5.11 鵜飼開き
追いかけて飲み込んで届けて吐かされて。
俺の毎日は、鵜飼の鵜みたいだ。
「キョンちゃん、キョンちゃん。これ見て、すっごく美味しそうなケーキ屋さん見つけた!」
馬鹿みたいに嬉しそうな顔で笑わないでくれ。
雑誌を開く指先のネイル、昨日までは薄いピンクだったのに今日はオレンジになっている。
それは誰に買ってもらったんだ。
「もう、また?どれがいいんだよ」
金なんてない。
寝ないでバイトをしても、君に全部消えていく。
成績は下降の一途で、もはや底は見えている。
「あのね、この苺とピスタチオが載ってるやつがすごい好きっぽいの」
甘い香りをさせて首に腕を絡めないでくれ。
好きと嫌いで身体が二つに裂けそうになる。
「仕方ないな。明日買ってくるよ。良かったね、彼氏の家が金持ちで」
赤いくちびるが三日月型になった。
俺のことをそんなに見ないでくれ。
でも俺はその顔をいつまでも見ていたいと思う。
「うん。キョンちゃん、だーい好き」
金持ち設定ももう限界なんだ。
でも、格好をつけていたい。それだけで生きてるようなものだから。
(金を)追いかけて(金を)飲み込んで(金を)届けて(金を)吐かされて。
でも全て自分でやっていること。
全ては自分の喜びのため。
俺の毎日は鵜飼の鵜みたいだ。
羽もくちばしもボロボロの鵜だ。
水中で息が絶えたとしても、鵜飼が喜んでくれたらそれでいい。
そう思わないと、もうどうしていいか分からないんだ。
赤いくちびる、オレンジネイル。
わがままで可愛い俺の恋人。