③JR北海道の中期経営計画について:「赤い星・青い星」・車両の動向
|JR北海道「中期経営計画」2026年度までの事業内容について|
JR北海道から先日公開された「JR北海道グループ 中期経営計画 2026」。
前回までの2回は「中期経営計画以降の事業構想」を解説してきました。
今回からはその資料内にある「2026年度までに予定されている事業内容」を解説していきます。
また、今回からは、前日に別途発表された「令和6年度事業計画」の資料の内容も併せて一部紹介しながら”考察抜き"でお届けします。
第3回の内容は「赤い星・青い星」・「車両の動向」の2本です。
その他の事業内容・事業計画は、④以降で解説しようと思います。
┆事業内容①:豪華観光列車「赤い星」・「青い星」┆
2024年を迎える40分前のこと。北海道新聞から爆弾級のお年玉が投下されました。
なんと、全道をぐるりと周遊する豪華観光列車を2026年4月から運行すると言うのです。
驚きも束の間、今回の中期経営計画の資料でその内外観が遂に明かされました。
「🟥・🟦」対極的な2色が映える新たな観光列車。
そしてこの列車のデザイン、どこかで見たことがあるような…?
そう!クルーズトレイン「ななつ星 in KYUSHU」を筆頭に、JR九州で走っている数多くの列車を手掛けた水戸岡鋭治さんがデザインされたんです。
実は、水戸岡さんがデザインした豪華観光列車が北海道を走るのは初めてではありません。
普段は伊豆半島を走っているクルーズトレイン「THE ROYAL EXPRESS」が、北海道を周遊するクルーズツアーのために、黄色いディーゼル機関車(DE15)と白い電源車(マニ50-2186)と一緒に、2019年から毎年夏の間だけ北海道にやってきます。
雄大な自然と新鮮な海鮮料理という武器を持ちながら、それまで全く設定されてこなかった「北海道のクルーズトレイン」の実現に、運行開始以降は毎年のように富裕層の方からの予約が殺到し、様々なプランが設定され、運行は毎回のように大盛況となっています。
そして、このロイヤルエクスプレスの好評を反映し、2026年度末までに改善策をまとめることを目指している、経営が難しい赤字の8線区、通称「黄色線区」(輸送密度が200人〜2000人の線区)を活性化させるべく、北海道を周遊する北海道専用のクルーズトレインを作ることとなったのです。
それでは、北海道新聞の情報と照らし合わせながら、列車を詳しく見ていきましょう。
🟥 赤い星(4両編成)🟥
🔴 夏〜秋にかけては「全道を周遊するクルーズトレイン」、冬〜春にかけては「流氷を楽しめる釧網本線の観光列車」として走ります。
🔴 グリーン車以上の位置付けで、北海道で最も豪華な観光列車になりそうです。
🔴 2026年にデビューする予定です。
🔴 座席は2人掛けと4人掛けのセミコンパートメントシート!
🔴 緑色の席にオシャレな木目調と派手な床…「水戸岡流豪華列車」の要素がふんだんに詰まった内装です。
🔴 定員は100人程度になる模様です。
🔴「RED STAR BAR(北海道新聞の報道では茶室)」がどこかの号車に設置されます。2人掛け・4人掛けのテーブル席やソファ席でくつろぐこともできそうです。
🟩「くしろ湿原ノロッコ」は引退 🟨
「赤い星」のデビューに伴い「くしろ湿原ノロッコ」は2025年の運行をもって引退するようです。流氷をトロッコ列車で楽しみたいという方、ご乗車はどうぞお早めに。
🟦 青い星(4両編成)🟦
🔵 夏の間は「ラベンダー畑を楽しめる富良野線の観光列車」、それ以外の季節は「道内各地(黄色線区?)を走る観光列車」として走ります。
🔵 普通車の位置付けで、様々な層をターゲットとした豪華観光列車になりそうです。
🔵 2026年にデビューする予定です。
🔵 座席は4人掛けのボックスシート!お子様連れのご家族・友人や学生のグループ需要にも応えてくれそうです。
🔵 木目調と派手な床はそのままに座席は青と緑の2色のものになっています。
🔵 定員は200人程度になる模様です。
🔴・🔵(共通事項) 4号車に展望室があります。
元はドアがあった部分にそのまま縦長の窓を配置するようで、雄大な自然を迫力ある展望で楽しめそうです。
🟪「富良野・美瑛ノロッコ」は引退 🟩
「青い星」のデビューに伴い「富良野・美瑛ノロッコ」も2025年の運行をもって引退するようです。ラベンダー畑をトロッコ列車で楽しみたいという方も、ご乗車はお早めにどうぞ。
「赤い星」・「青い星」改造前の姿は?
