おすすめの曲:イベール「2つの間奏曲」
私もやったことのある曲で、おすすめの曲を挙げさせていただきます。イベールの「2つの間奏曲」という室内楽の曲です。フルートとヴァイオリンとピアノのための8分くらいの室内楽曲です。
はじめて生で聴いたのは、松岡みやびさんのリサイタルにおいてでした。松岡みやびさんについても、ひとつ項目を作って記事を書くだけの価値のある人ですが、松岡さんはプロのハーピスト(ハープ奏者)で、私の教会での友人であり、また、大学院の仲間でもありました。よく、牧師から招待券をもらって聴きに行っていました(チケットを買わないでごめんなさいね!松岡さん)。あるとき、チラシを見て、松岡さんがリサイタルで、神田寛明さんと共演することがわかりました。神田寛明さんは、N響のフルート奏者で、当時は2番奏者だったかもしれません。一度、生でソロを聴いてみたいものだと思っていたので、松岡さんのリサイタルにゲスト出演するのは、願ってもないチャンスです。さっそく牧師に招待券をもらって聴きにいきました。(ごめんなさいね!松岡さん)
神田寛明さんは、ものすごくうまかったです。ソロ(フルートとハープ)では、なにかドップラーの作品をやったと記憶しています。松岡みやびさんとは、音大時代に、モーツァルトのフルートとハープのための協奏曲をいっしょに演奏して以来の仲とのことでした。その日は、N響は、オール・モーツァルト・プログラムで、フルートはまったく出番がなかったので、こっちへ来られた、とおっしゃっていました。そのころ神田さんはお子さんが生まれ、お子さんの前でフルートを吹いても反応がない、というようなことを、おもしろおかしく語っておられました。
その日は、ヴァイオリンのかたもゲストとして参加しておられました。お名前を忘れて申し訳ないのですが、都響(東京都交響楽団)で弾いておられる女性で、その日も、朝比奈隆氏(指揮者)の練習があったと言っていました。朝比奈隆が生きていた時代ですから、このリサイタルの記憶が、かなり古いものであることがおわかりいただけるでしょう(少なくとも二十年以上前)。「ヴァイオリンとハープ」でも曲をやったはずですが、思い出せません(当時の日記を見れば書いてあるのでしょうが、残念ながら、私は日記を25年つけており、もうノート80冊以上となり、どこに書いてあるのか「検索」できないのです)。
そして、最後に、3人でやった曲が、イベールの「2つの間奏曲」であったのです。これが、この曲を生で聴いた最初です。
神田寛明さんは、ずっとのちに、この曲を、佐々木亮さんのヴィオラ(ヴァイオリンでなくヴィオラで弾いておられた。いろいろ編曲しておられる。この編曲がイベールに由来するものかどうかは私にはわかりません)、早川りさこさんのハープで弾いてCD録音されました。その演奏もすばらしいものです。また、早川りさこさんは、それだけで項目を立てるべき音楽家だと思われますが、それはまた、いずれ気が向いたらにいたしますね。そのCDには、「フルートとヴィオラとハープ」という編成の、有名な曲、すなわちドビュッシーの「ソナタ」や武満徹(たけみつ・とおる)の「そして、それが風であったことを知った」などのスタンダード・ナンバーが収められていますが、実は予想以上に「フルート、ヴィオラ、ハープ」という編成の作品は多いのです。
さて、松岡みやびさんについてはこのへんにしまして、つぎにこの曲を生で聴いたのはずっとのち、いまから5年くらい前だと思います。私のフルートの先生が、日本人ヴァイオリニスト、フランス人ピアニストと、演奏したのです。(この作品は、ハープのパートを、ピアノやチェンバロで演奏してもよいことになっています。)自分の先生で聴けたのは喜びでしたが、そのピアニストは、コルトーの弟子ということで、明らかに日本人のピアニストとはピアノの弾き方が異なり「これがフランス風のピアノか」と思った記憶があります。このころから、このイベールの「2つの間奏曲」のよさに目覚めていきました。
ついに、この曲を自分でやるときがめぐってきました。ヴァイオリンの仲間と、なにか演奏しようということで、私が提案したのです。めったに自分から選曲をしない(曲とも「出会い」だと思っている)私が、このときは、「これをやりたい」と自分から言いました。というのも、「フルートとヴァイオリンとピアノ(ハープ)」という編成の曲は、極めて少ないという現実があるからでした。(少なくとも、「ヴァイオリンとチェロとピアノ」という編成の曲(ピアノ・トリオ)より、ずっと少ないことは確かです。)しかし、夢の曲がついにやれることになりました。私は、25歳の大病を境に、フルートがへたになってしまい、べほべほの音しかしないようになってしまい、ほんとうにくやしいのですが、この本番は、奇跡的に、わりと調子よく吹けました。教会の仲間との演奏だったのですが、ヴァイオリンは教会の仲間、ピアノも教会の仲間ですが、ピアニストはプロでした。私のようなアマチュアが共演させていただくのはおそれ多いようなものですが、これが教会のよさなのです。
