3.25 電気記念日
「こいつは浅草で仕入れた電気ブランですぜ」
「おう。お前いいもん持ってるじゃねえか」
「へい。兄貴と飲もうと思って、弟の嫁の兄貴の弟に買わせに行ったものでさあ」
「そうかいそうかい。礼を言っておいてくれよ。何だ、その弟の兄貴の…」
「弟の嫁の兄貴の弟でさ。何でも浅草界隈に詳しいってんでね。ささ、それより呑んでみやしょうぜ」
小さく細いグラスに、濃い琥珀色の液体がどぽどぽと注がれる。
「よし、乾杯すっか」
「へい、兄貴!」
一口飲んで、二人が顔を見合わせる。
「こいつはすげえや!名前通り口ん中に電気が走ったみたいだぜ」
「ほんとですね兄貴!いやー、脳天痺れて記憶もぶっとびそうでさあ!」
「おめえの悪い頭も案外回路繋がって良くなっちまうかもなあ!はは!」
「兄貴、ひっでーの!ははは!」
鶏小屋のような部屋の中、裸電球の下で電気ブランを飲み交わす男たち。
屋根の上では火花を散らして星たちが瞬きながら、泥酔していく男たちを憐れみの顔で見下ろしている。