記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

映画【ラストマイル】観賞レポート

はじめに

日頃はあまり書かないが、映画観賞レポートも書いてみようと思う。
そのくらい、映画「ラストマイル」は今年観た中で随一の衝動を自分に与えた。観賞中は展開の早さや俳優の豪華さ等も相まって、しっかり考えながら観る、ということはできなかった。しかし後から考察のようなことをしていくと、考えれば考えるほど、この映画のメッセージに、衝動に近い共感を覚えたのだ。

あらすじ等は他でもまとめているところが多いので、その辺はすっ飛ばし、ネタバレアリ・観賞済みの方に読んでもらえたら、くらいの思考整理メモになるので、ご了承を。そして、長いです。

※ネタバレ満載なので要注意!!!

エンターテイメント観点

まず話題となっている要因の一つ「MIU404」と「アンナチュラル」と繋げているシェアードユニバースというポイントだ。
なんと言ってもキャストの豪華さ。ドラマ2本分のキャストだけでも豪華なのに、「ラストマイル」としてのメインキャストも、満島ひかり・岡田将生演じるエレナ・孔コンビを筆頭に錚々たる面々が集結している。
前半部分は、そんな俳優陣が、事件・調査の過程でこれでもか、と続々と登場していく。過去2本のドラマのファンとしてはたまらない展開だ。しかも、たまにある主人公だけ登場、とかではなく、周辺キャストも満遍なく登場してくる。

特に「アンナチュラル」との絡め方はよかった。さらに、窪田正孝演じるロクローも医者になって成長していたり。メインストーリーとの絡め方もザ・「アンナチュラル」。終盤に、石原さとみ演じるミコトが「じゃあ、このご遺体は…誰?」と展開されるのは、まさにで、驚嘆と喜びが混じり合った。
後から色々確認すると7話「殺人遊戯」のいじめられっ子の生き残りだった望月歩演じる白井がバイク便役で登場していたりと、あまり過去作を見返さずに(とはいえ、過去に2,3周はしてるのだが)観たので、見返してから2回目を観ても発見がありそうだ。

一方「MIU404」の登場の仕方はとりあえず出した感が否めなかったのが残念。それでも星野源・綾野剛演じる志摩・伊吹コンビ筆頭に、観れたことは嬉しかった。メロンパン号も登場しててよかった笑
こちらも後から知ったが3話「分岐点」より前田旺志郎演じる勝俣が陣馬の新たな相棒として登場している。
本当はラストの親子を救うシーンはMIUコンビ2人の役目だと思うが、火野正平・宇野祥平の宅配便親子が活躍することとなる。

そして、個人的に触れておきたいのは「アンナチュラル」→『Lemon』、「MIU404」→『感電』に続く、テーマソング『がらくた』での「米津玄師」の起用だ。
素敵な楽曲であり、映画館で観るエンディングとしても感動したことは勿論、この後書く観点から見ても、『がらくた』という曲名は考える程に深く感じられる。

総じて、こういったエンターテイメント観点としては、かなり頑張った映画と評価できるのではないかと思う。

ヒューマンドラマ観点

個人的に1番感動した要素は、宇野祥平演じる佐野亘と元々勤め先の倒産してしまったヒノマル電機との関係性だ。
序盤で、仕方なく父の運送業を手伝うが冷め切った佐野に、唯一熱が籠ったのは「耐熱性が高い部品を使ってて…いい製品なんですよ」と洗濯機の説明をする場面。これが伏線であり、最後の場面、巡り巡って佐野の命をこの洗濯機が救う。ここだけ切り取ると王道ではあるが、想いの籠った会社から倒産というある種"裏切り"を受け、かなり絶望していた佐野亘の熱や想いが思わぬ形で、"救い"としてふと現れるのだ。
こういった、言ってしまうと"普通の"人、の熱量や想いが、届く・報われるような瞬間には、めっぽう弱いらしい。自分も凡人ながらに頑張って生き続けるのは辛い時もあるが「もう少し前を向こう」と頑張れる気がする。

映画の内容的に、光るのは、エレナと孔の2人のシゴデキかっこよさなのだが、いわゆる末端の凡人である佐野亘が、ラストの瞬間に被害者親子にとって、1番のヒーローになっているのは、個人的にこの映画の好きなポイントの一つだ。
やはり"現場"というのはいいな、と考えさせられるが、世の中的に給与・待遇が良いのは、1番遠いマジョリティの統括者側だ。これは資本主義における、人にとっての仕事への熱量と現実という、永遠の課題なのでは?と思う。
だから、タイトルは「ラストマイル」なのか、と個人的に腑に落ちた。

