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12.27 松迎え・ピーターパンの日
ピーターパンは、大急ぎで夜空を飛んでいた。
向かっているのは暗い夜の帳に沈んだ近隣の山ばかりだ。
星の間を縫い、時たま飛んでくる雪も避け、ピーターパンは口元に不敵な笑みを浮かべている。
隣を同じスピードで駆けるティンカーベルは手足をばたつかせながら必死でなにかを訴えていたが、ピーターパンはそんなティンカーベルをからかうように一つ宙返りをして人差し指で頭を撫でた。
「大丈夫だよ、ティンク。別に全てを狩ろうって言ってるわけじゃないさ」
大急ぎで飛んで行った山に着くと、ピーターパンは辺りを見回して、一本の木の枝に目星をつけた。
「早く回らないと夜のうちにたくさん集められないや」
ピーターパンのお目当て。それは天の星を受け止めんとばかりに枝を張り出した松の木であった。
「ほら、見なよ。なんて立派なんだ!今日は出来る限りの山を回るぞ」
ピーターパンは、一番枝ぶりの良い松の枝にロープを引っかけて迷うことなくへし折った。
ティンクが横で顔を真っ赤にして怒っていたが、ピーターパンはそのまま腰に枝をぶら下げて次の山を目指した。
「ねぇ、ティンク。何をそんなに怒っているの?今日は松迎えなんだから、どこの山に入って松を取ったって怒られないんだよ?一番いいやつを選んで飾りたいと思って何が悪いんだい」
この日は松迎えといって、お正月のための門松に使う松をどこから持ってきても良いという日だったのだ。
しかし、今となっては人の山に入って松を狩る者などほとんどいないし、そもそもピーターパンの住むネバーランドハウスには門松を飾るような前庭も無かった。
しかし、ピーターパンは数時間前にテレビ番組でこの松迎えの存在を知るや否や、ワクワクしながらロープと鎌を携えて夜空へ飛び出した。
隣でヨーグルトを食べながら番組を見ていたティンカーベルは慌ててその後を追ったのだったが、なにせ体が小さいのでピーターパンの好奇心による松狩りを止めることが出来ないでいた。
実はその山の持ち主達はとうの昔にその山の整備を諦め、もはや持ち主も判然とせずに美しい松たちもただ自然のままに放置されているのであったが、ピーターパンたちはそのことを知らない。
なので、ティンカーベルはピーターパンの尖った耳の先に噛み付いてまで彼を止めようとしたのだが、ピーターパンの好奇心はとどまることを知らなかった。
いくつかの山をまわり、まっすぐな枝のもの、絡み合っているもの、フック船長のフックに似ている形のものなど思うままにいろいろ集めたピーターパンは、とりあえずネバーランドハウスの赤い屋根の上にその松たちを並べた。
「昔の人って何で一晩置いてからしか門松を飾っちゃいけない決まりにしたんだろう。でも、まぁいいか。今日はもう疲れちゃった」
重い枝を運びすぎたこともあり、ピーターパンはすっかり眠くなってきたので、着替えもせず欠伸をして自分のベッドに潜り込んだ。
ティンカーベルももうへとへとで、屋根に並んだ枝を持ち主に返すことは諦めて、金色の粉をいつもより多めに撒き散らしながらピーターパンのベッドの枕元で丸くなり目を閉じた。
ピーターパンとティンカーベルはその夜立派な松の枝をネバーランドハウスの窓際に飾って新年を迎え、年神様たちが喜んで鑑賞に来ているという不思議な夢を見たのだった。
先程までは眉間に皺を寄せていたティンカーベルも、その時ばかりはにっこりと微笑んで眠りについていた。
12.27 松迎え、ピーターパンの日
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