父を返せ!!【無料記事】
祖母の希望を私が簡単に説明すると鉄ちゃんは
「そりゃあ暫くは一人で頑張ってもらう事になるよ。施設だってそんなすぐに入れるわけじゃなし…」
と祖母に言い放った。
は??
施設に入れるの前提での話の様だ。
なんとなく分かった。
京都の叔父は鉄ちゃんからこんな風に施設に入れる話だけを聞かされているに違いない。
私や継母が他の選択肢も出している事は京都には伝わっていない。
祖母が生活保護を受ける事が出来れば金銭的にも負担が少なくなくなる等の話も鉄ちゃんにしたのに、そういった事は全て鉄ちゃんの所で止まっているのだろう。
「道は1つ。施設に入ってもらう以外無い…」
そう伝わっているのだ。
何故そんなにまで施設に入れたがるのか…
父が生きていた頃
「兄貴が見れなくなったら俺がお袋を連れて帰って面倒を見るから」
と言っていた男は本当にコイツか?
…話が少しそれた時、祖母が
「マユが最後まで兄ちゃんの支えになってくれて本当にありがたかったよ」
と言ってくれたのだが、それに対して鉄ちゃんは又々不可解。
「親がつらくなったら子供が支えるのなんか当たり前だろ。マユは散々兄貴に迷惑掛けて来たんだから尚更だよ」
だって!!
エェッ??
この人一体何!?
どの口でそんな事言ってる??
今まで母親の面倒を全て私の父に丸投げして来て、その父が亡くなった瞬間に母親を老人ホームに入れようとしている男のセリフとは到底思えない。
親がつらい時…
祖母にとってまさに今がその時だ。
我が子に先立たれた以上につらい時があるのか?
その今、お前は母親を支えるどころか今度は他人に丸投げしようとしているんだぞ!
嫌悪感で鳥肌が立った。
そもそも私が父に掛けた迷惑の何を知っていてそんな偉そうな事を言うのか…
このまま黙ってこの男の話を聞いている自信が無くなったので私は逃げる様にしてその場を離れた。
何故私が逃げ帰るのかの意味も分からぬまま大急ぎで帰路についた。
「あの男は絶対に頭がおかしいんだ…」
そう思った。
自宅に戻ってからもムカムカしていた。
祖母が京都に行かないのなら横浜で暮らす為の準備が色々あるが、そこはやはり息子である叔父がやるべきだと私は思っていた。
自分の兄がアルコール依存症という自分の父親と同じ病にかかり家族に出てかれた時、弟として叔父二人は一体何をしたのか…
京都に居る叔父は月に一回でも兄貴に電話をする事は出来なかったのか…
小学生の時から父親代わりになってくれた兄貴ではないか。
「兄貴どう?あんまり飲みすぎるなよ」
その一言の電話を一回でもしてあげたのか…
同じ横浜市内に居る鉄ちゃんは?
こんなに近くに居ながら年に数回来ただけでは無かったか…
だからだ…
父が火葬される時に号泣する鉄ちゃんを見て凄い違和感を感じたのは…
その時は自分も一杯一杯で分からなかったのだが、後になって冷静になれば分かる。
そんな叔父が父の死に対し声をあげて泣くとか、私には受け入れ難かったのだ。
そんな風に泣く位なら生きているうちに、もう少し何かしてあげられなかったのか……
みんなで病気の父を散々放置しておいて死んだら声をあげて泣くなんて…
そんなのおかしい!!
私の頭の中は悲しみと怒りに完全に支配されてしまった。
父を返して欲しい…
私に父を返して欲しい…
毎日泣いては怒り、怒っては泣いての繰り返しだった。