🌎宇宙学校創世記🌎第０章　名も知らぬ遠き島より流れよる椰子の実のように。

　令和３年９月14日、奄美大島の農園を訪ねた。大島紬のふるさとであるその島の西南端にあるその農園は、さとうきび農園を中心に村づくりをしていることはもちろん、織に深い興味を抱いている私にとって、紡績が農と切っても切り離せない生業であるという点で、もろもろが根源で繋がるような気がして、その農園に足を運んだ。いや、運ばれた、と言ってもいい。その土地と深い縁のある人の手で。幸運なことに。その土地を愛して止まず、その土地の本来の姿が浮足立った意図で失われようとしていることに、心を深く痛めている人の手で。

　「ここで働かせてください。」

　だから、住むところと食べるものを分けてください。農について、学びたいのです――農園の、サイババみたいなおじちゃん、辰郎さんに、私は、そういうことを言うのだと、そこに運んでくれた太鼓の名手の山ちゃんは、後に空港のファミレスで私に言ったし、一緒に行ってくださった門脇さん――美しい意図を自然の造形物で具現化する達人で、ひと段落の一文の中では説明し切れない――も、私すら、そういう「つもりで」行ったのだと、意識上は、思っていた。

　そういう表面的な総意に反して、私の口から出たのは、

「織の村を創りたいんです、その前に、一冊、どうしても翻訳したい本があるんです。その本は、『いのちのじかんのまもりびと』というタイトルで…」

　だった。

　そうか、わたしは、翻訳をしなければならないんだ。

　農の勉強も、織の勉強も、したい、したくてたまらないけれど、今は、手元に既にやってきている『TIME WARRIOR』という本を翻訳するという仕事に、奉じなければならない。そういう、時期なのだ。季節を、その季節に応じて生きる。――現代社会で「まともな」大人に成長する過程で、そういうの、下手になっちゃうよな、わたしも、周りも。

　そんなことを想い、奄美の庵を後にした。

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　椰子の実の漂流は、実はその朝に始まった。

　えびので村を創ろうとしている男の子が居るのをSNSで知っていて、村づくりの意図に賛同し、手伝いをしてくれる人を募っていたので、奄美・加計呂麻の後に行きます、と連絡をしてあった。

　加計呂麻を離れる朝のフェリーの20分で、その村長のような妖精のような（と後で知る）男の子に電話をかけたら、

　「ゴメン、おれ、今、えびのにいないんだわ～！」と聞いて、一寸意識の表層で、面食らわなかったと言えば、嘘になる。その「のらちゃん」が、続けて、こう言うのだ。

　「青島でフリースクールを創ろうとしている人がいて、その人のところに今、居て、手伝ってるんだー❤その人もシングルマザーだし、お子さんもハーフで小５で、なんかぴったりな流れだなって思ってて。よかったらおいでよー！！♪」「学校の名前は、【宇宙学校】になりそうなんだ。」

　こうして、私は、その三週間前に一人で流れ着き自分を取り戻し、その一週間前に娘たち二人とお礼参りをした青島へ、三度、流れ戻されることと相成った。

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　奄美を飛行機で離れて、鹿児島空港へ着いたのが夜の八時近く。青島行きがその日の朝になって急遽決まった私たち親子三人を、一緒に加計呂麻へお役目に行った楽団のメンバーたちが宮崎へ帰る一台に乗せてくれ、かなり遠回りをして、運んでくれた。天幕の恩恵。「テント」に「おにぎり」に、この旅では、そういう有難い同乗の恵みに、何かと「さんかく」がついている。（そう、旅の一歩目も、わたしのうっかりがもたらした「さんかく」だった――このことは、またいつか書けたらいいなと思う。）

　青島のそのお家に着いたのは、23時も半刻程回った頃だった。家の住人――徳恵さんと息子さん、そして「のらちゃん」は寝静まっていた。事前のメッセージのやりとりで、「お布団引いて鍵は開けとくから、勝手に入って寝てて。明日の朝、会おう」と言ってくれていたから、暗がりに橙色の照明が照らす玄関のドアを、そうっと、開けた。

　月は上弦。藍色を深くしていって黒に近づけたような、夜だった。

　息を殺すようにして深い上がり框の三和土に靴を脱いで、小声でおじゃまします、と三人で小さな合唱をし、お家へ上がる。上がって、廊下を進み、台所を抜けて奥の右手の部屋に、お布団が並べて敷いてあるのを見て、手を合わせたいような気持ちになった。

　実際、手を合わせたかもしれない。

　聖書の詩編23を思い出す。

主は私の羊飼い。私は、乏しいことがありません。 
主は私を緑の牧場に伏させ、いこいの水のほとりに伴われます。 
主は私のたましいを生き返らせ、御名のために、私を義の道に導かれます。 たとい、死の陰の谷を歩くことがあっても、私はわざわいを恐れません。
あなたが私とともにおられますから。
あなたのむちとあなたの杖、それが私の慰めです。（詩篇23：1〜4）

　私のこころを、その３週間ほど前に、救ってくれた詩であり、場面であり、転機がもたらされた時に、そこに在った詩編。

　ここに、わたしは、来てよかったのだ、来ることを許され、導かれているような気がした。

　そうして、わたしたち三人は、静寂の布団に吸い込まれるように眠った。

🌎宇宙学校創世記🌎第０章　名も知らぬ遠き島より流れよる椰子の実のように。　　―おわり―

　緑の牧場「宇宙学校」の一週間でわたしのうち・そとで起こったこと、をnote マガジン「わたしがタイムウォーリアーになるまで」の一編として、編み編みし、まとめます。

　なぜ、まとめるか、というと、その過程が面白かったことと、こんな奇跡のようなことが実際に、一人の人間に起こる、ということをお伝えし、それがあなたが「いのちのじかん」を生きる方向へ舵を切るためのカンフル剤なり触媒なりとにかく何かの足しになれば…！との思いからです。

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