6.7 母親大会記念日
パンダのお母さんは、赤ちゃんパンダのことをよく見ていました。
高い木に登って行くときも、坂を下りるときも、水の張られたプールで水浴びするときも、いつも少し離れたところで見ています。
「手を貸してあげないのですか?」
とまだお腹の中に赤ちゃんのいるお母さん猫が尋ねました。
パンダのお母さんは、笹を齧りながらそうねえ、と首をひねりました。
「あの子の力を信じているので、私はこうして見ているだけなんです」
とにっこりと笑いました。
「そういうものなのですかね」
お母さん猫は大きくなったお腹をさすりながら不思議そうにそう言いました。
「それぞれだと思いますけどね。でも私は、あの子は大丈夫だって信じて、失敗も成功も自分で試してほしいと思っているのよ」
お母さんパンダはころりと寝っ転がると、後ろにあった大好きな笹の葉の多い竹を取るとまたよいしょと起き上がりました。
「ああっ、パンダさん、娘さんが!」
パンダの赤ちゃんが高い木から落ちそうになっているのを見たお母さん猫が慌てて飛び出そうとしましたが、パンダのお母さんが太い腕でそれを止めました。
「急に動くと危ないですよ」
「でも、ああっ」
パンダの赤ちゃんは、身長より何倍も高いところからどさっと落ちました。
しかも、頭から落ちて前回りまでしてしまっています。
「ちょっと、見ていてください」
お母さん猫はハラハラとして見ていられませんでしたが、しばらく音がしないので肉球の隙間からそっと赤ちゃんパンダの方を覗いてみました。
えへへ、と照れ臭そうに頭をかく赤ちゃんパンダはとても元気そう。
パンダのお母さんはそんな赤ちゃんパンダに向かって笑顔で手を振っています。
「はーびっくりした。本当にどっしりされてるんですね。私も少しは見習わなくちゃ」
「いえいえ。いつも見ているから、どこまでが大丈夫かも分かるだけですよ。それに心配してばかりだと母親の方がガリガリになっちゃうでしょ?赤ちゃんの持つ生命力の方が、私たちよりずーっとどっしりしてると私は思っているのよ」
お母さん猫は急にしゅんとして俯きました。
心配性の自分には、ずっと難しいことのように思えたのです。
先輩お母さんのパンダは、自分のお腹をどーんと叩きました。
「大丈夫よ。あなたはお母さん界の赤ちゃんなの。見ておいてあげるから、あなたも色々やってごらんなさいな」
そう言うと、パンダのお母さんはとっておきの笹をお母さん猫にプレゼントしました。
お母さん猫は帰り際笹をくわえて、帰ったら少し早いけれど短冊を吊るそうと考えたのです。
その短冊にお腹の子と、パンダの母子と、全ての家族の幸せを願おうと。
揺れる笹の葉はさらさらと音を立て、リズムに合わせてお腹の中の仔猫たちがポコンとお母さんのお腹を蹴りました。
6.7 母親大会記念日