推しがいた街



そんな行って何をするんだとよく言われるが、特に目的がなくてもついふらっと行ってしまう街が函館である。

飛行機で羽田から約1時間20分というアクセスの良さ。空港からもバスですぐに市街にでれるし、函館市内では路面電車が頻繁に走っているので足にも困らない。空港から乗り合いタクシーで一時間半かけてようやく市内にたどり着く某もう1つの推し地とは大違いである。わたしはあの夏みかんの香り漂う城下町が大好きで去年も行ったけど、萩岩見空港が島根にあることも、山陰本線が実質5時間に一本なのも未だによくわからない。

話が逸れたが、とにかく京都や大阪ですら新幹線で二時間以上かかることを考えると、函館はめちゃめちゃ近いと思うのだ。単純に飛行機乗ってる時間だけで言えば、都下に出るのと変わらない。

函館に行くいちばんの理由は「推しの終焉の地」というところではあるものの、実際それを抜きにしたって函館は良いところだ。人が優しく、皆のんびりしていて、その町並みはうつくしい。山も海も楽しめる魅力的な場所だと思う。観光地としても申し分ない。
ちなみに昨年は冬に二度、春に一度訪れた。何故そんなに冬ばかりと思うのだが、冬の函館は結構オススメだ。旅費もハイシーズンである春の半分くらいの値段で行けるし、とにかくどこもかしこも空いている。1月にもなると気温は当然のように0℃以下だが、死ぬほど防寒していけばどうにかなるし、道南なので北海道の中では比較的雪も少なく、吹雪で飛行機が運休するというリスクも殆どない。
なにより、冬は雪景色を見られるのが良かった。雪国の人からすればさほど珍しい風景でもないのだろうけど、塗りつぶしたようにどこまでも真っさらな雪原や、陽の光を受けて溶ける氷柱など、関東では見られない景色がたくさん楽しめる。冬の函館の、何もかも白い風景がわたしは好きだ。さみしくて、透明で美しい。
(まあこれが吹雪までいってしまうと困るのだけど)(not雪国の人間は軟弱なので、多少の吹雪ですら死ぬんじゃないかといともたやすく絶望する)

前置きがまた長くなってしまいましたが、去年の暮れタイミング良くクリスマスに函館に行くことができたので、締めくくりにその時のレポを書いてみようと思った次第です(年内間に合わなかった)

冬の函館はいいぞというPRと歴史の偉人に対するクソデカ感情を好き勝手言ってるので、気分を害されたらすみません。

というわけで、ひょんなことから、歴史好きのお友達と一緒に函館に行くことになった。
函館と言えば五稜郭が有名だが、このシンボルともなる五稜郭タワー、冬の時期は「ほしのゆめ」という一部の人間には非常に刺さるエモーショナルイベントを開催している。夜になると星形の五稜郭公園のお堀に、2000個のライトが灯される。めちゃめちゃ綺麗だ。

タワーの中には光るクリスマスツリーも飾られていて、願い事を書いて飾ることが出来るようになっている。さすが西洋城塞。イベントも和洋折衷である。
なお、この時期に展望台に昇ると、イルミネーションに照らされぼんやりと光る土方歳三が見られるという貴重な体験ができる。光に包まれながら微笑む土方歳三という儚くもシュールな光景を是非見て欲しい。
イルミネーションを背景に土方歳三(銅像)と写真がとれるのなんておそらく全国で五稜郭だけだろう。ちなみに一階には榎本武揚の銅像もあり、わたしは当然のように腕を組んで写真をとって貰ったのだが、クリスマスに推し偉人とツーショットを撮るという貴重な体験が出来るのも箱館ならでは。感無量だ。来てよかったと思う。

さっきも書いたが、冬の函館は人がいない。助かる。

わたしたちが訪れたちょうどその前々日だかに雪が降ったらしく、五稜郭公園の地面にはほんのりと雪が積もっていた。堀にはそこそこ厚い氷が張っていて、昔ここで函館氷(別名五稜郭氷)なるものをビジネスにしていたのもうなずける。雪化粧された函館奉行所白はとても綺麗で、うかれて同行者の友人と雪だるまを作った。
箱館奉行所は中が見学できるようになっていて、冬に来ると雪の庭が見られて大変趣がある。畳は冷たいが、一部床暖房が入っているので温かい。興味がある人なら、奉行所とタワーだけで結構な時間を潰せてしまう。特にタワー展望階にあるパネルとジオラマは相当に見応えがあり、ここに書かれている幕末の流れは何度見ても勉強になるので幕末好きは是非。あと漫画が可愛い。
そんなわけでタワーはイルミネーションを見るため夜に上ったのだけど、その帰りに使ったタクシーの運転手さんが講壇家かってくらい話上手でめちゃめちゃに良かったことも書かせて頂きたい。ホテルに帰る途中、今日までやってるという赤レンガ倉庫の名物クリスマスツリーにも寄って降ろしてくれて、おかげで雪の中めちゃめちゃ立派なツリーを見ることができました。ありがとうございます。人の優しさに触れられるところも旅の醍醐味ですよね。名刺も頂いたので、また機会があればぜひ利用したい。旅先で推しタクシー会社が出来てしまった。

函館はタクシーの運転手さんも観光トーク慣れしている方が多く、お話を聞いてるだけでとても楽しい。人によって話す内容が違うのもまた面白いところだ。
ちなみに、別の運転手さんは何故かめちゃめちゃに榎本武揚の悪口言ってて笑った。内容もさることながら、三回くらい人気が無いと連呼していたのが忘れられない。当の榎本があの場にいたらなぜここまで言われなきゃならないんだと抗議していただろうレベルだ。たぶんこの人絶対前世で榎本になにかされたんだと思う。
土方歳三に比べると確かに地味だが、結構おもしろいので興味があったらぜひ調べて欲しい榎本武揚。いいひとです。

