5.21 探偵の日
ブロック塀に背中を預けて立つ男は、頭上から降る星型の白い花の数を数えていた。
依頼主と待ち合わせをしている間することもない男は、ただ綺麗に磨かれた茶の革靴の周りに落ちているそれを眺める。
花の命はどこで終わるのだろう。
星型のまま茎と別れ、宙に舞った瞬間だろうか。
それともこうして美しい姿を認識されている間は、生きていると言えるのだろうか。
部屋に飾る花はすでに断ち切られ根からは離れている。
それでも水を吸い、光合成をし、生きていると言えるのかもしれない。
足元に降った花の数は二十七。
二十八個目の星が落ちてきたところで、足音もなく目の前に人影が落ちた。
「お待たせしました」
依頼主の女だ。
男は居住まいを正して無言で会釈をする。
汚くてしょーもない人の秘め事を暴く手助けをして身を立てている。
今のところ幼い頃に憧れた明智小五郎にもシャーロック・ホームズにもエラリー・クイーンにもなれずに生きている。
探偵という肩書きだけで地面に転がる自分の夢は、まだ命があるといえるのだろうか。
答えの出ぬまま、またひとつ星の花が落ちた。
二人は連れ立って揺れる陽炎のなかへと離れていった。
二つの陰を失った二十九の花々は、暑い日差しに照らされて少しずつしおれていく。
降る星は止まず、落ちた白が地面の上でゆっくりと存在を腐らせている。