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211系(静岡車)更なる譲渡先はあるのか

211系。1985年〜1991年に製造され、JR東日本・東海の長距離路線に導入された形式で、静岡地区には1989年〜1991年にかけて5000・5600番台が導入されました。

315系0番台:211系を置き換えた

しかし、JR東海では近年老朽化によって、新型車両の315系による置き換えが進んでおり、2023年度末に名古屋口から撤退、そして静岡地区からも2024年度末をもって撤退することになりました。そんな中、以前から一部で「JR東海が地方私鉄に211系をセールスしている」との噂が飛び交っていましたが…。

まさかの三岐鉄道への譲渡

2024年3月20日の明朝。JR東海の211系5600番台のうち、静岡車両センターに所属していたシスSS2・SS3編成(3連2本)が、突如として静岡から関西本線の富田駅へ回送された後、三岐鉄道の電気機関車・ED45形と併結して三岐鉄道の線路内へ入りました。これにより、以前から一部の鉄道ファンにより妄想レベルで語られていた211系の三岐鉄道譲渡があまりにも突然に実現することになりました。

追って3月22日には、シスSS7・SS8・SS11編成(3連3本)も後を追って静岡から富田へ回送されたことにより、三岐鉄道への譲渡車は現時点で3連5本分ということになりました。

三岐鉄道三岐線の既存車両(全て元西武車)
・101系(元401系)・・・2連3本
・801系(元701系)・・・3連3本
・851系(元701系)・・・3連1本
・751系(元新101系)・・3連1本
     計・・・3連5本・2連3本

三岐鉄道には現在、元西武車の3連5本・2連3本分の三岐線用の車両が在籍しており、特に101系に関しては経年60年以上と老朽化が著しかったため、近年中の置き換えが見込まれていましたが、当の西武鉄道がサステナ車両と銘打って東急・小田急の中古車を買い出し、放出される車両も経年・仕様ともに適したものでは無かった他、JR東海沿線に線路を構えていて輸送費を抑えられることから、方針転換を図ったものと思われます。

三岐鉄道側も当初は言及を控えていたものの、4月19日の朝日新聞の報道にて「3月の譲渡分は15両」と認めた上で「ステンレス車は塗装の必要が無く、腐食にも強い。形式を統一した方が維持管理の効率化もできる」と、元西武車を全て置き換えて211系に統一する可能性を示唆するコメントを残しています。

現在、三岐線の運用は7運用ありますが、仮に3両編成に統一した場合、効率化などで5運用に削減できる状況ですので、予備車を含めると6〜7本は確保しておきたいところ。最近富田駅に居た車両が東藤原駅へ移動したようですので、追加譲渡があるか注目です。

(ここからは6/25 7:00追記)

…なんて話していたら。
2024年6月25日の明朝、シスLL1・LL9・LL11編成(3連3本)が追加で富田へ回送され、これで3連8本と、既存の元西武車と同じ本数になり、211系への統一が見えてきました。

(ここからは6/26 7:00追記)

更に、翌26日の明朝には、シスLL14・LL16編成(3連2本)も富田へ回送され、三岐鉄道への譲渡車は3連10本と相成りました。恐らく、2〜3本程度は部品取りになると見られ、界磁添加励磁制御・DC-DCコンバータと今後部品取りに困りそうな機器を搭載している中、10年以上の長期利用を見越した措置を取ったと推測できます。今後他社でも必要数以上の譲渡があった場合は長期利用を見越した措置を取ったと確認できそうです。

更に、これまで優先的に廃車が進んでいたLL編成を購入し、SS編成を6本分残す形となりました。SS編成で統一せず仕様が異なる編成をわざわざ購入したことや、東海沿線に6本分の老朽車を持つ中小私鉄が2社存在していることから、残るSS編成の今後に注目したいところです。

(ここからは7/1 18:20追記)

三岐線用車両譲受について
https://sangirail.co.jp/files/211kei.pdf

そして、とうとう月が明けた7月1日三岐鉄道から「211系を譲り受けた」と正式に発表されました。譲り受けた3連10本(30両)のうち、3連8本(24両)が営業用と発表されたため、部品取り車は3連2本分ということになりました。2024年度以降に必要な改造を施した上で順次導入し、既存の元西武車を全て置き換えるようです。

次の譲渡先はあるか?