夜のうちに雪が積もり、翌朝は一段と銀世界になっていてとても綺麗だった。函館の雪はふわふわしていて良いなあと思う。

友達は用事があって松前に行ったので、わたしは前から気になっていた亀田八幡宮に行ってきた。
亀田八幡宮は、旧幕府軍箱館政府の降伏の地とされる神社である。

明治2年5月17日、榎本武揚をはじめとする幹部四名がここで新政府軍の黒田清隆らと降伏会談を行い、およそ一年半に渡った戊辰戦争は集結を迎える。その会見じたいは非常に和やかだったとされていて、石碑にも『誓約後には冷酒がふるまわれ歓談した』と書かれている。降伏直後に敵の大将同士が飲み会を始める前例を聞いたことがないが、ここにいたるまで黒田が再三にわたり降伏勧告をしていた事を考えれば、その決断は彼にとって感無量だったに違いない。よかったな黒田。つまみの鰯を持参したのはきみか。飲む気満々だな。
神社自体は静かで綺麗な場所だった。その日は風もなく、松の木に積もった雪が音もなくはらはらと空を舞い、それが陽に照らされ光っていてとても綺麗だった。また来たいと思う。

合流までもう少し時間があったので、市立函館博物館へ行って戦友絵姿の写しも見てきた。
戦友絵姿とは、中島登が弁天台場幽閉中に描いた仲間たちの絵だ。26名の新選組隊士と旧幕府方の5名が描かれていて、近藤さんを除き全員が箱館戦争の戦死者である。

一人一人の来歴、活躍、そして中島による賞賛の言葉が記されている。ちょうど時期同じくしてこの戦友絵姿に関する記事を読んだのだが、学芸員さんが彼の絵を「下手だけど描き崩れがない。普通はこれだけの量を描けば後半につれいい加減になってくるものだが、そういったことが一切ない。絵としては素人だけど、一人一人思いを込めて描いたのが伝わってくる」と評していたのがとても印象深かった。死んでいった仲間たちに対する中島の思いが筆に現れているのだと思った。弁天台場で、彼が何を考え何を思いこの絵を描いたのか想像するとちょっと泣いてしまう。残しておきたかったんじゃないかなと思う。世間に何と言われようと、必死に生きた仲間たちの姿を。それが絵という形で今も残っているのことを思うと、胸がいっぱいになる。
見る機会があれば是非。


友人と合流して、東京に戻る前に駆け込みで函館山にも登りました。
日没が早いので、17時前には夜景が見れるのも冬の良いところだ。夏だと20時近くにならないとちゃんと暗くならない。

山頂にいくまでの間も函館市内を睥睨できるようになっていて、頂上はさらにすごい。さすが100万ドルの夜景と言われるだけあり、たくさんの街の灯が夜の海に浮かんで光る光景はため息が出るほどうつくしかった。150年前、ここから新政府軍が攻め込みドンパチやっていたのだと思うとしみじみしてしまう。この灯りは人の営みだと思った。ここから見る景色は、150年前にはなかった景色だ。平和になった世で、人が暮らす灯りなのだと思うと、なんとなく胸がいっぱいになる。

と、感慨にふけっているところでわたしは明治2年の箱館オタクなので、どうしても箱館山に登るたびによぎる偉人がいる。
箱館戦争の際、ここを自力で登ってきたのだという黒田清隆だ。
箱館山をロープーウェイで登ったことのある方はご存じだと思うのだが、反対側はかなりの断崖絶壁である。山と言うより崖だ。上から見てるだけでも怖い。これを登ってきたのだ。当然当時ロープーウェイなどないからもちろん自力で。

「黒田、ここ自力で登ってきたのほんとおかしい」

と友人も言っていたが、本当に薩摩人ちょっと頭おかしいんじゃないかなと思わざるを得ない(誉めてる)
当時の人が、断崖を登って責めてきた新政府軍を見て「あの時ほど恐ろしいことはなかった」と証言していたそうだが、300人の薩摩へこが突然崖を登ってきて一斉に勝ち鬨の雄叫びあげる様は本当にさぞ恐ろしかったに違いない。いろんな意味で。ビジュアル的に。敵兵が責めてきたとかそういうレベルを超えて。

結構帰りの飛行機がギリギリになってしまったが(日没直後のロープーウェイは上り下りで合わせて1時間くらい待つ)(五稜郭からの帰りに持ったタクシー運転手さんの名刺に救われた ありがとうございますもう絶対次回も使う)最後に函館を一望できて大満足だった。

函館に限ったことではないが、歴史の地を巡る旅行はやっぱり楽しいなと思う。
わたしたちは過去に行くことはできないが、何十年、あるいは何百年か昔、確かにこの場所で生きていた人達がいるんだということを感じられるのがいいなと思う。現代の人々の生活の中に、石碑や史跡がひっそりと溶け込んでいる風景が好きだ。歴史は繋がっているという言葉を、こういう時にふと感じる。

そういうわけで、今年もまたどこかへ行くことができたらいいなと思います。

去年ご一緒してくれた方々、楽しい時間をありがとうございました。ご縁があったらまた今年もよろしけくお願いします。

なお、今回泊まったホテルは函館駅近くにあるセンチュリーマリーナ函館というところだったのだけど、出来たばかりで新しく、最上階には展望露天風呂もあり、朝食バイキングは北海道グルメ全てここ1箇所で満喫できるほど豪華でかつお値段もリーズナブルなので観光の際はぜひ。

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