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抗がん剤による脱毛について知ろう!〜脱毛の頻度といつ回復するのか〜

抗がん剤による脱毛はほとんどの患者にとって最大の関心ごとであり最悪の副作用です。しかし、脱毛について医師に質問しにくい患者さんも多いのではないでしょうか。ここでは化学療法に伴う脱毛について解説します。


このnoteはこんな方におすすめです。

・抗がん剤による脱毛について知りたい方
・脱毛がいつ出現するのか、どのぐらいで発毛するのか知りたい方
・脱毛を予防する方法、ケアのエビデンスを知りたい方
(頭皮冷却法については別で記事を作成しています。)

このnoteで得られる知識を1枚で!

抗がん剤による脱毛による影響

抗がん剤による脱毛は、単なる外見上の変化にとどまらず、患者さんの心理状態や社会生活に深刻な影響を及ぼすことが報告されています。
Saraswatらによる、CIAを発症した179人の患者を対象とした研究では、101人(56.4%)が脱毛を化学療法の最悪の副作用と認識していました。
Saraswat N. Indian Dermatol Online J. 2019;10(4):426-430.

さらに、Choiらによる研究では、抗がん剤による脱毛が、乳がん患者における心理社会的な幸福感の低下、そしてうつ病の発症と関連していることが明らかになっています。
Choi EK. Psychooncology. 2014;23(10):1103-1110.

抗がん剤の選択の際にも、脱毛を起こすか、起こさないかで治療を選択される患者さんも多いです。

抗がん剤による脱毛の頻度と薬剤による違い

抗がん剤に伴う脱毛の発生率は、使用する抗がん剤の種類によって大きく異なります。一般的に、以下のような頻度が報告されています。

  • 抗微小管薬(パクリタキセル・ドセタキセルなど): 80%以上

  • トポイソメラーゼ阻害剤(アドリアマイシン・イリノテカンなど): 60~100%

  • アルキル化剤(シクロホスファミドなど): 60%以上

  • 代謝拮抗薬(5-フルオロウラシルなど): 10~50%

近年使用されることが増えている分子標的薬(ベージニオなど)や抗体薬物複合体(エンハーツなど)でも、一定の割合で脱毛が起こることが報告されています。
乳がんの周術期治療でよく用いられるパクリタキセル→ドキソルビシン+シクロホスファミドの組み合わせやドセタキセル+シクロホスファミドの組み合わせでは、使用されるすべての薬剤が脱毛を引き起こすため、ほぼ確実に脱毛が生じると考えておく必要があります。
さらに、CIAは頭髪だけでなく、ひげ、眉毛、まつ毛など、全身の体毛に影響を及ぼす可能性があります。
Wikramanayake TC. Curr Oncol. 2023;30(4):3609-3626.

脱毛の発生時期と進行パターン

抗がん剤による脱毛は、多くの場合、抗がん剤を開始して1~2クールが終了した時点(約2~4週間後)で生じます。

・朝起きたら枕に髪の毛がたくさんついていた。
・髪を洗うとたくさん抜ける。
という症状を聞くことが多いです。

脱毛の進行パターンには個人差が大きく、ある程度進行した時点で止まることもあれば、ゆっくりと進行し続けることもあります

脱毛は回復するのか?永久脱毛のリスク

脱毛の回復の度合いにも個人差があり、研究によって報告されている結果にもばらつきがあります。臨床的には、抗がん剤終了後数ヶ月で産毛が生え始め、中止後3~6ヶ月で多くの場合回復します。しかし、一部の患者では毛髪の再生が全く見られないか、部分的にしか再生しないこともあります。
抗がん剤終了後6ヶ月経っても毛髪の再生が見られないか、毛髪の再生が不完全な場合は、永久的な脱毛と診断されます。

Kangらによる韓国での研究では、ステージⅠ-Ⅲの乳がん患者61人を対象に、6ヶ月後と3年後の永久的な脱毛の発生率を調査したところ、それぞれ
6ヶ月時点:39.5%
3年時点:42.3%

であったと報告されています。
この結果は、約4割の患者さんが永久脱毛となるリスクがあることを示しており、脱毛が一時的なものではない可能性も考慮する必要があります。
Kang D. Oncologist. 2019;24(3):414-420.

脱毛の予防法:頭皮冷却療法の可能性

脱毛を予防する方法として、現在最もエビデンスが蓄積されているのは頭皮冷却療法です。頭皮冷却療法は、頭皮を冷却することで局所的な血管収縮を引き起こし、頭皮への抗がん剤の到達量を減らすことで、毛包へのダメージを軽減する予防法です。
複数の大規模臨床試験で、大まかに50-70%程度の脱毛予防効果が実証されています。
頭皮冷却法については、さまざまなトピックがあるので別の記事で解説しています。

脱毛の治療法:ミノキシジルの可能性と注意点

現時点では、確立された脱毛の治療法はありません。多くの薬剤が研究されていますが、その中でも最も研究が進んでいるのはミノキシジルです。ミノキシジルは、発毛剤(リアップなど)にも含まれている成分であり、血管拡張作用により毛包への血流を増加させ、毛髪の成長を促進する効果が期待されます。
パクリタキセルなどの抗がん剤後の脱毛に対して、外用ミノキシジルの有効性を示す研究報告もあります。
Freites-Martinez A. JAMA Dermatol. 2019;155(6):724-728.

しかし、抗がん剤使用中は、ミノキシジルの血管拡張作用により抗がん剤の効果が頭皮で持続してしまう可能性があるため、使用は推奨されません抗がん剤治療が終了した後に、主治医と相談の上、使用を検討することが望ましいでしょう。

まとめ

抗がん剤による脱毛は、患者さんのQOLに大きな影響を与える重要な問題です。発生頻度は薬剤によって異なり、永久脱毛のリスクも存在します。
いつ頃ウィッグを用意するか、頭皮冷却をするか、などの意思決定をする際にこの記事が参考になればと思います。医師だけでなく、化学療法室の看護師さんや病院内の理髪店の方は多くのノウハウを持っていることもあり、聞いてみるのも良いかもしれません!

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