企業進化を加速する「ポリネーター」の行動原則【Yuの本棚⑩】
大企業とスタートアップの協業を支援する仕事を生業にしているということもあり、DNXの中垣さん含めた3人の共著による『企業進化を加速する「ポリネーター」の行動原則』を拝読しましたので、その内容をサマリーにします。
本書の概要
本書は、企業の進化をテーマにした提言書であり、スタートアップと伝統企業の連携を通じてオープンイノベーションを推進する実践的なポイントを解説しています。特に、米国の事例が参考として取り上げられており、GAFAMのようなテック企業だけでなく、ウォルマートのような伝統企業もスタートアップの買収や連携によって進化を遂げています。米国ではこうした連携が一般的ですが、日本の伝統的企業においては成功事例が少ないのが現状です。その背景には、大企業とスタートアップの性質の違いが挙げられます。両者は必然的にぶつかり合う関係にあるうえ、日本の大企業は「自前主義」を重んじてきた歴史があり、外部との連携に対する抵抗感が特に強いことが課題となっています。
この問題を解決するカギとして本書が注目するのが「ポリネーター」の存在です。「ポリネーター」とは、スタートアップと伝統企業をつなぎ、両者の特性をうまくかみ合わせる役割を果たす人物のことです。植物の花粉を運んで受粉を促すミツバチにちなんで名付けられたこの概念は、企業間の壁を取り払い、相互に価値を引き出しながら新たなビジネスの種を育てる存在を指します。本書では、ポリネーターの役割を具体的に掘り下げ、その行動原則や育成方法について詳しく解説しています。スタートアップとの連携を通じて日本企業が進化を遂げるためには、ポリネーターの活用が不可欠であり、本書はその実現に向けた道筋を示しています。
序章:オープンイノベーションと「ポリネーター」の重要性
オープンイノベーションという概念は、経営学者ヘンリー・チェスブロウによって2003年に提唱され、その後多くの企業で実践されるようになりました。オープンイノベーションとは、内部と外部の技術やアイデア、資源を積極的に流通させ、それによってイノベーションを促進し、新たな市場機会を生み出すことを指します。従来のクローズドイノベーションとは異なり、外部の力を積極的に活用する点が特徴です。
本書では、スタートアップとの連携で成果を上げている大企業の共通点として、「ポリネーター」と呼ばれる人物の存在に注目しています。ポリネーターの辞書的な意味は、植物の花粉を運んで受粉を助けるミツバチのような生物を指しますが、本書においては、スタートアップと大企業を結びつける役割を果たす人材を意味します。この役割を担うポリネーターは、単に情報を伝達するだけではありません。大企業とスタートアップの協業を具体的に進め、既存のビジネスを補完しながら、新しいビジネスを育てるための土壌を整える存在として重要な役割を担います。
例えば、ポリネーターは、大企業が抱える課題や不足しているリソースを明確化し、それを補完できるスタートアップを見つけ出します。また、両者が効果的に連携できるよう、共通の目標や価値観を構築し、協業を円滑に進めるための環境を整えます。これらの活動を通じて、企業間の相互作用を最大化し、イノベーションを実現する仕掛け人として機能します。
オープンイノベーションが求められる背景には、技術の進歩や市場の変化が急速に進む現代のビジネス環境があります。競争が激化する中で、スピーディーな市場投入や、新規事業の立ち上げを可能にする仕組みが必要不可欠です。本書では、この変化に対応するために、ポリネーターの存在がいかに重要であるかを強調し、その具体的な行動指針についても触れています。ポリネーターを育成し活用することは、日本企業が進化を遂げ、持続的な成長を実現するためのカギであると述べられています。
第1章:スタートアップ連携の必要性
本章では、大企業がスタートアップとの連携を通じてオープンイノベーションを推進する必要性が述べられています。日本では長らく「自前主義」が主流でしたが、以下の理由からオープンイノベーションが求められる時代となっています。
1. 技術・製品のライフサイクルの短期化
優れたサービスが瞬時に普及する現代では、先行者利益がより重要となっています。たとえば、ChatGPTはわずか5日間で100万人のユーザーを獲得しました。このようなスピードに対応するため、大企業は外部リソースを活用し、迅速な市場投入を行う必要があります。
2. スタートアップの技術力がイノベーションの起点になっている
イノベーションの起点として、スタートアップが注目されています。スタートアップは、単一の新規事業に対して迅速な意思決定と投資が可能です。また、資金調達環境の充実やクラウド技術の普及により、事業を迅速に立ち上げる体制が整ってきています。
