昔絵本作家になりたかった話(春コミ日記)
将来の夢が、絵本作家だった時期がある。
小さな女の子が花屋やケーキ屋に夢見るのと同じように、当時わたしの身近にあった「素敵なもの」の最たるひとつが絵本だったからだ。
あの頃のわたしにとって、お菓子よりも花屋よりも、絵本こそが「作ってみたい憧れのもの」の頂点だったのだと思う。
絵を描くのが好きだったこともあるし、空想も好きだったのもある。芸術的センスがまったくといっていいほど皆無だった我が両親が、世間的に言えばごくごくごく平均的な娘の絵を、天才のごとく褒め讃えたこともあるだろう。子供とは単純なのものなので、5歳そこらの私はそれなりにその気になった。まあ褒められるとホイホイ木に登る性格は四半世紀たった今も概ね変わっていないので、三つ子の魂なんとやらですが。
絵本という概念が好きでした。
あの普通の本より豪華な装丁で、ページいっぱいに鮮やかな色が広がる本は、わたしにとって何かとても特別なものだった。
成長してもう少し世の中を知り、字を覚え、絵よりもお話を書く機会のほうがはるかに増えてもなお、依然として絵本作りは私の憧れの位置にあり続けた。作る予定もないのに、漠然と憧れていた。
おそらくわたしにとって、絵本とは幸福な子供時代の象徴みたいになっていたのだと思う。物心ついてからいちばんはじめに触れた物語は絵本だったし、成長して絵本以外の本を沢山読むようになっても、小さい頃好きだったお話は忘れずにいつまでも記憶に残っている。
果たして成長したわたしは勿論絵本作家にはならなかったが、大人になってからは同人誌という存在を知った。
何事も見るよりやりたい派だったので、自分でも何冊か作った。そのうちA4の紙に何かしら印刷してふたつに折れば本ですと言うふてぶてしさすら持つようになったが、それでも依然、絵本だけは作れなかった。というか、自ら作ろうという発想がそもそもなかった。
あたりまえなのだが、絵本には絵が必要だからである。
もちろん絵を描けるか描けないかでいえば極論描けるが、残念ながらわたしは作画・わたしの絵本をまったく見たいと思わなかった。下手だからとかそういうことではなく、1ミリもそそられなかったのだ。そしてさらに残念なことにこの世界は、他でもなく自分さんが見たくないと言えばたとえどんなに素晴らしい同人誌だって生まれないのである。
前置きが長すぎて自分でもびっくりなんだけど、そのような中で今回、同人絵本の文章を書かせて頂くというご縁があった。生まれてはじめての体験だ。その話がしたい。
同ジャンルでとても好きな作家さんがいて、気持ち悪い程のストーカーをした暁に「いつかイラストに文章入れさせてください…」と図々しいことを軽々しく口にしたら、じゃあ一緒に絵本作りましょうと全然軽々しくないお返事かえってきたのだ。たしか去年の暮れ頃だ。
いきなりたいやきの真ん中とかアスパラガスの穂先だけを食べるみたいな贅沢が降ってきたと思った。
あまりにびっくりしすぎたので、
「ありがとうございます!ほんといつか都合が大丈夫な時……あっ、でも大好きな作品に文を入れるなんて想像だけで光栄すぎるので、やってみたいねーというお話止まりでも全然嬉しいので…;;;」※原文ママ
と急に怖気付きムーブ全開で保険に走ったお伺いにでたら、次の次のイベントくらいでどうでしょうとめっちゃ具体的な話がもどってきた。なんて????
ご存知の方はめちゃめちゃ分かると思うのですが現ジャンル、過去になく絵本と相性のいいのだ。そんな中でこのような機会に恵まれるなんて、なんだかもうほんとにタイミングとご縁とさまざまな人のやさしさが同時に降ってきた気持ちになってちょっと泣けてしまった。
以前推しカプの本があまりに欲しすぎて会議室でオンリーを開いた時にひとつ夢を叶えて貰ったと思ったけれど、まさか2度目があるなんで思わなかった。
ほんとうにすごく原稿楽しかったし、打ち合わせも楽しかった。何より、すきな絵に文章を入れさせて頂くのが、こんなに面白いのかと久しぶりに体感した。
会場でハードカバーの現物を見て、胸がいっぱいになった。つやつやの表紙と硬い手触りと、少し良い紙にあたたかな色。子供の時に見た、今も時々本屋に立ち寄って目にする絵本と同じだった。
そしてこのめちゃめちゃ可愛い表紙に、自分の名前がある。ほんと書いてある。えっすごい嬉しい…
当日(今日) は頒布しているちょうどお隣のスペースにいたのですが、隣から「かわいい!」という声が聞こえてくるたびに、我がことのように嬉しかったです。
いや本当に今回びっくりするほど何もしてないので偉そうなことは何一つ言えないのだけど( わたしがやったことといえば、お話と文章を送って、あとは打ち合わせで上がってくるラフイラストをひたすら可愛いかわいいと騒いでいただけでした)
本当にありがとうございます。ずっと作ってみたかった絵本を、こんなにかわいい形で、素敵な絵で、好きだったお話のオマージュで、文字を書かせて頂いたことが本当に嬉しい。ひとりでは絶対出来なかった。
好きなものを作れるっていいなと思いました。もう何度も思ってるけど、また思った。自分が作るにしても人が作るにしても、携わったものが形になるってこんなに嬉しいことはないなぁと。普段の仕事がモノづくりにミリも関わらないどころか遥か彼方に離れているからこそ、しみじみそう思った。
オタクがいつも元気で生き生きしているのは、好きなものを、おのおの自分の思う形で好きと表現できる場所があるからだと思った。そりゃみんな長生きもするしいつまでも素敵でかわいい。わたしもこのまま元気に頑張って437歳くらいまで生きたい。
最後にこれはまた私信になりますが、素敵な御本を出してくださったフォロワーさん、ほんとうにありがとうございました。
数十年越しのささやかな夢が叶った日でした。宝物にします。
イベントお疲れ様でした!他の本も今から読むのたのしみです。