鉄道ファンから注目が集まっているのは「赤い星・青い星」に改造される車両です。
この車両は「キハ143形」という、1994年〜1995年に登場したディーゼルカーです。札沼線(学園都市線、札幌〜当別間)の車両として活躍し、2012年10月に電車に置き換えられてからは、室蘭本線の室蘭〜苫小牧間(1日1往復は札幌へ乗り入れ)に引っ越して、711系という ノロくてボロい 赤い電車を置き換えました。
しかしながら、2023年5月のダイヤ改正で「737系」という新型の2両編成の電車に置き換えられ、それ以降運用が無くなりました。前回述べた通り、北海道の古いディーゼルカーはH100形へ徐々に置き換えられており「キハ143形も引退か…」と考えられていました。
しかし、その通説は737系のデビューを前にしてあっさりと覆されることになります。737系の報道陣への公開の模様を報じたマイナビニュースの記事に「キハ143形に関して『別の活用用途を検討している』とのコメントも聞かれた」と書かれていたんです。
そしてこの当時から、私は「ノロッコの客車に生まれ変わるのではないか」と推測していました。「ノロッコ」は「電気式内燃機関車(DE10・DE15形)+客車(510系)」の一般的なトロッコですが、JR東日本の「風っこ」というディーゼルカーのトロッコが北海道で走ったことや、近年DE10形の置き換えが各地で進んでいることから、電気式内燃機関車を置き換えるように先頭に繋いで自ら走れるようなトロッコにするのでは…と推測していたのです。
そして、勘が鋭い方ならこう思ったかと思います。
ーー どうしてキハ143形とノロッコの客車を繋ぐと予想したのか。
実はこの2つ、関係が無さそうに見えてとても大きな接点があるんです。
それは「(元は)同じ50系客車である」ということです。
「まさか…!?」と驚かれた方、その通りです。
“ディーゼルカー” キハ143形の正体は、新品のエンジンとライトを付けた “走る客車” だったんです。
ーー そして「赤い星」・「青い星」に生まれ変わったキハ143形(元50系)は「ノロッコ」の客車こと510系(元50系)を “共喰い” することになったのです。
蛇足ですが、2012年10月に札沼線から電車に追い出された後、JR東日本へ譲渡されて岩手県の釜石線を走った「SL銀河」で、客車に“復帰”していたキハ141系700番台が、737系への置き換えとほぼ時を同じくした2023年6月に、客車の寿命を理由にSLごと引退してしまったのです。キハ143形以外(キハ141形・キハ142形)の床下類が昔のディーゼルカーのお古で寿命を迎えたことが理由だとされていますが、最終的に見た目はほぼ大差のない北海道のキハ143形と明暗が分かれた結果となりました。
┆事業内容②:車両の動向┆
車両面で示された事柄は以下の通りです。
また、2024年度の事業計画には以下の内容もありました。一つずつ紹介いたします。
① 733系4000番台の製造・721系の置きかえ
中計の資料には「721系車両の老朽取替に伴う」の前置きで2箇所に記述されています。それぞれ「733系増備に伴う編成定員の増加」、「新製車両の導入」です。事業計画の資料には「エアポート用電車の新製」とあります。
札幌圏向けの733系は2012年から製造され、普通列車用の0番台(3両編成)・快速「エアポート」用の3000番台(6両編成)の2つがこれまでに製造されてきました。
「ということは今回の増備は3000番台…?」という意見を覆す目撃が、製造を担う川崎車両の尼崎工場からありました。
「733系4000番台」なる車両が現れました。
3000番台との違いは確認の限り以下の通りです。
