7.26 幽霊の日
先月のある晩にですね、うちの子供が、見たっていってたんですよ。
私もそんなわけ無いでしょ、見間違いよって言ったんですよ?
でも、私の腰にひっついて震えるばかりで、話を訊いても要領を得なくて。
仕方がないからお母ちゃんが見に行くって言ったんです。
そしたら、やめてくれって。母ちゃんも連れてかれちゃうって泣くんですよ。
どうにも怖がってるんで、その日は一緒に寝たんです。もう来年は小学校なのにね。恥ずかしい話ですが。
で、そんな事忘れて次の日そのあたりを通ったんですよ。
牛乳が切れてたんで、牛乳を買いに、橋を渡って。
何事もなく牛乳を買って、足の悪い母親の家に寄って用事を済ませて帰ろうと思うと、ちょうど夕暮れ時でね。
あーこれは、早く帰らないとまた子供が泣くわと思って急いで戻ってたんです。
帰りの橋に差し掛かったところで、川の下流にあるもう一本の橋を、松明持った人の行列が歩いているのが見えました。
祭りでもあったかしらと思って、橋の途中に差し掛かった時ですかね、後ろから声が聞こえたんですよ。
ハシワタシ、ハシワタシって。
何のことかわからずに後ろを向いても誰もいない。
まさかと思って向こうの橋に目を凝らすと、豆粒くらいに見える行列の最後尾の男が、こっちに向かってなんか言ってるんです。
聞こえる距離じゃないんですよ?なにせ豆粒大ですから。
私、もうゾッとして。
亡くなった義理の兄だったんですよ。その男の姿も、耳元で聞こえる声も。
その後で義理の兄は行列の後ろに戻って橋を渡っていったんですけど、それを追いかけるように松明を持った子供が橋を駆けていきましてね。
私は叫びながら家に走りましたよ。
まさかあれはうちの子じゃないでしょうね、と気が気じゃなくて。
だって、途中で思い出したんですけど、下流の橋は五年くらい前に大雨で流されちゃってるから。人が渡れる訳がないんです。
急いで玄関を開けると、うちの子はそこに座って待ってました。
ほっとしたんですが、ぼんやりした顔で「ハシワタシ、ハシワタシ」って繰り返すのを聞いて、あああの子の半分は橋を渡って行ってしまったのだと気付きました。
だって、うちの子の本当の父親は、その亡くなった義理の兄だったので。
一人で逝くのが寂しくて、子供を連れて行ってしまったんでしょうね。
今はもう全て忘れたみたいに元気にしてますが、時たま夜中に片目だけがあの松明の色に光るんですよ。
あの日一人で留守番させたことを、今でも私は後悔しています。
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