211系は、20mの拡幅車体かつ1500Vの車両ですので、まずこの条件に適合する路線を持つ鉄道会社に一度は絞られます。

しかし、同じJR東海では、313系の初期車が約5年後に経年30年を迎える上、先日労組資料にて御殿場線の4両ワンマン化が言及されました。313系の初期車の置き換えもその数年後に始まる可能性がありそうです。

・御殿場線の4両ワンマンへの統一化(2027年〜)
→ 4両編成の315系の導入を示唆


・静岡地区で315系4両+313系2両の6両の組成が6/1にデビュー
→(313系の初期車が老朽化した)数年後に静岡に6両固定編成の新型車両を導入、315系4両を御殿場線へ転用?
→ 313系2両(シスK編成)が余剰→放出?

改造無しで2両・3両での走行が可能&VVVF車両で頑丈な設計という、20m車の縛りを加えなければ中小私鉄には願ってもみないスターの放出があれば、当然引っ張り凧になることは日の目を見るより明らかです。

それを踏まえると、211系を貰うのは以下の条件に当てはまる中小私鉄に限定されるでしょう。この条件下でリストアップしていきます。

① 導入費用を抑えたい(財政的余裕などの理由から)
② 置き換えが喫緊である(数年内の313系の捻出が待てない)
③ VVVF車の導入にメリットが薄い(検査体制等の都合から)
④ JR東海の沿線(甲種輸送で済むため輸送費が安い)


① 伊豆箱根鉄道 駿豆線

伊豆箱根鉄道駿豆線用の既存車両
・1300系・・・3連2本(経年45年、元西武新101系)
・3000系・・・3連4本(経年40年、鋼製車)

・3000系・・・3連2本(経年30年、ステンレス車)
・7000系・・・3連2本(経年34年、2ドアステンレス)

伊豆箱根鉄道駿豆線は三島〜修善寺を結ぶ路線で、三島駅にて東海道本線と線路が繋がって直通できる状態で、現在も特急「踊り子」で1日2往復の直通が行われています。従って、輸送面は三岐鉄道と同じく甲種輸送で済むメリットがあります。

1300系(画像はWikipediaコモンズより)
3000系 鋼製車(画像はWikipediaコモンズより)

当線で老朽化しているのは、1300系(元西武新101系)の3連2本・3000系の鋼製車の3連4本です。いずれも鋼製車かつ車齢が40年を超過しています。現段階で譲渡が無く残っているシスSS編成が丁度3連6本分あり、数自体は揃っています。

東京メトロ03系 譲渡編成一覧表

更に、長野電鉄・北陸鉄道・熊本電鉄・上毛電鉄に譲渡された東京メトロ03系のうち、上毛電鉄に譲渡された2連3本分の車両について、元々は3000系の鋼製車と同じ3連4本分を確保していた状況から、計画変更を匂わせる中間車4両+2連1本の解体を経て2連3本に減らした経緯があり、かつ当時伊豆箱根鉄道への譲渡が一部で噂されていたことから、同社への譲渡計画があり、後に撤回された可能性が極めて高い情勢です。3000系(鋼製車)の置き換えの他(沼津市でフェンシング競技が行われていたことから)時期的に東京五輪の需要をカバーする目的もあったものと思われます。

「HAPPY PARTY TRAIN」として「ラブライブ!」のラッピングを纏う
3000系(ステンレス車、3006F)・7000系(7002F)

また、211系と3000系(ステンレス車)・7000系の車齢に大差が無く、同世代の車両で統一できるという利点もあります。

しかし、車齢35年程度のステンレス車に統一してしまうと、今度は数年後に211系を含めた全ての既存車両の置き換えが再度必要になります。また、2020年に「踊り子」がE257系に置き換わった際に設備をVVVF車に対応させた過去があり、導入するならVVVF車の方がメリットが高いです。従って時期や条件に沿って決断を下すでしょう。

・鋼製車の置き換えが喫緊=211系をショートリリーフとして導入?
・313系の放出まで耐えられる=それまで待った上で一斉置き換え?

