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こうして私は紙コップを買った。

紙が,好きだ。

紙に書いていると,生きているなあと感じるから。
ただそれだけなのだけども。
書くだけで生きていると思えるなんて最高じゃないか。
逆に,画面にいくらメモっても,同じところを指やタッチペンでこしょこしょしているだけで,何か蓄積されたような気がしない。だからタブレットでのメモ取りが苦手だ。
そう考えると,芯がすり減り,自分の生きた証が紙の上に明確にのこるから,という点で紙に書くことが好きなのだろう。

私は,落書きが好きだ。
ノートの空きスペースを線で結んでいると夢中になっている。
何度もゆるい絵を描く練習を自由帳にした。今はだいぶ思いどおりに描ける。描けると嬉しいものだ,こんな歳になっても。

紙に鉛筆やシャープペンが引っかかる感じが好きだ。
あの繊維感。さくっとした感じがたまらない。
あくまで,感じ なのだ。自分の意のままに任せている。
厚紙に書くとでこぼこが大きくてよく芯が引っかかる。
わら半紙やつるつるした包装紙にはあんまり引っかからない。
良く引っかかる方が好きだけど,日にもよる。

手荒れがひどくてどうしようもなかったとき,ひんやりした厚紙を触っていて落ち着いたことがあった。
それくらい,紙の手触りが好きなのだろう。

紙さえあれば何でも出来ると思っていて,裏紙やメモになる紙を毎回持ち歩いている。
箱が欲しいときは紙で折る。大抵汚れるのでそのまま捨てる。
紙は,頼りになる。

そんな私だが,先日買い物をしていて気づいた。
紙コップを買ったことがない。

たまたまその日,紙コップが欲しいと思った。
いつも,紙以外のコップを使っていた。洗うの面倒だと思いながらも,一度で捨てちゃうのはなかなかもったいなかったから,買わなかったのだ。
紙コップを使うのはいつも,お楽しみ会で2Lのジュースを分けるときか,ショッピングモールのフードコートのお冷やという特別なときだった。
しかしついに時は来た。お酒は飲みたい。でもコップ洗いたくない。紙コップ買っちゃいたい。
意を決した,というよりは,頭で考える前に紙コップを探しあてていた。すると,頭で想像していたよりも特別感があった。
素敵…。
紙の感じがものすごく気に入ってしまい,離れられなかった。
これで飲む飲み物なんて素敵!
さらにびっくりした。色つきの紙コップがあるではないか!
選択肢は,全身真っ白の紙コップか,カラフルで一袋に色んな色の入った紙コップ。
一瞬迷った。でも,どうしてもカラフルな色にやられてしまった。
好きだ。紙の質感のせいで,色がものすごく綺麗に見えるのだ。
こうして私は紙コップを買った。

帰りながらも紙コップのことを思い浮かべてわくわくした。
紙コップを開けるときがきた。下から開ければきっと,口元を触らないで済む。開けた。一番下の紙コップはオレンジ色だった!可愛い。
お酒を紙コップに注いでみた。
ああ!すごい!紙の音がする!
紙の触り心地と相俟って心地いい。
口に当てる。紙を口で味わうなんて,贅沢だった。
楽しくなった。
その夜,私はすぐにその紙コップを捨てられなかった。
なんか楽しくて,机のままに置きっ放しだ。

いずれ,カビが生えるし,洗っても細かい溝に入った液体は落とせない。いずれ捨てなければならない。しかしその頃にはきっと私の思いも別方向に切り替わるのだろう。その時は捨てさせてもらおう。
紙なんて,とか,紙くず,みたいな言われ方をするけれども,紙様。
貴方はとても素晴らしい材質です。
安らぎを与えてくれて有難う,紙コップ。





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つめだ えん
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