COWDAY 長編作品 その2
みんなで脳のエクササイズ 【私と家族とスノーボード】
主人公の「私」がスノーボードを始めてから今に至るまでの過程を、「家族」である両親と妹の視点も交えながら振り返るドキュメンタリー作品です。
あらすじは、幼少期からスノーボードをやり始め、のめり込んでいき、選手活動をしていたが怪我を機に引退。
今は選手時代のプレッシャーから解放されて、スノーボードを楽しめている。というもの。
この作品から思い起こされるのは、メディアの中の定型的なアスリート像についてです。
トップアスリートが成功を掴むことができた背景には、『幼少期から親による多大なサポートや家族との深い絆があった』というエピソードが、美談としてたびたび語られます。
そんな美談が我々視聴者に大きな感動を与えてくれることは事実だし、アスリートの存在価値のなかの大きな要素といっていいでしょう。
ただし、一方でそんな明快な美談とはなり得なかったケースが山ほどある事も想像ができます。
僕にとっては、終始ハッピーなこの作品のテーマとは裏腹に、そんなことを想像させるきっかけになりました。
善意の危うさ
人生は選択の連続です。
そして、選択とはつまるところ、他の選択肢を捨てることだと言えます。
幼少の頃の小さな選択の繰り返しにおいて、何気なく、寧ろ当然のこととして「スノーボード」を選び続けてきた。
その結果、気付いた頃には自分の前に現れる選択肢は「スノーボードのなにか」だけで埋め尽くされていた。
もしもあの時の家族の後押しがなければ、今頃どれだけ自由な選択肢が残されていただろうかと振り返る。
そんな、後悔とは言い切れないまでも、完璧に自分の意志だったとも言えない。
そんな過去を背負って、ここからは自分らしい選択をし直していかなければならい。
この「スノーボード」に自分なりの何かを代入して共感できるという人は、実は多いんじゃないかと思います
この作品は、今ここにきて選手とは違う立場でアイデンティティを確立しつつある。というように、過去の選択も含めて肯定的に語られているので、そのような例には当てはまりません。
しかしこの機会に、
無責任な応援はときに残酷な結果を招きがち。
という「家族のサポートあるある」について、我が子をサポートする家族の側になった僕自身が自覚的でいなければと思いました。
と、ここまでが作品に対する僕なりの一般向けな感想です。
そしてここから本題に入ります。
ストーリーテリング練習
この作品の弱点をあえて挙げるとすれば、視聴者の多くは登場人物のことを知らない状態で観はじめるという事です。
と同時に、本作は15分間かけて登場人物について知ってもらう作りになっています。
ここにニワトリとタマゴのジレンマがあるのが分かるでしょうか?
ハッキリ言って、知らない人の知らない話を長時間聞くのは辛いです。
イントロ無しでサビから始まる曲だらけのサブスク全盛のこの時代には特に、第一印象で興味を持たせないとすぐに離脱されてしまいます。
そこで、もしもこの登場人物のことを多少なりとも知っていれば、興味を持って観終えることができるでしょう。
しかし、そもそも登場人物について知ってもらうためには動画を最後まで観てもらわなければならない。
ここに、観ればわかる/わからないから観ない。のジレンマがあります。
ニワトリタマゴのように「観るのが先か、知るのが先か」と出口の無いループになってしまっている。
このループをスパッと断ち切り、繋ぎ直して話の入口と出口を整備し、新しいストーリーを作り出せるのが映像作品の強みです。
文字通り、クリエイターが編集ソフトのタイムライン上でやっていることそのものではないでしょうか。
では、この作品では時系列をどう並べ替え、どこを省いてどこを強調すればもっと興味をひくことができるのか。
これを考えることが自体が、この作品が与えてくれる楽しみの最たるものだと思います。
コンテンツを一方的に受け取るだけでなく、「自分だったらこうする」という楽しみ方も身につけておくことが、この一億総クリエイター時代に置き去りにされない秘訣ですね。
そんなこんなで、本職のクリエイターの足元にも及ばないのは百も承知で、僕なりに時系列を入れ替えて環状線の外まで届くようアレンジするならこんな感じでしょうか。
といった感じで起承転結を明確にすれば冗長にならず、割とハッピーエンドに着地できるんじゃ無いでしょうか。
加えていうなら、両親の視線と主人公の視線の方向は同じじゃない方が良いのでは?
互いが向き合う構図にするか、もしくはバラバラな方を向いているようにするか。このあたりをこだわるのも面白そうです。
なんて机上の空論をこねくり回すのは実に簡単なことで、実際に作品に仕上げることの難しさは想像の遥か上だというのは重々承知しております。
それでも尚、こんな良い素材を頂いたからにはどう料理しようかと考えるのは、この上ない楽しみなのです。
つまるところ、この作品はストーリーテリングや動画編集で使う脳ミソの部位を刺激してくれる、脳トレ作品だと捉えるとしましょう。
なので是非あなたの脳内で二次創作を楽しんで下さい!!
《追伸》
ここまで書いていて気づいたのですが、この文章自体が起承転結を考慮せずに思いつくままダラダラと書いてしまっているじゃありませんか。
理想をいうなら、「ほら、最初に興味を引きつけてから、しっかりと起承転結まで持っていく手法をこの文章で実践してるでしょ?」ですよ。
それができていれば、こいつなかなかやるな〜と思わせられたに違いないのですが、もう後の祭りです。
なのにも関わらず、ここまで離脱せずに読み進めてくれたあなたはよっぽどの物好きか、僕に関心があるのか。
いずれにせよ感謝です。次回もお楽しみに!