
7.23 米騒動
ある日の晩、鼠が村一番の大工の親方が大事にしていた米俵を齧って、中身を蔵中に撒いてしまった。
米俵から抜け出せた米粒たちは、鼠に捕まらないように四方に散って村中に逃げ出した。
米粒たちは、仲間を助けようと村中の米櫃や米俵を開けて米粒たちを逃がして回った。
明くる朝には、村中で米が無くなったと大騒ぎになった。
盗人の仕業に違いない。そう信じた村人は、それぞれの隣人を怪しんで固く家の戸を閉ざした。
元から米を持たぬ貧乏人で怠け者の権吉は、村中で米騒動が起きていることなど露知らず、昼間からあてもなくぷらぷらとほっつき歩いていた。
「おやおや、何だあれは」
遠くの方で何やら細かい物が跳ね回っているのを見て驚いて目を擦る。
近づいて木陰からそっとその様子を覗いてみると、それは土の乾いた田圃に戻った大勢の米粒たちであった。
何故このような事態になっているのかは知らないが、これはしめたと権吉は、腰に提げていた袋で山のように集まった米粒たちをかき集めはじめた。
権吉は働きこそしなかったが、獣のごとき足の速さを持っていたので、袋はすぐに満杯になった。
「白飯を食べるなんていつぶりだろうね」
米を大量に捕まえた権吉は、それを担いでほくほくとした笑顔で川に向かい、魚を捕って家に帰った。
炊き立てご飯と焼き魚の香りにつられて家の中から出てきた村人たちが田圃に集まる米たちを見つけて、鬼のような形相で米を捕まえている中、何も知らない権吉は棚ぼた的にただ旨い飯にありついていたのだった。