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11.9 119番の日

助けを求めることは悪ではない。
だがしかし、時と場合と状況と限度による。
「で、今度はどうしたって?」
たとえば自分が男で、相手が可愛い女の子だったとしたら許せるのかもしれない。
しかし今目の前でむくれて頬を膨らませているのはれっきとした男子である。
「転んだ」
ぷいと横を向くサトルの学ランの襟に少し土が付いている。
膝が白くなっているのも、きっと同じ理由だろう。
私は子泣き爺でもついているかのように、どっと肩が重くなるのを感じた。
「あのな、サトル。おまえはもう高校生男子なんだから、転んだくらいで風呂上がりの妙齢の女を呼び出すんじゃないよ」
年下の彼氏であるサトルの、誰かに助けを求める素直さは可愛いと思う。私はもう、とうの昔にそんな可愛げは捨て置いてしまった。
向いていないという理由と、捨てた方が楽になれたからだ。
人は違う遺伝子を求めるというが、私はこういう事では無いと思う。
「だって、京ちゃんは俺のドクターであり、救急車であり、ナースの天使だもん」
ナースでは無い、看護師だ。何度言ってもサトルは看護師のことをナースと呼ぶ。
「迷惑だ。明日も早い」
ため息が白く煙った。風呂上がりの身体は冷えはじめている。
サトルは余程ショックだったのか、少し青白い顔で口唇を噛んだ。
私も、頭を掻きむしって口唇の端を噛んだ。
「ほら、帰るぞ」
いつもは休みの前日、しかも昼間しか部屋に入れないことにしているが、今夜は仕方がない。これは、保護だ。
手を引いてサトルを立ち上がらせる。
「あーあ…今夜は酒抜きだな」
高校生を家に入れて酒を飲む訳にはいかない。ささやかな楽しみの時間すら奪われたというのに、仕方ないという気持ちで済ませられるのは何故だろうか。
繋いだ手だけ熱くて、私たちは静かな夜の街をただ黙って歩いた。
やけに機嫌のいい鼻歌が背後から私を追い越し夜空へと溶けてゆくのをただ見つめていた。

11.9 119番の日
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