優しかったオジサン(戦友)
私は、パチンコの海物語という機種にハマっていた時期があった。
その時の私は、極度のカド台信者(養分)だったため、海物語の決まったカド台でしか遊戯することはなかった。
私は、いつものようにその角台に座り、遊戯前に必ず買う缶コーヒーを横に置き、諭吉を投入し、ハンドルを握り、右を振り向けばいつものオジサンの顔がそこにはあった。
名前も知らないオジサン。
こんな平日の昼間からほぼ毎日いるオジサン。
なぜだかわからないが横にいて安心感を与えてくれるオジサン。
私の中ではそのオジサンも遊戯するうえでのデフォルトとなっていた。
そんなオジサンとも、とくに会話がある訳でもなくお互い干渉せず淡々と遊戯する日々は続いていた。
しかし、ある時のことだった。
私の台に魚群リーチが流れ、私は少し期待しながらそのリーチ演出を見つつハンドルを回し続けていたとき、そっと私の手をにぎっ…………違った。
ガバッと私の手首を掴み、
「イミないから!もったいないから!」
と、焦って私の遊戯を制止してきたのだ。
私は突然のことに動揺し、
「えっ!?なに?」
とだけ返すと、どうやら私は、保留満タンでずっと打ち続けていたらしく、オジサンさんはそれがどうしても気になっていたらしい。
当時の私は、そんなの関係ねぇのオカルト養分だったので、打つのをやめて当たらなくなるのが嫌だったのだ(そんなことはありえませんので絶対にやめましょう)
しかし、それをきっかけにオジサンとは少しずつ会話をするようになり、魚群が流れればお互いがお互いの当たりを願うようになり、当たれば自分のことのように喜び、負けているときはソッとコーヒーを置きあったりもした。
そう。もはや私たちは、
戦友なのだ。
そんな戦友との時間も気づけばお互いすれ違い気味になっていた。
私も、昼の仕事を始めたこともあり、平日はあまりそのお店にいく時間も減っていた。
パチンコ屋にいっても戦友とも顔を合わせることもなくなっていた。
そんなある日、終日パチンコ打ちきった次の日に寝坊をしてしまい、慌てて職場に向かったのだが、
当時、歩いていける距離に職場があったので普段は徒歩で出勤していたのだが、その日寝坊していたので車で出勤することに、
駐車場は会社が月極で借りていて、場所は訊いていたので、停めるのは初めてだったが、同僚の車も確認し、運良く一番カドに空きもあったのでそこに車を停めてギリギリ間に合うことができた。
そして午前中の業務を終え、昼食をどこでとろうか悩んでいると上司から電話がかかってきた。
「寸志、お前今日車だろ?」
「はい。そうですが」
「お前の停めたところ、ウチが借りているところじゃないぞ!」
「えっ?そうなんですか?!」
「おう、だから早く戻ってこい」
どうやら私が停めたカドの場所は、会社が借りている駐車場ではないらしく、その角を借りている相手方が相当ご立腹だと伝えられ、謝りにいくからすぐに戻ってこいとのことだった。
私は、急いで会社に戻り上司とその駐車場まで向かうことに。
やってしまったことは仕方ないので、ここはブチギレられても誠心誠意、謝るしかないと腹を括り、いざ駐車場までいったのだが、そこにいたのは
とてもご立腹の様子の戦友がいた
戦友の顔を見るのも実に数ヶ月ぶりだった。
まさかこのような形でまた相まみえることになろうとは。
開いた口が塞がらないとはこういうときに使うのだろう。
私たちの気配に戦友も気づきこちらを向く、そしてその時、私に気づき、戦友の怒りの表情が何とも言えない複雑な表情に変わっていくところを私は今でも覚えている。
戦友とは互いに会話もなく、上司が間に入ってくれ、私も謝罪だけはし、戦友も気まずそうに私の前から去っていった。
本当に申し訳ないとは思っているのだが、運命とはあまりにも残酷だ。まさかこのような形で戦友と再び出会うことになるとは。
それからも私は、いつものパチンコ屋のカド台に座っているが、私の横にいるのは知らないオジサンだ。