伊豆箱根鉄道 有価証券報告書 第146期
(https://www.izuhakone.co.jp/izu-group/izu_company/company_article/p000492_d/fil/group_yuhou_2023.pdf)

そんな中、2024年6月18日に、有価証券報告書が公表されましたが、今年度の設備投資計画に車両更新の名目はありませんでした。

大場工場の空撮写真(Googleマップより)

また、車両基地である大場工場は、急カーブとなっているためボルスタレス台車を持つ車両が入線できません。E257系が夜間停泊する際は修善寺駅で行うことで対処していますが、伊豆箱根鉄道の車両は大場工場で検査を受けなければならず、台車の換装は避けられません。ただ、将来的にはボルスタ台車に対応した方が車両選定も柔軟にできますので、車庫側を対応させた方が良い気もしますね。


② 養老鉄道

養老鉄道の既存車両
・600系(元近鉄車)・・・3連4本・2連2本(経年58年)
・7700系(元東急車)・・・3連3本・2連3本(経年58〜61年)

養老鉄道養老線は桑名〜揖斐を結ぶ路線で、桑名駅・大垣駅でJR東海の路線と接続しています。

600系(画像はWikipediaコモンズより)

当線で老朽化しているのは、600・620系(元近鉄車)3連4本・2連2本。こちらも鋼製車かつ車齢が58年となっています。現段階で譲渡が無く残っているSS編成が丁度6本分あり、数自体は揃っています。

7700系(画像はWikipediaコモンズより)

東急電鉄から7700系を16両譲り受け、3連3本・2連3本(+部品取り1両)に組み直してデビューさせたのは5年前のこと。経年こそ60年超えであるものの、1990年頃に車体・床下の修繕を行った為に「実質経年30年」と言えるほど状態は良く、VVVF(GTO)車であることも特筆されます。また、18m車ではありますが、養老線自体は20m車の入線も可能となっています。

しかし、7700系のストックは尽きたどころか、今後東急からは数年間は中古車が放出されない恐れがあることから、残る600・620系の置き換えを急ぐ場合は、他社の車両を購入する必要がありそうです。

211系であれば、非VVVF車という制限はあるものの「経年30年」の車両を購入でき、かつ輸送費を抑えられるメリットがあります。


③ 富山地方鉄道

富山地方鉄道の既存車両
【普通列車用】
・10030形(元京阪3000系、経年50年):2連7本
・14760形(自社発注車両、経年45年):2連7本

・クハ175(自社発注車両、経年43年):1両
・17480形(元東急8590系、経年35年):2連4本

【特急車両】
・16010形(元西武5000系、経年50〜54年):2連1本・3連1本
・20020形(元西武10000系、経年30年):3連1本

富山地方鉄道は富山県内に、本線(電鉄富山〜宇奈月温泉)・立山線(寺田〜立山)・不二越線(稲荷町〜南富山)・上滝線(南富山〜岩峅寺)の4つの他、富山ライトレールこと富山軌道線・富山港線を加えた6つの路線を構えています。

10030形(画像はWikipediaコモンズより)
14760形(画像はWikipediaコモンズより)

所属車両の中で老朽化しているのは、10030形(元京阪3000系)の2連7本・14760形の2連7本・クハ175(1両)です。いずれも鋼製車かつ車齢が43〜50年と老朽化が著しく進行しています。

213系5000番台(画像はWikipediaコモンズより)

こちらは、211系の2ドア版で、現在は飯田線で活躍している、213系5000番台が2連14本分在籍しており、数自体はピッタリ揃っています。

JR東海労働組合誌より(リンクは保護のため非掲載)

飯田線では、2026年3月から中部天竜〜天竜峡間でもワンマン運転が実施される予定で、213系はそれまでに撤退する可能性が極めて高い情勢です。

「鉄道事故調査報告書 富山地方鉄道株式会社 立山線 立山駅構内 列車火災事故」より
(https://www.mlit.go.jp/jtsb/railway/rep-acci/RA2013-5-1.pdf)

一方で、富山地方鉄道では、過去に立山駅で起きた床下機器の火災事故を受けて、立山線の岩峅寺〜立山間を冬に走る電車は、2M(2両すべてモーター)車に限定されています。213系は1M1T(片方は運転台のみ)車ですので条件に適合していません。しかし、先進的かつ強力なVVVF化改造を受ければ、条件が緩和されて1M1Tでも導入できるかもしれないために、入線不可能とは言い切れない状況です。ただ、213系にVVVF化改造をさせるよりは313系の放出まで待った方が良いというのも事実です。


