スルーできない作品
やっと文章を書くための脳の部位と時間に余裕ができたので、久しぶりの「左脳ボーディング」です。
今回扱うのは、正確にはスノーボードではなくフリースタイルスキーの映像作品ですが、ここの違いは特に問題ではないのでこのままいきます。
「Freestyle Skiing Through a School」
学校の校舎を舞台にしたフリースタイルスキーです。
めちゃくちゃ長いエルボーキンクや、屋内のハンドレール、窓からのドロップなどハイレベルなセクションと良いロケーションを、あたかも一本のランのように繋いでます。
更にそこにちょっとしたストーリーが加えられていて、それがこのカットです。
”HIGH SCHOOL FINAL EXAM”、”NO PASS”なので、高校の期末試験に不合格。科目がフランス語ってことでしょうか。
そこに、ボーナスポイントくれる?とUSBメモリが付けられていて再生してみると、この学校でのフリースタイルスキーの映像が始まるという作りになっています。
そして、一通りその映像を観た教員は、ボーナスポイントを認めて合格を出す。
というのがこの作品のあらすじです。
タイトル先行だったのか?
まず、タイトルの「Freestyle Skiing Through a School」ですが、直訳すると「フリースタイルスキーで学校を通る」ってところでしょう。
スキーによって学校の試験を通過(合格)するという意味と、物理的にスキーで学校内を通っていくというダブルミーニングですね。
こういう、隙あらば掛けたくなる精神はシンパシー感じるしとても僕の好みのやつです。
ここでちょっと余計な考察をすると、この企画の成立過程はどのようなものだったんでしょうか。
パターンその1
当初は良いセクションがたまたま学校だったのでそこで撮影したが、あとでこのダブルミーニングを成立させたくなったので教員のシーケンスを加えた。
パターンその2
最初からこのダブルミーニングありきで、それをやるのにちょうど良い学校を探した。
より事実に近いのは、後者なんじゃないかと想像します。学校だけに。
あと、スルーとスクールで韻を踏んでいるし、このタイトルと内容を思いついた人はその瞬間、大きめのガッツポーズ出たんじゃないでしょうか。
僕はこれだけで既にこの作品に"PASS"ってハンコを押したい気分ですが、焦らず内容も観ていきましょう。
キッズたちの夢を映像化
大雑把に言ってしまうと、この作品のメインテーマは「フリースタイルスキーのスキルがヤバければ、学校でちゃんと評価される世界最高!」ってことですね。
いかにも真面目そうな学校の教員がフリースタイルスキーを、しかもストリートの映像を評価するなんて、現実にあったら嬉しいけど絶対にありえないファンタジー作品です。
でもこうやって作品の中だけであっても、現実世界の限界を軽く超えてみせるあたりがいかにもレッドブルらしくて良いと思います。
当然のことながら、やっていることのレベルはとてつもなく高いです。
これだけで一本の作品にできそうなぐらいのエルボーキンクや、屋内のレールではアプローチも狭いうえに着地の直後がドア1枚分で超危険だったり、天井の圧迫感あって難しそうだとか、絶妙にノーズを引っ掛けてのフロントフリップだとか。
誰が観てももちろん凄さを感じるけど、コアな視聴者ほどその難しさがわかるだけに、ときどき挟み込まれる教員のうなずきカットによって非現実の世界観を作り出しています。
たとえば
「じつは教員もこっち側の人間なのか?」
「それとも俺たちのフリースタイルスキーがあちら側にまで届いているのか?」と。
しかも面白いのが、この作品内で視聴者にとって虚構と現実の境目を飛び越えさせてくれる役割を担っているのは、あくまで日常的な振る舞いをしている教員の方です。
非現実的なレベルの滑りをしているライダーではないんです。
これまでは、
『俺たちのフリースタイルスキー vs 社会』
だったものをこの教員の役を置くことによって、
『俺たちの社会のフリースタイルスキー』
に書き換えたんです。
ここではライダーも教員も視聴者も全員含めての俺たちです。
「理解されるのなんてどうせ無理だから勝手にやるよ」と、社会の枠に納まることを良しとせず、オルタナティブでいることに価値を見出してきたような僕から上ぐらいの世代にとって、このパラダイムシフトは簡単には受け入れ難いかもしれません。
でもそんな我々が馴染んできた価値観がどうあれ時代は進み、世代は変わっていきます。
この作品のような世の中を今の若い世代が望んでいるのなら、上の世代の我々は若者に自分なりのボーナスポイントを与えていける大人になりたいものですね。
そんなことを学ばされる作品でした。学校だけに。
p.s.
なぜフランス語の試験に、スキーでボーナスポイントが貰えるかについてですが、
スキーは優れたコミュニケーションツールだという作り手のメッセージという解釈でどうでしょうか?
正確な文法やスペルを知らなくても、一緒にスキーしたら言葉が通じない相手ともすぐ友達になれるよ。というメッセージだとしたら、そんな信念のもとに表現活動してる作り手がいるのが嬉しいし、頼もしいですね。
次回は、これと同じ作品を否定的に捉えたバージョンで書いてみます。