12.14 南極の日
夜空から雪が降ってきた。
決してロマンティックな降り方ではなく、明日の朝には一面の銀世界が広がっていそうな暴力的な横なぐりの雪だ。
どうしてこんな日に限って、仕事終わりに美容院の予約を入れてしまったのか。
美容院に着く頃には私か雪だるまかという状態で、受付の人に大層驚かれた。
今年のうちにと思い立ち、長年まもってきた黒髪を染めた。とはいえ、勇気がないので焦茶色程度だ。
なぜ染める気持ちになったのだろうと窓の外の雪を眺めながら考えたが、結局はただなんとなく飽きたからというのが正解な気がした。
髪を染めて整え、外に出ると横なぐりの雪はますます強さを増していた。
強い風は上へ下へ右へ左へ染めたばかりの髪の毛をかき回して、大粒の雪がまだらに入り込み髪を濡らしていった。
地面はだんだんと白い部分が増え、濡れたアスファルトは凍えて滑る。
誰も彼もが下を向き、転ばないよう慎重に、右足左足と運ぶ様は、ペンギンの行進に見えなくもない。
誰も彼もが寒さに耐え、首をすくめているところなんかもテレビで見た野生のペンギンそっくりだ。
明日はきっと、もっと寒いと予想されている。寒波が日本を覆うのだそうだ。
そしてまた明日も、凍えた大地を無数のペンギンたちが歩くのだろう。
ペンギンのことばかり考えていたら、なんだか楽しげな気持ちになったが、あまりの寒さに手足は冷たく痛みだし、鼻先も赤くかじかんでしまった。
私は頭の中で、今日会社で女の子たちが持参して飲んでいたマシュマロを浮かべたココアを思いながら駅前の長いバス停の列に並んだ。
家は歩いて帰れない距離ではないが、こんな悪天候には文明の利器を使わせていただく。
今週末はミツロウキャンドルを買おう。クリスマスのプレゼントのために。
あいにくバスの座席は空いていなかったが、私はつり革につかまりながら暖かい車内の暖房の風を受けて、夜の光の中を歩くペンギンたちの姿を見ていた。
さようなら、南極。
明日はきっと、空気が澄んできれいなことだろう。
たくさんの星が流れる夜に、私はバスに揺られてうたた寝をはじめた。
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