協奏曲第1番(ソロはマキシム・ヴェンゲーロフ)、後半が交響曲第10番でした。
前半は、ヴェンゲーロフが極めてうまかったです。当時、非常に若く(こちらも若かったわけです。お互いにおじさんになってしまった)、体全体で表現しているようなタフな感じが、曲にあっていて、好ましく感じられました。
後半の10番ですが、さすがにピッコロの先生は、うまかったです。「破壊する」とまで前におっしゃっていたので、どれほどぶちかまされるのか、期待して行ったのですが、ずっとおとなしかったです。しかし、非常にうまく、すばらしかった。終演後、ロストロポーヴィチは、まっさきにピッコロを立たせたほどです。
ロストロポーヴィチは、ショスタコーヴィチの交響曲全集を完成させています。また、もともとチェリストとして有名で、外山雄三とショスタコーヴィチの2曲のチェロ協奏曲を日本初演しており、また、作曲家としての外山雄三に、チェロ協奏曲を委嘱し、初演しています(外山雄三指揮モスクワ放送交響楽団、ライヴ録音が残っています)。(外山雄三のチェロ協奏曲につきましては、生で聴いた経験を、「外山雄三を讃えて②」という記事で少し触れましたが、残念ながらリンクのはりかたがわからないのです。)そもそもショスタコーヴィチに作曲を学んだという経緯があり、ショスタコーヴィチのことを個人的によく知っているのです。同じ時代のロシアの指揮者、ムラヴィンスキーやスヴェトラーノフとはまた違うアプローチでショスタコーヴィチを演奏していました。ヴェンゲーロフと共演した録音もあります。このヴァイオリン協奏曲も録音があります。新日本フィルとは「フレンド・オヴ・セイジ」という肩書がありました(新日本フィルは、小澤征爾とのつながりが深いのです)。もちろんというか、ロストロポーヴィチは、かなり前に亡くなっています。
トイレで、大学オーケストラのときの、ある指揮の先生にばったり出会いました。その先生は、家でスコアを見ながら聴いていても寝てしまうので、よくこういう演奏会に来るという話は聞いていましたが、ほんとうに出会うとは思っていませんでした。
その日は、フルートの峰岸壮一さんの引退公演でもありました。峰岸さんは、旧日本フィルの時代から、ずっとフルートを吹いてきていました。この日は、ずっと2番フルートを吹いていた峰岸さんが、後半の交響曲10番で、1番フルートを吹きました。大学の先生の「最終講義」みたいなものでしょう。それで、偶然に、峰岸壮一さんのソロを聴く機会に恵まれたのですが、あまりいいとは思えませんでした。
私が聴いたのは本当の最終日ではなく、本当の最終日には、峰岸さんに花束が出たそうです。
新日本フィルは、相当、うまいオーケストラです。すばらしかったです。
そのピッコロの先生と、そのお弟子さんと、終演後に食事をする機会がありましたが、ロストロポーヴィチは、その交響曲の第4楽章で振り間違え、崩壊しそうになったと聞きました。客席で聴いているぶんには、まったく気がつかなかったのですが。
これが、私の、ロストロポーヴィチの思い出です。ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番を生で聴いた唯一の経験で(第2番は、あるアマチュアオーケストラで、荒井英治氏のソロで聴いています)、また、交響曲第10番は、ドミトリー・リス指揮ウラル・フィルの演奏で聴いたことがありましたが、完成度は、ロストロポーヴィチ新日本フィルのほうが高かったです。
なお、その先生と、そのお弟子さんの、発表会に行ったこともあります。その先生のパートナーさんは、ピアニストで、最後の夫婦共演の、シューベルトの「しぼめる花」変奏曲は、すばらしかったです。
以上です!
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