さらに、中計の資料内のカーボンニュートラルの方針の項目に「旅客案内表示装置のLCD化」とありました。ひょっとすると733系4000番台に搭載しているかもしれません。既存の733系にLCD化改造が行われるかも注目です。
721系は6連11本・3連21本が残っており、6連については今後は733系4000番台による置き換えが進むものと思われます。
また、733系関連ですと、1000番台(函館地区用の3両編成)が充当する、快速「はこだてライナー」のワンマン化を検討しているそうです。改造による変化に注目です。
②・③を解説するための前座
JR北海道は現在、液体式内燃機関車の DE10形1500番台を10両・DE15形1500・2500番台を12両保有し、活躍の場を3つ設けています。
しかし、1は前述の通り「赤い星」・「青い星」に置き換えられます。このあとの項目②では2を、項目③では3の置き換えを解説します。
② 電気式内燃機関車の製造
車両牽引の役割を置き換えそうです。また「2023年度 政府調達に係る部品の調達予定の公表について」の資料によると、予定数量は「3両」と記載されています。大幅に数が減るのは、赤い星・青い星と③のラッセル車への役割分担のほか、北海道新幹線の札幌延伸による在来線の大幅廃止・経営移管に伴う牽引機会の減少を見据えたものと思われます。
形式については、JR貨物やJR九州などで導入されている「DD200形」が有力とされています。前者は0番台、後者は700番台と振り分けられたことから、北海道向けにも個別に番台が振り分けられるかが注目です。
③ ラッセル気動車の増備
こちらは、2019年から製造され、現在は1両のみ在籍している「キヤ291形」の増備を行うと見て間違いないでしょう。実際に中計の資料にはキヤ291形の画像が添えられています。先述の画像の通り、予定数量は「6両」となっています。
「ラッセルヘッド」を持つ、DE15形2500番台の4両および1500番台を置き換えるでしょう。
④ 自社電気検測車の導入計画
検測車は、線路・架線・信号などの地上設備の状態をチェックするための車両です。代表例は東海道新幹線の「ドクターイエロー」でしょう。
在来線用の検測車ももちろんあります。最近では、JR西日本が(H100形と同じ)電気式気動車の「DEC741形」を導入しました。
JR北海道では、軌道(レール)検測用の客車「マヤ35形」を2017年に製造し、現在は前後に気動車を挟む形で検測しています。ここに将来的には、その他の設備を検測できる電気検測車を組み込み、総合検測車を構成することが計画されていることが、過去に「鉄道ファン」で明かされていました。JR北海道初の総合検測車の誕生は果たして実現するでしょうか…。
⑤ H100形の増備・キハ40形の置き換え
99両が製造予定のH100形は、遂に2024年度分の4両が最後の増備になりそうです。
48年間に渡り、北海道の非電化区間を支えてきたディーゼルカー「キハ40形」も(観光仕様車や道南いさりび鉄道車を除いて)2025年3月をもって引退する予定です。詳しくは前回の後半部分をご参照ください。
⑥ 重要機器取替(789系・キハ261系)/ ⑦ 充電設備設置(789系)
⑥の重要機器取替は、経年16年・走行距離300万kmを超えた車両に行う改造です。
キハ261系は、0番台の中で未施工編成であるSE-102・SE-103編成が対象になりそうです。
789系の方は、踏切事故により大破し、現在は苗穂工場にて修繕中のHE-106+206編成に修繕ついでに改造するものと思われます。1000番台にも波及するか注目です(HL-1007編成には既に施行されたとの情報もあり)。
このほか789系には充電設備の設置改造も行われる予定です。札幌〜旭川間や室蘭本線の特急にコンセントが付く日も近そうです。