4.10 ヨットの日・教科書の日
ヨットに乗った僕と船長。
船長が舵をとるのを横目に、僕は教科書を読みながらヨットの操縦法を学んでいた。
「なんたることか!」
一時間くらいしたところで、船長が突然叫んだ。
「どうしたんですか!船長!」
僕は慌てて教科書から目を上げたが、しばらくお日さまの下で文字を読んでいたので視界がぼやけてしまう。
眼鏡をあげてまぶたをこすっているうちに、ぼんやりとした視界の中で僕の手から白い鳥が羽ばたいた。
「あっ!」
船長の指差す方向に高らかに飛び立った僕の白い鳥は、強い風にあっという間に後方に流されて、ボシャリと海の藻屑となった。
「僕の教科書がー!」
「背中で覚えろ! 見て学べ!」
船長はぷりぷりと怒って顔を赤くし地団駄を踏んだ。
多分、かっこいいオレの姿を見ていないことをずっと気にしていたのだろう。
ヨットに乗り込んですぐに言ってくれたら良かったのに格好悪くて言えなかったのだ。
なんだか可愛らしい、怒って丸まった背中を見ていたらこの人を大事にしてやらないとなあと自然と思えた。
「はい!船長!」
素直な返事が意外だったのか、船長は本当に?みたいな顔をして僕をちらちらと見た。
「こほん。分かればいい。 昼にしよう」
そして、僕と船長はヨットの上でおにぎりと卵焼きとタコさんウインナーのお弁当を食べた。
口の端に米粒をつけて懸命におにぎりに向き合う船長はやはり可愛い。
僕も負けじと懸命におにぎりにかぶりついた。
鼻の頭がじりじりと焼けて痛くなってきた。船に乗る男の勲章だ。
いつか船長みたいなヨット乗りになるぞ。
教科書は今頃海の底で魚達が読んでいることだろう。
僕には生きる教科書があるから、その教科書は君たちにプレゼントするよ。