CDは昔から、1枚だけ、持っています。西田直孝(フルート)、山崎貴子(ヴァイオリン)、菅原朋子(ハープ)というCDです。このCDは、ハープの菅原朋子さんのリサイタル盤で、西田直孝さんは5曲の出番があるのですが、なんとヴァイオリンの山崎さんは、この1曲だけの出番であり、また、8分弱かかるこの曲は、このアルバムで、最長の長さでした。それだけでも、この曲にかける意気込みがじゅうぶんに感じられます。演奏もたいへんすばらしいものです。西田直孝先生は、「なかなか人をほめない」と言われている私の先生も、高く評価していた、非常にうまいフルーティストで、また、私のオーケストラ時代の仲間のフルートの先生でもありました。その仲間も非常にうまいので、西田先生の実力はいかほどかわかると思います。オーレル・ニコレ(世界的フルート奏者)の高弟であって、2016年にニコレが亡くなったとき、あらゆる日本の新聞が、ニコレの日本における一番弟子として必ず挙げていたのが西田直孝さんでした。西田直孝さんのリサイタルも聴いたことがあり、西田直孝さんだけでもひとつ項目を作る必要があるかもしれません。すばらしいフルーティストです。
さて、ようやく、この、イベールの「2つの間奏曲」について述べることになります。イベールは、20世紀フランスの作曲家で、近代フランスの室内楽、たとえばプーランクのフルート・ソナタやヴァイオリン・ソナタなどがお好きなかたには、喜んで聴いていただけるのではないかという感じの曲です。曲名通り、2つの部分からなっています。4分、4分くらいの割合で、前半はゆっくりした田園風の音楽(ヘ長調)、後半は、ちょっとエキゾチックな、スペイン風の音楽(ホ長調)です。この時期、フランス人で、スペイン風のエキゾチックな音楽を書いた作曲家はたくさんいます。シャブリエの「狂詩曲スペイン」、ドビュッシーの「イベリア」、ラヴェルの「スペイン狂詩曲」などなど…。これらはオーケストラの曲で、イベールの「2つの間奏曲」は室内楽曲ですが、いずれもたいへん魅力的です。
(余談ですが、ひとと会話していると、この曲をやったことがある(フルートとして、ヴァイオリンとして、ピアノとして)という人が意外に多いことに驚かされました。思ったより有名な曲なのですね。というか、やはり「フルートとヴァイオリン」という曲は珍しいので、自然とこの曲が選曲されるという流れでしょうか。)
演奏についてですが、私のおすすめは、上に書きました、西田直孝・山崎貴子・菅原朋子盤なのですが、いかにも入手しづらいと思います。神田寛明・佐々木亮・早川りさこ盤でもいいと思います(ヴァイオリンのパートをヴィオラで演奏していますが)。ちなみに脱線しますがこのCDに含まれるドビュッシーの「フルート、ヴィオラとハープのためのソナタ」「そしてそれが風であることを知った」は、ニコレ・今井信子・吉野直子という名盤があります。また、ドビュッシーのソナタでは、デボスト・メニューイン・ラスキーヌという名盤もあります。どんどん脱線して申し訳ございませんでした。本日は、イベールの「2つの間奏曲」という室内楽曲の紹介でした。以上です。
※以下は2023年6月11日の付記です。
まず、神田さん、松岡さんのリサイタルで聴いたときのヴァイオリニストは奥田雅代さんです。あとで当時のプログラムが出て来ました。
それから、この曲の生を聴いたことがあるのが、その2回だけではないこともわかりました。私の先生の演奏は、複数回、聴いています。これもあとからプログラムが出て来てわかりました。いい加減なものです。
そして、この西田盤の威力です!
いま、私は、この記事を書いたころからは想像もつかないような、算数・数学の個人指導の講師をしています。そのさい、時間調整で授業前に音楽を聴いたりします。その場合に、このイベールの2つの間奏曲はものすごく役に立つのです!8分弱の時間をはかるのに最適。嫌味のない音楽であるため、耳に残ったりせずに、気持ちよく授業ができる。そして、西田直孝先生のうまさ!普通、自分の演奏する楽器は気になるものです。クラリネットの人はクラリネットが気になり、ファゴットの人はファゴットが気になり、ピアノの人はピアノが気になる。ですから私はフルートが気になるはずですが、まったく気にならない!この曲に、ニコレやパユの録音はありませんが、そういうものと比較してまったく遜色ないと言えましょう。やはり私の先生の耳は確かでした。あれだけ同世代のフルーティストをほめない私の先生が、西田先生のことはほめていましたもの!
付け足しは以上です!