3. M&Aによる成長戦略
近年、多くの成長企業は買収を通じて事業拡大を進めています。たとえば、ウォルマートはEC事業への進出を目的にジェットコムを買収し、EC領域の専門人材の確保を実現しました(アクハイア)。M&Aは、大企業が新分野に進出する際の即戦力獲得となり、スタートアップにとってもブランド力や顧客基盤の獲得に繋がる相互利益のある選択肢となります。
このように、スタートアップとの連携は大企業にとって事業競争力を高め、成長を加速させるための重要な戦略であり、その実現には具体的な未来像や不足リソースの明確化が欠かせません。
第2章:自前主義からの脱却
本章では、日本企業の「自前主義」を克服し、外部リソースを活用した協業を実現するための具体的なアプローチが説明されています。
1. ミッシングピースの特定
企業はまず、自社の現状(As-Is)と目指す未来(To-Be)を明確にし、その間のギャップ(Gap)を整理する必要があります。
次に、このGapを社内で生み出せそうな領域と現状のままでは実現できない領域に分類します。
更に、現状のままでは実現できない領域を、実際に手掛ける領域と手掛ける予定の無い領域に整理することで、手掛ける領域のミッシングピースを明確にしていくことが出来ます。これが整理できると、ポリネーターと事業部側が対立せず同じ目線で協業先の探索に向かえます。
2. 「社内でできるはず」思想の打破
社会変革には多様な業界の能力を掛け合わせる必要があり、必ずしも自社内で全てを賄う必要はありません。一方で、優秀な人材や最先端の人材を内製化しても、これまでの自社の報酬体系や働き方にギャップを感じてしまうケースがあるため、無理に自社に取り込もうとせず、グループ会社や出島として別の組織を作り、そこで働いてもらうなど、柔軟な枠組みを構築することが重要です。
3. 自社開発優先の理解
すべての新規事業を外部委託する必要はありません。新しい活動の原資は、既存のコア事業から生み出されています。だからこそ、コア事業への敬意を忘れてはなりません。「うちがやって、一番面白いものを作れる」という自負がある領域では、自社開発を貫くべきです。そのためにも、自社の強みを再認識し、言語化していくステップが欠かせません。
4. 実効性のある探索活動の継続
革新的な新規事業の創出には、感情と論理に訴える「戦略的抱負」と、それに突き動かされるManager人材が欠かせません。戦略的抱負は、現状と望む未来を結び付け、社員に期待感を抱かせる役割を果たします。それによって、社内の慣習に意義を唱えやすい雰囲気を作り、探索事業にもお墨付きを与えることが出来る。また、オープンイノベーションの探索の範囲(ハンティングゾーン)を決める上では、4つの要素を考える必要があります。それは、社会全体の潮流、自社の優位性、市場の魅力度、顧客のペインの深さです。この4点に関して整理し言語化しておくことが望ましいでしょう。
これらのプロセスを通じて、大企業が自前主義から脱却し、外部リソースを効果的に活用する体制を構築することが求められます。
第3章 組織カルチャーの刷新
ポリネーターは、自社の内側とは異なる視点を持ち、それをさらに一段上の視点へと引き上げる必要があります。そのためには以下の3つの視点転換が重要です。
① 自社の組織カルチャーを相対化する
カルチャーとは、曖昧な雰囲気ではなく、特定の事象が起きた際に「組織として何を是とし、どのような行動を取るのか」という行動パターンのことです。強いカルチャーを持つ組織では、「望ましい行動」に対する組織全体の合意が取れています。このカルチャーを相対化するとは、自社の価値基準を客観的に捉え、他社や異業界のカルチャーとの比較を通じて、自社の行動パターンを見直すことです。たとえば、スタートアップのスピード感を取り入れるために、スタートアップとの投資や協業における意思決定プロセスを極限まで簡略化するようなルール整備が考えられます。これにより、環境変化に柔軟に対応できる組織へと進化できます。
② スタートアップから学ぶ
スタートアップが持つ「走りながら考える」「意思決定プロセスのシンプル化」といった文化は、大企業が取り入れるべき重要な要素です。大企業がスタートアップと協業する際には、単なる資金提供以上の具体的なバリューを提示する必要があります。たとえば、迅速な意思決定や充実した支援体制は、大企業の協業先としての魅力を高める要素です。また、大企業はスタートアップのカルチャーや働き方を学び、柔軟な体制構築を目指すべきです。
③ 事例を創造する