④ 大井川鐵道

大井川鐵道の既存車両
・21000系(元南海車、経年60年):2連1本
・16000系(元近鉄車、経年55年):2連1本

・7200系(元東急車、経年60年):2両
・6000系(元南海車、経年50年):2連1本

大井川鐵道金谷線は、静岡県の金谷〜千頭間を結ぶ路線で、金谷駅では東海道本線と連絡しています。

21000系(画像はWikipediaコモンズより)
16000系(画像はWikipediaコモンズより)

所属車両の中で老朽化しているのは、21000系(元南海車)の2連1本・16000系の2連1本(元近鉄車)です。大井川鐵道は「走る鉄道博物館」という異名を付けられるほどレトロな電車の集団で、VVVF車の入線経験は未だありません。SLも相まって鉄道ファンが非常に多いです。

6000系 6905F(画像はWikipediaコモンズより)

2020年に南海電鉄より6000系の2連1本(6905F)を譲り受けましたが、譲受時の段階で既に経年50年を迎えている上に、4年たった今なお営業運転どころか試運転すら行われていません。土砂災害により一部区間で運転を見合わせていて必要な車両数が減っている点や、中古車を譲り受けても数年間は放置する前例から妥当とも言える動きですが「電圧数が足らずに走れない」という噂が流れるくらいには鳴りを潜めている状況です。

そして先日、いすみ鉄道→えちごトキめき鉄道と鉄道会社の社長を歴任した鳥塚亮氏が新社長に就任することが発表されました。実は鳥塚氏にはその地元に根付いた車両を譲り受ける傾向があり、これまでもいすみ鉄道でキハ28-2346(房総地区で電化前に活躍、2346も海水浴用の臨時列車で走行経験あり)、えちごトキめき鉄道で413系(北陸本線時代に普通列車で活躍)を譲り受けて急行列車として走らせた過去があります。

もし南海6000系を今後譲り受けない場合、地元・静岡で30年もの長い間活躍し、ちょうど引退を迎える非VVVF車の211系にターゲットを変える可能性は大いにありそうです。


⑤ 流山電鉄

JR東海沿線ではありませんが、意外と声が大きかったので番外編。流山電鉄線は、千葉県の馬橋〜流山間を結ぶ路線で、馬橋駅では常磐線と線路が繋がっています。

5000形(画像はWikipediaコモンズより)

車両は5000形(元西武新101系)2連5本。三岐鉄道751系・伊豆箱根鉄道1300系と同じ車両で、経年40年ほどの鋼製車。置き換え自体は行われても不思議ではありません。また、VVVF車の入線経験もないことから非VVVF車が好ましいでしょう。

ただ、拡幅車体の入線経験が無い点や、経営事情がとても厳しい状況という点を踏まえる必要がありそうです。

その他の参考資料
⚫︎Wikipedia
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E9%89%84211%E7%B3%BB%E9%9B%BB%E8%BB%8A

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E5%B2%90%E9%89%84%E9%81%93

http://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E9%A4%8A%E8%80%81%E9%89%84%E9%81%93%E9%A4%8A%E8%80%81%E7%B7%9A#%E4%BD%BF%E7%94%A8%E8%BB%8A%E4%B8%A1

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E5%AF%8C%E5%B1%B1%E5%9C%B0%E6%96%B9%E9%89%84%E9%81%93

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E4%BA%95%E5%B7%9D%E9%90%B5%E9%81%93

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E6%B5%81%E9%89%84%E6%B5%81%E5%B1%B1%E7%B7%9A

近鉄編成表 さま
http://fc2user018963ngd.wiki.fc2.com/m/wiki/%E9%A4%8A%E8%80%81%E9%89%84%E9%81%93600%E7%B3%BB

http://fc2user018963ngd.wiki.fc2.com/m/wiki/%E9%A4%8A%E8%80%81%E9%89%84%E9%81%93620%E7%B3%BB

東急編成写真・資料館 さま
東急7000系(1)・7700系 形式別車歴表
http://toqfan.com/2021/09/22/shareki/series/tokyu7000_1/types/


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