ブロックチェーン技術社会実装の要件とステップ ー エンタープライズ編
noteにたどり着いていただきありがとうございます。
株式会社Aerial Partners(読み:エアリアルパートナーズ、以下「Aerialチーム」)の沼澤健人です。 Twitterでは「二匹目のヒヨコ(@2nd_chick)」として活動しています。
前回のnoteでは、Aerialチームの取り組みに関する振り返りを中心に、Aerialチームの社会課題解決ドリブンなカルチャーの一端を紹介しました。
2019年も終わりに近づく中で、業界では「ブロックチェーン技術の社会実装(※)」というワードを聞くことが多くなりましたが、今回のnoteでは、その言葉の意味するところを想像するために、未来の社会実装の過程を考えてみたいと思います。
なお、今回のnoteではエンタープライズ領域でのブロックチェーン技術の活用についての考えを中心とし、アプリケーションも分散化していくという文脈の、いわゆる “Web3.0” の観点については、次回以降のnoteで紹介します。
※ブロックチェーン技術の社会実装のスタート地点として、また、2017年の投機熱を帯びた仮想通貨マーケットの盛り上がりを示す「仮想通貨元年」と対比して「ブロックチェーン元年」という言葉を使う場合もあります。
ブロックチェーン技術の本質と社会実装要件
ブロックチェーンの本質は?という問いに対し一言で回答しようとすると、「価値の移転を暗号学的に保証できること」になると考えていますが、個人的には①プログラムによって信頼性が担保された、②価値移転(執行)の自動化といったように、2つの要素から考える方が理解しやすいと思います。
これにより、バリューチェーン全体の信用コスト(= 情報の信頼性を担保するためにかかっているコスト)を下げることを通じてDX(デジタルトランスフォーメーション)を促進し、また、コストが見合わないために今まで行われていなかった新しい事業モデルを生み出すことがブロックチェーン技術の真価です。
この点、LayerXの福島さんがインターネットバンキングを例に挙げて、とても(本当に、とっても!)わかりやすい解説をnoteにまとめていたので具体例はそちらに譲りたいと思いますが、以下のような要件を満たす業界では、ブロックチェーン技術を利用して、プログラムによって正確性を担保した価値移転の自動化により、DXを行う余地が大きいということです。
【ブロックチェーン技術社会実装の余白】
①コンプライアンスを人手により解決しており高コスト体制である
②ネットワークが閉じており情報がオープンではない
③バリューチェーン横断的な効率化が行われていない(※)
※加えて、異なる複数のバリューチェーンをつなぐDXについても、ブロックチェーンのインターオペラビリティ(相互運用性)で説明されることがありますが、それについては後述します。
今まで人手をかけることを中心に構築した統制活動によってルールを遵守し、業界で扱うデータは個社毎に閉じていて、且つシステム自体も閉じた設計がなされているような業界においては、「コンプライアンスそのものがビルトインされ、決済が暗号学的に保証される価値のネットワーク」をつくることができれば、価値の移転に関する渋滞(金融領域においては融資審査や請求書発行業務、配当計算や保険料支払等に関する不効率)がなくなるよ、ということです。
これを、上述のnote内では「お金の自動運転」と表現しており、また、Andreessen Horowitzジェネラル・パートナーであるAngela Strange氏は(この記事内では直接的にはブロックチェーン技術に言及している訳ではないのですが、)ソフトウェアソリューションにより自律ファイナンスが行われることを指して「お金のGoogleマップ(Google Maps for Money)」と呼んでいたりします。
なお、自動運転のためにAPI(ないしEDI)によるシステムの統合を想像する方もいると思いますが、APIによるシステムの相互運用は、プレイヤーが増加すればするほどAPIの接続点が増えることに加え、情報フォーマット統一のため業界全体のシステムインテグレーションのコストが膨大になってしまい、限界があることを指摘しておきます。
ブロックチェーン技術社会実装のステップ
では、具体的にブロックチェーン技術が社会に実装されていく過程について思いを馳せてみます。