他社の成功事例を慎重に追いかけるのではなく、自ら未知の領域に挑戦し、実践を通じて知見を蓄積することが重要です。失敗を恐れずに試行錯誤を繰り返しながら成功体験を積み重ね、そこから得られる教訓を活かしていく必要があります。このためには、失敗を許容するカルチャーが欠かせません。また、小規模な取り組みを通じて成功体験を積み重ね、それを徐々に拡大することで、組織に変革を定着させることができます。
第4章 スタートアップとの関係構築
スタートアップと信頼関係を築き、並走するためには、以下の5つのポイントが鍵となります。
① スタートアップの現場に何度も足を運ぶ
協業はオンライン商談だけでは進展しません。プロダクトを直接見て触れ、対面での対話を通じて得られる感触が非常に重要です。そのため、シリコンバレーのような産業集積地で行われるイベントに積極的かつ継続的に参加し、自社の事業をアピールし続ける必要があります。さらに、ポリネーターは本社に最新情報を還元するだけでなく、経営陣をスタートアップの現場に連れていき、スピード感やカルチャーを体感させる役割も担います。このような取り組みにより、経営陣の危機感を醸成し、それを変革のエンジンとして駆動させることが可能となります。
② スタートアップの「スピード」と「大企業に求めること」を理解する
スタートアップは、次回の増資成功に向けて1~2年の短期間で成果を出す必要があります。このタイトなスケジュールに応えるためには、大企業側も迅速な意思決定を行う体制を整える必要があります。また、スタートアップが大企業を選ぶ基準は、単に資金提供能力だけでなく、どれだけ早く支援を具体化できるかにかかっています。そのため、意思決定の速さや柔軟なサポート体制が求められます。
③ スタートアップからの信頼を得て維持する
スタートアップとの関係構築では、目先の利益にとらわれず、中長期的な視点を持つことが重要です。スタートアップの増資サイクルはおおよそ2年に1回であるため、投資や協業に至るまでに時間を要する場合が多くあります。そのため、投資対象でなくとも、取引先の紹介やファイナンスの相談、事業相談などを通じて信頼関係を築き、良きパートナーとして認識されることが重要です。
④ シリコンバレーのルールを知る
スタートアップと大企業はフェアな関係であるべきであり、「資金の出し手が優位」という考えは通用しません。このような認識を共有することで、対等なパートナーシップを築き、双方にとって有益な協業を実現できます。
また、アジェンダの無い表敬訪問はスタートアップ側のメリットが少ない行為です。大企業の意思決定者を連れてきた場合、スタートアップ側は口頭での契約合意か、契約に至るための条件の確認を求めているため、具体的な話をする心積もりが必要となります。
加えて、一旦社内に持ち帰るという行動も歓迎されません。商談においてはネクストステップの明確化が必要であり、イエスノーの回答はなるべく早く行うことが求められます。
⑤ PoCを大切にする:
スタートアップの技術を検討するときは、PoCを経ることで、本格導入に耐えうる製品・サービスなのかを確認するのが常識です。スタートアップにとっては、PoCの結果、本格導入に至らなくても、大企業に採用されるためには何が足りないのかを確認できる貴重な機会となります。
そのため、大企業側は、本格導入に至らない場合も、どのレベルに達せれば導入出来て、満たされた場合はまた話がしたいとフィードバックをしてあげることが大事です。
PoCを成功させるには、双方の期待値とゴール設定を一致させる必要があります。目的が明確になっていないと単なる技術検証で終わってしまい次のステップに繋がりません。
大企業側は、「スタートアップの技術を自社の何の事業でどう使いたいのか」「最終的にどのような事業にしたいのか」をできる限り具体的に伝えることが大事です。このように、求めるスペックやクオリティ、用途を明確にすることは、大企業にとってもPoCで何を確認するかが明らかになります。また、PoCの期限はある程度短い期間(数か月)で区切って、撤退や仕切り直しを迅速に行えるようにすべきです。
第5章 社内の駆動
オープンイノベーションの必要性を認識し、組織カルチャーの刷新に取り組み、スタートアップから一定の信頼を得たら、次は本社に協業案件を持ち込み推進していくフェイズです。
社内を巻き込んで協力を取り付け、事業化していくためには以下の4点が重要である。
①ピッチャーにもキャッチャーにもなる
ピッチャーとは、本社に向かって球を投げる人を指します。スタートアップに関する情報等オープンイノベーションに繋がる種を見つけ、自社への展開を図っていく人たちでシリコンバレーの駐在員が担うことが多いでしょう。
