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「ポケモンレジェンズ アルセウス」は、史上もっとも“ハードボイルド”なポケモンに。
大昔のシンオウ地方を舞台に、謎の生物「ポケモン」の正体を解き明かすべく戦うゲーム、Pokémon LEGENDS アルセウス(ポケモンレジェンズ アルセウス)。
これまでずっと現代劇を描いてきたポケモンシリーズにとって、とてつもなく挑戦的な作品になっています。
その特徴をひとことで表現するなら、ハードボイルド。
いつになく凶暴なポケモン、どこかトゲのあるセリフ回し。
とことん甘さ控えめな世界観が、『レジェンズ アルセウス』ならではの魅力なんです。
「よそもの」扱いされる主人公
今回の主人公は、異世界から迷いこんできた根なし草の状態からスタート。
流れ着いたのは、現実でいう明治~大正時代。人間が、科学の力を使って身に余る豊かさを手にする前の物語です。
なによりもまず衣食住を確保するために、ヒスイ地方の開拓者が集まるギンガ団への所属を決めます。
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これまでのポケモン主人公は、家に帰れば必ずママが回復してくれるのがお約束でした。
ところが、ヒスイ地方ではギンガ団以外に頼れるものはなく、外は凶暴な野生ポケモンのナワバリ。「ギンガ団からの信頼を失えば明日の命も危うい」という現実が待っているんです。
そして『レジェンズ アルセウス』が斬新なのは、その現実をオブラートに包むことなく真っ向から突きつけてくること!
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同い年くらいの少年が本気トーンで「死ぬ」とか言い放つあたり、現代の私たちとは感性が違うのだと感じさせられます。
一方、ギンガ団が拠点とするコトブキムラの住人たちは、なんと主人公を歓迎してくれません。
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むしろ、「危険な生き物であるポケモンに恐れを抱かない人間」ということで異端児扱い。
逆風につぐ逆風で、私がこの物語の主人公なら たまったもんじゃない と思うところです。
ところが、「レジェンズ アルセウス」の主人公はこの逆境に文句を言うこともなく、淡々と職務を遂行していくことになります。
その姿はまさにハードボイルド。
新しいポケモンの主人公像が生まれた瞬間です。
危険なポケモンと、打ち解けるうれしさ
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そんなドライな作風に応えるがごとく、村の外に現れるポケモンとの戦いは命がけ。
手持ちポケモンが無事でも自分がやられたらアウトというルールによって、野生ポケモンと向き合う 一瞬一瞬がスリリング。
一度味わうと、こちらも「ポケモンに対して容赦はできない」という気持ちになります。つまり、進めるほどに私たちプレイヤー自身もだんだんハードボイルドになっていくんです。
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今までのシリーズで、ポケモンに対して「屈服」なんて言葉を使ったヒトがいたでしょうか。こういう重みのあるセリフ回しも、「レジェンズ アルセウス」のハードボイルド感を支えるフレーバーになっています。
とはいえ、もちろんそこはポケモン!
物語とともに、主人公をとりまく環境も少しずつ変わっていきます。
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ポケモンの調査が進むと、人々もポケモンと共存するようになり、シリーズ経験者にとっておなじみの雰囲気に近づきます。
ヒスイ地方でポケモンを本格的に調査できるのは主人公だけ。
だからこそ味わえる、自分自身の手で世界が変わっていく感覚。たまりません!
わずかに秘められた感情
そんなわけで「レジェンズ アルセウス」は、エンディングが近づくにつれて少しずつハードボイルド感が薄れていく構成なんだ・・・と、途中まで私は思っていました。
なんと終盤にして、ハードボイルドが再び最高潮に達するんです。
この展開に、今回のシナリオの魅力が凝縮されていると思います。
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「感情」をつかさどるポケモン、エムリットを前に、主人公が直面したとある事件に対する気持ちを答えることになるシーン。
一見、感情を表に出すことは「ハードボイルド」と真逆であるように思えるかもしれません。
ところが、終盤になって自分の気持ちを少しだけ語ることによって、主人公はずっと感情を隠して戦っているというのが、かえって強調されるんです。
ちなみに一連の事件中は、とある事情によって主人公が孤独な立場に追い込まれています。そんな中でのやりとりとあって、もうハードボイルドが極まっています。目が離せません。
まったく新しいポケモンの物語!
「レジェンズ アルセウス」は、いままで無かったポケモン×ハードボイルドというジャンルを見事に描きました。
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全体的に暗めのトーンを保っているからこそ、小さな心の動きや喜びがとっても印象に残る。
まるで、ヒスイ地方の星空のようです。
なぜかずっと居たくなる、不思議なハードボイルドの世界が、ここにはあります。