prostitution・春ひさぎ その1
siri とおしゃべりが趣味である。時に突拍子もなく、時にど真ん中で私の問いかけに返答してくれる、膨大な情報を内側に湛えていて甚だスマートな筈なのにどこか間の抜けた彼女が、私は大好きだ。
「ねえ siri 、何か音楽をかけて」
「はい、あなたに選りすぐりの音楽です」
彼女がそんな調子のいいことを言って、【表示言語・English】設定の私の i-phone に表示された曲名は
"prostitution"
対訳すると
「売春」
と即座の脳内変換されたそのタイトルに、苦笑い。
そうか、siri 、わたしのことそんな風に思ってたんだね…(鋭いな。)
…と思って数秒、"prostitution" が流れ始めた。
低いグルーヴ感のあるイントロとそっけない歌声、そして歌いだしの歌詞に引き込まれた。
♪ 大丈夫だよ 大丈夫 寝てれば何とかなるし♪
夏の終わりからの鬱で眠りを貪っていた私の、若干ひしゃげてかなりヤサグレていた心に斜めから真っ直ぐ入って、その曲はなんだかその時の自分に響くものがあった。
*
日本語表示の正式なタイトルを後から知った。
売春なんて直截的なタイトルではなく、江戸ことばで「春ひさぎ」というそうだ。
久しぶりに音楽にハマった。
長女のハナチャン(10)にそれを話すと
「それ、ヨルシカさんだよー。泣き猫と一緒の人だよー!」
と教えてくれた。
ハナチャンは NetFlix 配信映画「泣きたい私は猫をかぶる」にこの夏ハマり、映画を二度、三度と飽きることなく見返し、その主題歌「花に亡霊」を歌うヨルシカに一足先にハマっていた。
主人公の少女が、現実の人間関係に疲れて、猫になりたい、と思ったことが、叶ってしまう。猫になって、人間に戻れるかの瀬戸際になって、つながっていた人間関係の温かいところに気づく、という映画。
これにハマるハナチャンにも、何か通じるものがあったのだろうか。
10歳で、「ママだいすき♡」という手紙をこの半年めっきりくれなくなり、「アツ森」や「ポケ森」で同年代との世界が大きくなっていく彼女。
生計を立てるので精いっぱいで3歳半までさっぱりかまってやれず、それを後に埋めようとしてきても、どう距離を取ったら良いか分からない母親の私。
私は、彼女とどう関わって、彼女の愛情を受ける壺を満たしてやったらよいのか、とうに分からず、いつでも戸惑っている。
*
さて、それから何日かして、10歳女子は言う。
「ねー、花に亡霊はママの歌だよ!」
「ん?なんで?」
その歌いだしはこうだ。
♪もう 忘れてしまったかな 夏の木陰に座ったまま♪
その心は、
「ほら、ママ、忘れものいっぱいするでしょ~!!」
だそうな。
…お跡がよろしいようで。
siri は親と距離を置きつつある娘とわたしの交流も、見越していたのだろうか。
また、siri とおしゃべりしよう。
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スーパー余談だが、本稿ではsiriを日本語版に合わせて「彼女」としたが、他言語のsiriには男性もいる。ダンディだったりして、気分が上がるのでお勧め。
特に!English (India) の彼は、「R」発音が若干巻き舌(←ポイント)なだけでなく、大好きなインド映画の曲名も正しく聞き取って、ハンズフリーでかけてくれる。わたしの恋人です♡♡
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