一方でキャッチャーは、ピッチャーと組んで、スタートアップとの協業に向けて社内での調整を担っていく人たちです。事業部へつなぎ、協業に向けた調整を行うのがミッションであり、主に本社にいる経営企画や新規事業部署が担います。キャッチャーは日ごろから、事業部への啓蒙活動、協力者の開拓などの活動が求められます。そのため、社内のキーパーソンの把握や各事業部の潜在需要の汲み取り、情報発信力といった能力を持った人材を配置する必要があります。
②間接部門を巻き込む
大企業同士の連携とは異なり、スタートアップとの協業ではスピードが求められます。NDAの締結に1か月もかけていたらスタートアップに飽きられてしまいます。スタートアップ向けのNDAひな形を用意する等の対応が求められるため、法務部門のような間接部門にもスタートアップの文化や仕事の進め方を理解してもらっておく必要があります。
③事業スタート時にしっかりと支援する
事業部は協業に対して「やらない理由」がいくらでも噴出してきます。優先順位が上がらない、時期尚早等の言葉を乗り越えて、協業を駆動するにはポリネーターがコミットする必要があります(事業部に丸投げしない)。
ポリネーターは、事業部の不安を取り除き、1回でも多く打席に立ってもらえるように、徹底して寄り添うコンシェルジュのような存在であるといえるでしょう。
企業によっては、ポリネーターの部署が、事業部がスタートアップと協業するときに発生する活動費用を負担するケースもあります。
④時に、独立した新事業組織を提案する
デジタル領域の先端人材を雇い入れる際に、現在の組織カルチャーにそぐわず退職してしまうリスクがあります。そのためにも、独立した会社を用意して高度な専門人材が働きやすい環境を別途整備することも選択肢として必要になります。
第6章 トップとの一体化
新規事業部門などのポリネーターは、社内でマイノリティ的な立ち位置になります。ポリネーターが社内で影響力を持ち、活動を正統化するためには、経営トップとの連携が不可欠です。トップの明確な意思として、新規事業の育成やオープンイノベーションの重要性を掲げてもらうためのポイントは以下の3つである。
①虎の威を借る
社内におけるマインドの違いを打破するためには、経営トップからのメッセージが有用です。ポリネーターは、経営陣をシリコンバレーのようなスタートアップエコシステムに連れていき、刺激や脅威を肌で感じてもらうことが必要です。その結果として、経営陣を新たな取り組みに向けたエバンジェリストにすることが出来ます。
②トップを焚き付け、動かす
現場のリアルや最先端の情報を一番握っているのはポリネーターです。そのため、ポリネーターがトップに対してボトムアップでオープンイノベーションの必要性や先端情報を発信する必要があります。
最初のアイディアの発案はポリネーターによるボトムアップ、そのアイディアを判断し推進する意思決定はトップダウンで進めることが重要です。
③同じ話を繰り返す
経営陣は、それぞれに複数のアジェンダを持っています。その中で、オープンイノベーションの必要性を感じてもらうためには、何度もしつこいくらい話をすることが欠かせません。
第7章 資金の確保
どれだけ理想論を並べても、予算が下りなければアクションは起こせません。
資金確保の重要性として以下に3つのポイントを挙げます。
①「予測→回収」思考ではなく、「確率→成長」思考を提案する
既存事業の投資、例えば工場への設備投資では、どの程度の期間で投資額を上回るキャッシュフローを創出し回収できるのか、といった「予測→回収」思考で考えることが多いです。
新規事業に限っては成功率が低いため、株式投資のように全勝はあり得ないという前提のもと、ポートフォリオを組んで、投資対象を分散してリスクを抑えていく思考が必要です。これは、ポートフォリオ内のいくつかの成功によって全体をプラスにしていくという考えであり、VCファンドの収益モデルに近いとも言えます。
②予算だけではなく、随時必要な資金を得ていく
CVCから投資したスタートアップとの協業の成果が見え始めているときに、必要な追加投資が出来るようにしておく必要があります。新規事業を推進するチームやCVCの判断で、追加投資が出来るような、独自の決裁機能を整備することが求められるでしょう。また、PoCやフィジビリティスタディのための予算も、CVC投資とは別に確保しておく必要があります。
③CFOと対話していく
ポリネーターの活動にはあらゆる場面で予算が必要となります。そのため、会社のお金の出入りに責任を持つCFOを味方にすることが欠かせません。ポリネーターの組織では、突発的な予算の発生も多いです。期中でもフレキシブルに使える予算を確保するためにも、CFOにはポリネーターの活動を理解してもらい共感してもらうことが重要となります。