同様にして、阿部サダヲ演じる八木が、頑張りながらやさぐれる姿も、共感させられた。

ミステリー観点

ミステリーとしては、ある種王道スタイルだった。
とはいえ、簡単にこのように言えるのも、野木亜紀子脚本の賜物だろう。王道スタイルにすらなれない作品が多くある中で、辻褄の不自然さも無く、先述のエンターテイメント性を発揮しながら、この王道ミステリーの流れを、綺麗に作り上げていることには、頭が下がる想いだ。
「アンナチュラル」や「MIU404」のドラマ脚本では、ヒューマンドラマが主軸で、ある種「犯人誰?」のミステリー要素は減らされていることが多かったと思う。しかし、今作は、映画の尺を最大限に活かし、しっかりとミステリー観点も完成されている。
「犯人誰?」→「昔の勤務者?恋人?」→「まさか主人公犯人?」→「やっぱり恋人か?」→「最初の被害者が犯人か!」という、予想はしやすかったものの、この綺麗な展開で面白く描き切ることは、意外と難しいのでは、と思う。
「よくあるミステリー構成」で片付けることもできるとは思うのだが、個人的にはこの作品のこのシナリオは「よくある」で片付けたくないな、と思わせてくれるものだったと感じた。

社会問題観点

今作で1番このnoteを書いておきたいと思わされたポイントがコレ。
この作品の1番のテーマでもあっただろうと思う。
これほどまでに"Amazon"を槍玉に挙げて風刺したモノがあっただろうか。
(先に言っておくが筆者はめちゃくちゃAmazonユーザーである。否定したい訳ではない。)
先述の通り、世の中の待遇は、システム管理者の上位になればなるほど良くなる。ただ、資本主義の構造上、そこで1番大切なのは"数字"だ。稼働効率・売上といったものが最重要とされ、人の"想い"は二の次にされる。

今作でも大きな意味を持つ数字はベルトコンベアの搬送速度「2.7m/s→0」とその下に書かれた耐荷重量「70kg」。この"数字"の実現に消費されたのは、皮肉なことに、中村倫也演じる山崎と恋人の仁村紗和演じる筧の"生"である。
また、中盤では、"運送料150円/箱"も中盤で佐野親子の会話に挙がる。昭が旧友の運送業「ラストマイル」への想い入れを亘に話すと「でも死んじゃったじゃんかよ」の一言で一蹴される。
最後には、主人公のエレナですら、"損害160億円"という数字の基に、DAILY FASTを去るのだ。
どこまでもいっても数字の奴隷となっている。
こうして、企業はまた、いつもの日常に立ち返っていくのであろう。その象徴的ラストシーンでは、孔がこの数字に再度囚われていきそうな不穏な場面が垣間見えた。

ただ、これについて、実は今作で"仕事"に対しての象徴的なシーンはあれど、"消費者"の視点はあまり描かれていない。
作中でのマジックワード「Customer Centric」で消費者のため、がマジョリティ=見方を変えれば多くの消費者であるはずの"現場"を苦しめることが語られたが、さらっと流れていった。
もしかしたら「どうしようもない」ということなのかもしれないが、個人的にはそんな片付け方はしたくない、抵抗したい、と思う場面だ。
近年、SNSでは「安く抑えるには〜〜」「コスパがいいのは〜〜」と語られがちである。
ただ「安ければいい」は安易だと思う。一度立ち止まって「なぜ安いのか?」というリテラシーを持つ人を増やすことを考えるべきなのではないか。

在庫処分のセールなどは需要と供給から必要だが、定価がそもそも安いモノには、それなりの理由がある。必ずどこかで割を食ってる人がいる。
それは大量生産大量消費の波に呑まれた個人店や中小企業かもしれないし、海外で安い賃金で働かされる人かもしれない。
「自分には関係ない」といえばそうだろう。ただ、そういう人ほどその対象が自分になって初めて糾弾するのだ。時既に遅し「自分には関係ない」と言われる側になるのだ。
日本大不況の中、考えるべきは「どう安く済ますか」"だけ"ではなくて「安い理由はなにか、不況に加担してないか」を考えろと、この映画には言われている気がした。陰謀論とかに繋げたいわけでもないし、自分も、コンビニも100均もAmazonPrimeも便利だから利用はする。ただ少しばかりこういう事を考えるきっかけになり、そんな考え方が少しでも広がっていくと、もう少し日本の未来に光が差す気がする。
"価格"という数字の奴隷に成り下がってはならない。

また、仕事でも"売上"に追い詰められがちだ。
いちマネジメントの職務をする自分としては、"売上"という数字の奴隷になるのではなく(勿論大事ではあるのだけれど)"人"の想いみたいなモノを忘れないようにしたいと切に思う。

おわりに

TOHOシネマズ渋谷にて観賞

またとても長くなったし、途中説教じみた事を書いてしまったのだが、これは映画感想レポでありながら、自分への戒めだ。誰に見せつけたいモノでもないが、もし縁あって読んでくださった方がいて、少しでも共感が得られたら冥利に尽きる。

改めて、総じて、考えさせられる、感動させられる映画を観れたと思う。
読了感謝。

いいなと思ったら応援しよう!