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餃子弁当

夫と結婚する前、何度か行った町の中華屋さん。
奥様が中国の方だったかなんだったかで、本場の味がいただけるという知る人ぞ知る美味い店でした。
何よりも私が心酔したのが棒餃子。
それまで焼きであろうが水であろうが揚げであろうが、一般的な形の餃子しか食べたことのなかった私に、この棒餃子は新しい世界の扉を開けてくれた一品でした。
15㎝ほどあるその棒餃子は、がぶりと頬張ると、それはもう気持ちのいいほどにパリパリパリっとカリカリカリっとした食感が歯で弾け、中からニラと肉汁がたっぷりの種がじゅわりと口の中を火傷させる……。
とにかく初めてその棒餃子を食べたときに「なにこれうまっ……」と小さく呟いた私は、立て続けに3本ほどの棒餃子を無心で食べたと記憶しています。

15㎝の棒餃子、というと、1本で普通の小ぶりの餃子であれば3つ分、中身だけで言うと4つ分ほどのボリュームがあるかもしれないわけです。
夫に言わせると「またまた大阪の方の人は大げさだなぁ」なのかもしれません。だがしかし私は京都出身だ。それはさておき、3つの棒餃子は割とお腹一杯になる量であり、餃子食べたい欲を満たしてくれるものであることは確かでした。
その後何度かその店を訪れるたび、棒餃子を注文しては満足していたのですが、しばらくして結婚して引っ越して、しばらくそのお店を訪れることはなかったんですね。
その間にお店のご主人がご病気で倒れられ、お店を畳んでしまわれたんです。

もう一度あの棒餃子が食べたかった……と何度も思い出しては残念がっていたのですが、先のコロナ禍で、なんとそのお店がテイクアウト専門店として復活したという話を聞きました。
ご主人はもう厨房に立ってらっしゃらないらしいのですが、奥様が小さく経営なさってるとかで、その話を聞いて私は「またあの餃子が食べられるかもしれない」と期待を隠し切れませんでした。

好き嫌いにうるさい子どもたちが好むかどうかという所は少し分からなかったので、なかなかその機会は訪れませんでした。
ですが、次男が幼稚園に上がり、やっとその時を迎えたのです。

夫が買ってきた回鍋肉弁当とギョーザ弁当。
「あの店で買ってきたんだ」と言う言葉に色めく私でしたが、どうも夫が難しい顔をしているのです。
「どうしたの、棒餃子なくなってた?」
「いや、なくなってはないんだけど、ちょっとチョイスミスをしたかもしれん……」
うん?どういうこと?
と買ってきたお弁当を袋から取り出そうとする私。
「そもそもここの回鍋肉はそんなに好みじゃなかったんだよな」
あぁ、そう言えばそんな事言ってた気がする、10年くらい前。
「でもま、それはいいんだよ、オカンは棒餃子が好きだったから餃子にしたんだけどさ」
ふんふん。
「回鍋肉弁当の付け合わせが棒餃子2本なんだよ……」
「…………?うん?」
手を止めて夫を二度見した私の顔を、深刻そうな顔で見る夫はもごもごと口ごもりました。
「つまり……?」
「棒餃子の付け合わせは……」
「棒餃子……?」


えっ
ほんまに?


慌てて私はお弁当を袋から取り出しました。
あの懐かしい棒餃子のフォルム。
少し大きさは小さくなったかもしれません。

まず1合まるっと詰め込んだんじゃないかと言う量の白米に目が行きかけましたが、問題はそこではありません。
白米の横の大きな仕切りに棒餃子が3本。
大きな仕切りの横の小さな仕切りに棒餃子が2本。

お弁当となっていることで、パリパリ感はなくなっているものの、ニラたっぷりでジューシーな種の棒餃子は、副菜枠、そう野菜枠と言っても確かに差し支えないかもしれません。

でも、そうかー。棒餃子5本かー。そうかー。

とりあえず、ふたりでむせかえるほど笑った後、ご飯を1/3と棒餃子を2本お皿に除け、チョイスミスを恐れた夫が買ってきた冷凍から揚げをその小さな仕切りに入れて美味しくいただきました。
次はぜひ違うお弁当を楽しみにしたいと思います。
棒餃子はたぶん2本ついて来るだろうし。

ごちそうさまでした!


棒餃子5本はさすがに多いかな。
おなかいっぱい(満足)。

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