年末年始保守しぐさ売国小説最終話「流される星条旗2」
流される星条旗2
「日本を守る」。
そう高らかに宣言する青年・花崎佑介(はなさきゆうすけ)は、生まれ育った地方都市で市議会議員を務めている。実家は老舗旅館を営んでいるが、近年の経営不振は火を見るより明らか。
本来なら地元を盛り上げる施策を考えるべき立場なのに、彼はSNS発信にばかり注力していた。“保守の星”として名を売りたい――自己愛を満たすために必要なのは、派手な言葉と目立つパフォーマンス。それだけだ。
そんな彼に転機が訪れたのは、外務大臣との“表敬訪問”が叶ったときだった。
大臣室で交わした握手の写真を撮り、笑顔でSNSにアップする。表向きは「僕の政治活動を地元に知らせる」ための投稿だが、実はその写真が向けられた相手は別にいる。それは、中国の仲介者たち。
「外務大臣も動き始めました。ビザ緩和に向け、準備は万端です」
――写っているのはただの笑顔のツーショット。それが、一種の暗号だった。
外務大臣は大々的に中国からのビザ緩和を進める。中国側は観光客の誘致だけでなく、“円”を弱体化させる隠されたシナリオを持っていた。観光収入が命綱の事業者を増やせば増やすほど、結果として日本は外資に依存するしかなくなる。その先兵として、中国は裏で花崎を取り込み、彼を「保守の看板を掲げたままのスパイ」へと仕立てあげたのだ。
ふと気がつけば、実家の旅館は中国の旅行代理店なしでは客足が見込めない体質になっていた。
経営はギリギリ息を吹き返しているように見えるが、すでに中国の資金が不可欠な状態になっている。花崎は“地元を救った功労者”という体裁を整え、SNSのフォロワーにも愛国アピールを続けていた。しかし彼の顔が、以前のように明るくは見えない。
中国とのやり取りは増える一方で、彼の背筋を冷やすような指示も届き始める。「次はこの議案に反対しろ」「この人間に圧力をかけろ」。小さな市議の身分では扱いきれない、国内の安全保障にまで言及するような話が舞い込んでくるのだ。
それでも、花崎はやめられない。
実家の旅館を立て直すため。なにより、これまで得てきた“保守の人気”を失うのが怖かった。“星条旗”を振りかざし、「日本を守ります」と叫ぶほど、SNSの“いいね”は増え、自己肯定感も満たされた。だが、その旗印はすでに彼の手から離れ、いつしか大きな流れに呑まれていた。
やがて、彼を支援していた中国の仲介者たちも態度を変え始める。より影響力のある政治家に接近し、花崎への連絡は途絶えがちになった。地元の旅館も形こそ残っているが、ほぼ中国資本に実権を奪われている。気づけば、花崎は誰からも相手にされなくなっていた。日本の保守層からは裏切り者と疑われ、地元でも「口先だけの議員」と蔑まれ、中国側からも使い捨てられる。
そんなある日、花崎は車を運転中に不可解な事故に巻き込まれる。ブレーキの故障が原因とされ、なんとか一命はとりとめたものの、その後遺症で彼は政界からも、社会からもそっとフェードアウトせざるを得なかった。
鏡の前で、山積みの資料を放り出しながら、花崎はうわごとのように呟く。
「俺は……日本を……守るはずだった……」
だが、その声を聞く者はもういない。
SNSのフォロワー数は激減し、たまにコメントがついても「売国奴」の罵声だけ。実家の旅館は営業を続けているが、オーナーは事実上“別人”だ。数カ月前に撮った、外務大臣との握手写真が彼のSNSに虚しく残っているだけ。
そこに写る“星条旗”――強い日本のイメージを誇示していたはずの保守の象徴は、いまやどこへ流されていったのか、もはや誰にもわからない。
それでも彼は、SNSを開いては、誰も読まない文章を綴る。「日本人であることの誇りを大切に」「国益を守れ」――その投稿を、中国は読むこともなければ、日本の保守層も興味を抱かない。
流される旗を掲げながら、主人公の心だけが押し流されたまま、海に沈んでいくような孤独な余生が静かに続いていく。
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