上述のブロックチェーン技術社会実装の余白に当てはめて考えると、金融領域のDXからスタートしていくのはイメージが湧きやすいのではないでしょうか。(※)
【ブロックチェーン技術社会実装の余白(再掲 ※)】
①コンプライアンスを人手により解決しており高コスト体制である
②ネットワークが閉じており情報がオープンではない
③バリューチェーン横断的な効率化が行われていない
※Aerialチームの中ではこのような特性をもつ業界を「DXが重たい産業」と呼んでいますが、金融業界・不動産業界・貿易・著作権管理等、効率化の余白が大きい業界として重要視しています。ここでいう重たいの判断基準は、コンプライアンスの要請が強い、ないし現物資産の取扱い行っていることにより人手によるオペレーションが多い業界... といったイメージです。
【フェーズ 0_〜2018年頃】
昨年以前のブロックチェーン技術活用の中心は、価値が暗号学的に保証された暗号資産をつくることでした。
ブロックチェーン技術の発展の起原となるビットコインの登場から、現在ではご存知のように、仮想通貨交換業者(取引所)の登場により、法定通貨と暗号資産のゲートウェイが整備され、法定通貨の世界と暗号資産の世界がつながりました。
今後も当局主導で規制が整備され、暗号資産と電子マネー・前払式支払手段(ポイント)等他のデジタルアセットとの互換性が高まっていきます。
また、今回は詳述しませんが、いわゆるWeb3.0の観点からみると、暗号資産と法定通貨のゲートウェイが整備されたことはより大きな意味を持っています。
【フェーズ 1_2018年〜2022年頃(重い産業のDX期)】
「DXが重たい産業」におけるブロックチェーン技術の活用が広がっていきます。
重たい産業から実装がはじまるのは、ブロックチェーン技術の恩恵は信用コストの低下であるため、社会実装の余白が大きければ大きい程、その経済的インパクトが大きくなるためです。
信用コストの低下により、今まで経済性を担保することのできなかった小口の証券化や保険商品化等、新しいビジネスモデルも登場してくると思います。
以下の図では、私が監査法人に在籍していた頃に担当していた石油業界を例に挙げています。
【フェーズ 2_2023年以降〜(コンソーシアムの相互接続期)】
業界、ないし業界内の各社がつくるそれぞれのコンソーシアムが繋がり、価値がコンソーシアム間で移転されることを前提とした新しい事業モデルが創造されます。
例えば石油業界においては、石油のサプライチェーンマネジメントのためのコンソーシアムと、貿易管理のコンソーシアム、証券化商品や保険のコンソーシアムが相互運用性をもって自動化・効率化される、という未来が来ます。
価値のインターネット時代の「ブラウザ」を発明する
ここまで、ブロックチェーン技術の本質や社会実装のための要件、そしてブロックチェーン技術社会実装のステップについて解説してきました。
少し話は飛びますが、高速インターネット技術を背景に、相互コミュニケーションを可能にした現在のWeb2.0が成り立つ過程において、イノベーションに最も貢献したのはMosaic(1993)に端を発するブラウザ技術だと考えています。
ブラウザは、インターネット技術とユーザーを繋ぐインターフェイスであり、その登場によって、非技術者であっても簡単にWeb上の膨大な情報の中から必要な情報にアクセスすることができるようになりました。
そしてAerialチームは、ブロックチェーン技術が実現する価値のインターネットにおける「ブラウザ」にあたるインターフェイスを作ろうとしています。
ブロックチェーン事業者内のトランザクション管理にはじまり、ブロックチェーン事業者と監査人、ブロックチェーン事業者とユーザーの間に必要なインターフェイス提供の旅は、まだ始まったばかりです。
【さいごに】Aerialチームに興味を持っていただけた方へ
Aerialチームではエンジニアを中心に全職種で採用活動を行っています。まずはお気軽に、お茶やランチをしながら話しましょう!
https://www.wantedly.com/companies/aerial-p2
また、仮想通貨交換業者様の他、ブロックチェーン技術を利用したDXにおけるトランザクションの管理や、財務・管理会計の内部統制構築等について困りごとのあるブロックチェーン事業担当者の方も、是非お気軽にコンタクトしてください。
最後まで読んでいただいてありがとうございます🐣