第8章 あきらめない
この章では、ポリネーターに向く人材の2つの要件を取り上げます。
①「カルチャーが変わる」ように仕掛け続けられるか
組織カルチャーの刷新や、自社とスタートアップの融合には、時間が掛かります。長期戦の構えで信頼を勝ち得たうえで、社内からも価値を見出してもらう必要があります。そのためにも、探索組織の社内認知活動を地道に継続し、経営陣や事業部にギブし続けることが、巡り巡って信頼を得ることに繋がります。
また、社外との交流が増えたり、メディアに記事が出始めたりすると、顧客の方から、「貴社の新しい取り組みに関して知りたい」と声をかけてもらえる可能性が高まります。そのため、外向的であることが望ましいでしょう。
②グリットとタフネス
ポリネーターの仕事はイレギュラーの連続であり、変化に楽しみを見いだせる人である必要があります。また、自身で高い目標を掲げ、その達成のために臨機応変に動き続ける姿勢も求められます。
第9章 ポリネーターをどう育て、どう生かすか
①ポリネーターをどうやって育てるのか
ポリネーターを育成するうえで、一つのアイディアは、スタートアップに染まる環境に一定期間を身を置いてもらうことが挙げられます。実際、投資先のスタートアップに一定期間出向をしたり、パートナー関係にあるVCやアクセラレーターに人材を受け入れてもらう企業もあります。
また、日本でのキャッチャーとしての活動と、シリコンバレーなどでのピッチャーの活動を、両方経験させることも有効だと考えられます。
また、短期では成果を残しづらい取り組みであるため、本社側も中長期的にシリコンバレーに駐在員を置き、ネットワークやノウハウの形成を行ってもらえるようにするべきでしょう。ジョブローテーションで2~3年で駐在員を入れ替えている企業は、ネットワークやノウハウの引継ぎが出来ず、活動が中途半端になっていることも多いです。
②組織としてポリネーターをどう機能させるか
ポリネーターを機能させるには、組織デザインが重要です。
組織体制・評価・基準等の「公式の組織」は、既存事業とは異なるものを用意する必要があります。例えば、試行数での評価を行うことで失敗を許容しやすい風土を作ることが挙げられます。
第10章 VCを使って学習機会を得る
大企業は以下のような具体策を通じて、VCからオープンイノベーションに向けた学びを得ることが出来ます。
①投資によって学習機会を得る
LPとなることで、GPの市況の見立てやトレンドの発信に関して情報を得ることが出来ます。GPがスタートアップのどこを見て、どう付き合い、どのように判断しているのかといった視点や判断軸を模倣していくことで、ポリネーター自身のスキルを高めることが出来ます。
加えて、アクセラレーターのサポートのもと、コーポレートアクセラレータープログラムや社内の新規事業開発プログラムを実施することで、社内にスタートアップ的マインドやカルチャーを理解する人材を増やし、起業家精神を持ってもらう機会を設けることが出来ます。こうした取り組みを通じて、ポリネーター候補を育成することも可能です。
②投資仲間の企業から学ぶ
ファンド出資や、コンソーシアム型のアクセラへの参加を通じて、横のつながりを得ることが出来ます。
社内のマイノリティであるポリネーターは、社内に閉じた関係だと孤独であるケースも多々あります。LP仲間や、アクセラの共催者として繋がることで、同じ悩みを分かちあう同士となれる上、知見の交換を行うことが出来ます。
終わりに
経営陣が両利きの経営を唱えて、探索部門を創設するだけでは、「知の深化・探索」を行うことはできません。まず会社として探索部門の活動に正統性を与えたうえで、適正な資源配分、ハード面の支援(組織や評価制度)、ソフト面の支援(組織カルチャーの刷新、人材登用)を行う必要があります。つまり、組織環境を整えなければ、ポリネーターの活動は機能しないのです。
以上を踏まえると、場合によっては自社の存在意義を再定義する必要があります。自動車メーカーが、人の移動に関するあらゆる技術やサービスを探索するのであれば、自社を「モビリティサービス企業」と再定義しなければ、探索活動は正統性を持てないでしょう。
組織は、過去の成功体験や思考様式に過剰適応したり、既存技術への過度なこだわりを持ったり、既存の優良顧客の要望を聞きすぎたりすることで、新しい環境変化に適応できなくなります。これらのイナーシャ(過去の拘泥・慣性)を乗り越えるためには、まずは危機感や脅威の認識を通じた認知の変革を行う必要があり、そこで役割を果たすのは経営トップとポリネーターになるのです。