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『ベルリン・天使の詩』

⚠️映画のネタバレを含みますので、未見の方はご注意ください。

『ベルリン・天使の詩』という映画をご存知ですか。

この映画の設定は、天使が下界を巡り人々の心の呟きをそばで聞いている世界。そこで人間のあらゆる人生を見届ける天使だが、人間に恋をしてしまう…というもの。

映画の中では、多くの天使たちが人間のそばに寄り添っていて
図書館にたくさんの天使集っている様子はなんとなく微笑ましく思えてくるほど、ごく普通に身の回りには天使が存在しているのです。

以下、ネタバレを含みますのでご注意下さい。

主人公の守護天使ダミエルは、人間の女性マリオンに恋をして、天使としての死を選びます。
そして、見えないながらもしきりに話しかけてきた映画俳優の「彼」は、なんと、元守護天使の先輩だったのです。
彼曰く、「案外多くいるものだよ」だそうで、この世界には元守護天使で人間を志望し降りてきた者たちが数多くいるというのです。

ダミエルが天使としての死を迎える前、彼は友人に「永遠ではなく今が欲しい」
と伝えました。

先輩の元守護天使が言うように、この世界には多くの元天使たちが居るのならばどうでしょう。案外、あなたの周りにもたくさんいるかもしれませんね。

そのような中で私は、元天使が多くいるのなら元人間で天使に連れて行かれた(天使になっていった)人間も多くいるのではないかな、なんて考えてしまいました。
早すぎる死、なんていうものは
天使に手を引かれていってしまったのかも知れません。
逆も然り、ということで、こちらも案外少なくないのかもしれないですね。
今頃、人間の肩に手を添えて、囁きと共に人の傷ついた心を癒しているのでしょう。

ところでこの映画、なんといっても詩と描写が興味深くてとても大好きです。

まず、始まりの詩。
「…子供が子供だった頃、自分が子供とは知らず、すべてに魂があり、魂はひとつだと思った。…」

誰しもが通る子供時代、昔はこの世の全てがクリアに、単純に、明確に見えていました。
知らないことも、たくさんありました。

途中のナレーションより。
「…子供が子供だった頃、いつも不思議だった。なぜ僕は僕で君でない?なぜ僕はここにいて、そこにいない?…」
「…僕が僕でなくなった後、僕はいったい何になる?…」

自分の存在とは何か。自分は唯一、自分で実像を見ることができない存在ですから、その存在の不思議を言葉にしなければ、自分が自分であることを保てないのですよね。
私は、自分とは何だ?、と問いかけている時間こそが自分自身の存在の証明であると考えています。

そして、映像や心理の描写として2点。

1つは、自殺志願者の心の呟きと天使カシエル(天使ダミエルの友人)の叫び。
自殺志願者の男性は、周囲の人間の引き止めやカシエルの囁きでは止めることができず、飛び降り自殺してしまいます。
その際のカシエルの叫び。抉れるような叫び。それは、カシエル自身の嘆きの叫びでもあり、また、自殺志願者の痛みの声が伝わってきた叫びでもあるのだと思います。なにせ、天使は人の心の呟きが聞こえますから、心の叫びとなるとその何十倍、何百倍もの痛みが伝わるのでしょう。
この描写は、忘れられない場面の1つです。

そして2つ目は、ダミエルが人間となり色彩を覚えた瞬間。
これまで白黒だった映像が、天使ダミエルの死と人間ダミエルの誕生によりカラーとなって動き出すのです。そうです、天使には、白黒の世界しか見えていないのです。
彼はすれ違いの男性に、あれこれ色の名前を訪ねます。まるで子供のように。
子供が子供だった頃…という詩と繋がっているように、何も知らないダミエルの無垢さが表現されているように思います。
1つ目に挙げたシーンとは対照的に、喜びに満ちた明るいシーンとなっていて、とても和む場面です。

このように、『ベルリン・天使の詩』では人間と天使との交わりが描かれていて、
こんな仕組みだったら面白いな、なんて軽く思え
はたまた幾度となく登場する美しい詩文に心躍らせ
そして痛みに顔を顰め
愛や時間を受け入れることを知る
面白い映画だと感じています。

是非、機会があれば、観てみてくださいね。
大好きな映画のひとつです。

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