10 ワークシートを考える。その2
前回は、「学びの地図」としてのワークシート(以下、WSという。)をどのように捉えているか?を思いつくまま書きました。
今回は、その2として、ある鑑賞の題材におけるWSを取り上げて、生徒が学びやすいWSの在り方を考えていきます。
① 学習内容への関心を醸成する
WSのⅠの学習は、ニックネームがついている作曲家の代表作を少しずつ聴きながら、音楽史上の役割や特徴を表にサラッとまとめる学習です。
【訂正!】赤の文字は、生徒が記入する内容ですが、ヘンデルは「音楽の母」でしたね…「交響曲の父」と呼ばれたのはハイドンでした。
そうこうしている間に、生徒の頭の中には、作曲家にも時代背景や個性による違いがあるという、題材全体の大前提を共有することができます。
この題材では、この学習の後、やや唐突ではありますが「オーケストラの魔術師」と呼ばれたラヴェルの写真を提示し、「ラヴェルからの挑戦状!私の作品を探せ!」というよう学習課題を突きつけます。ちなみに、対抗馬は「音の魔術師」と呼ばれたストコフスキーとなります。
こんな風に、扱う教材をダイレクトに扱わなくても、教材の周辺から知識と音楽の特徴とを合わせて思考していく場へと生徒を導くことができます。なお、ここでは作曲家本人からの挑戦状という形をとることで、RPGのイベント的な課題にして、音楽を聴き味わうことの必要感を持たせています。
② 情報を整理する
WSⅡとWSⅢの学習では、教材となる音楽(ムソルグスキー作曲 組曲「展覧会の絵」よりプロムナード)を聴き、聴き取った情報を整理していきます。
Ⅱの学習では、(ウン十年前の)ある高校生(もちろん島田ですけど)が書いた批評文と原曲のピアノ演奏をもとに、生徒はプロムナードの「楽曲の構造」について旋律を手がかりに理解します。
そして、理解したことをもとに、Ⅲの学習では、ストコフスキー編曲とラヴェル編曲を聴き比べ、それぞれに特徴的な内容と共通する内容をベン図に整理します。ここでは、主に音色が手がかりとなります。
③ 考えをまとめる(仮説を立てる)
WSのⅣの学習では、ⅡとⅢの学習をまとめる形で、ストコフスキー編曲とラヴェル編曲のどちらが原曲であるピアノの演奏の味わいに似ているか、自分なりの考えをまとめます。
この考えをまとめる部分は、鑑賞の題材のWSに多く見られる項目ですが、その昔は「感想をかきなさい」的なリード文や指示を与えるようなことがありましたね・・・コレ、イッコクモハヤクヤメマショウ。
得た知識や技能を生かして考えをまとめ、表現するという過程で、思考力、判断力、表現力等が醸成されていくわけですから、感想を書くことと、思考・判断したものを表現するということとは全く異なることです。このWSでは、ⅡとⅢの学習で得た知識や感じたことが思考・判断・表現の材料となっており、最後の最後に、「ちょっと自信がないのでよく分からないです(笑)」という、本当にどうでもいい感想が書いてあります。
しかしながら、このどうでもいい感想にも、ちょっとしたコメントを付けてあげるのも、生徒が安心して次の学習に進める「授業のテクニック」としてあります。特に、まとめる内容が個人の感じ方に依る「答えの定まらない問い」に対しての免疫がない生徒は、正解探しをしがちですし、こうしたところでヘルプを出すのです。予防的生徒指導というのか、何というのか知らないけど、まあ、正解探しをさせないためにも、こうした部分へのケアもしたいものです。やばい、文字数が増えてきた・・・
そうこうしていると、次のWSのⅤとⅥが見えてきました。
別のプロムナードを聴きながら、これまでと同じように、楽曲の構造を理解したり、音色や速度、強弱と曲想との関係についてまとめたりしながら、ピアノ曲とラヴェル編曲、ストコフスキー編曲との関係を検討していきます。
④ 考えをまとめる(新たな価値を創造する)
題材の終末に使用するWSのⅦはこのような感じになります。ラヴェルとストコフスキーという2人の天才による編曲を比べてきたわけですが、ラヴェルからの挑戦状に手紙で回答する形で、自分の考えをまとめる学習です。2つのプロムナードを聴き味わったことから、③でまとめた考え(=仮説)からより強固な理由を並べて、手紙をしたためています・・・かね?
⑤ 学びを振り返る
ま、いずれにしても、こうして題材の終末には、その生徒にとって新たな価値を生み出すようなまとめがあると、生徒自身が音楽を学んだ意義をメタ認知することにつながります。WSのⅧは、そんなことも意識できるよう、蛇足ながら敢えて振り返りの項目をつくりました。毎時間振り返らなくても、学びの区切りのいいところや終末などに振り返ればOKでは?と思います。
なお、このWSに赤字で記載したのは、基本的にB規準とする内容です。この内容よりも豊かに音楽を聴き味わっていると判断できるものにはAの評価をすればいいわけですから、B規準でWSの記述例を作成してみるのは、指導と評価の一体化の視点からも重要です。