信じたい嘘

ひびの入ったデスクトップに映る顔がひどく歪んでいる。鉛のように重たい身体は次第に布団の内側へと沈んでゆく。潜った先で見つけた実像からいつの間にか目が離せなくなっていた。磔の口角。虹彩のアルゴリズムは簡単にコピーアンドペーストすることができてしまうから、きみがきみで在り続けなきゃいけない意味もいつの間にか分からなくなってしまった。結局最後まで言葉にしなかったことがすべてだったし、一緒に歩いた道だけが本当だった。そこに写る笑顔よりもそこで一緒に目にしたものの写真の方がよっぽど信用できると思った。ほんとうのことを書きたくてもそれを言葉にした途端全部うそになってしまうこと、虚しいけど丁度良かったんだよね、本当は。って書いた途端にこれも嘘になってしまうけど。叙情で嘘にしてしまうことでしか、わたしは本音を吐けなかった。別に本音を吐く必要なんてないのに、いつも少しだけ、あなたにほんとうのわたしが届いてほしくて、だけど絶対にあなたには届かないでいてほしかったから、汚いな、ひとのきれいなところばかり信じたくなるくせに、自分の愚かさからは目を逸らし続けている。
地球を反転させて、私は布団に蹲って、そうやってずっと太陽から逃げ続けている。夜も苦手だし朝も苦手で、月が好きなわけでもなければ太陽が好きなわけでもない。ただ朝よりは夜の方が、太陽よりは月の方が、私みたいだなと思うだけ。惹かれた先で引き剥がされるのがこわいから、自ら身を遠ざけようとしてしまうだけ。私たちはみんな別々の星に住んでいて、きっと今そばに居てくれている人ともいつかは遠く離れてしまうし、そうやって私たちは幾つもの星と近づいたり離れたりしながら生きている。一瞬でもあなたと周期が揃って、こうして手と手が繋がれたことが奇跡で、あなたはあなたを、わたしはわたしを生きている、たったそれだけのことだから。それでもわたしたちは同じ星に住んでいるんだって、そう信じられるのが詩で叙情だったから、わたしは本当をことばで嘘にして、その嘘をことばで本当にする。わたしたちがその嘘を信じたなら、それはわたしたちにとっての本当になるから。

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