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スノーボード大喜利

まずは、こちらの映像をご覧ください。



凄い! 以上。

では、また次回。




本来、そう言って終わるのがこの映像の扱い方としては正解なのかも知れません。

だけど、そう簡単には済ませないのがこのnoteの存在意義。
久しぶりすぎてなかなか筆が進みませんが、このあたりで今一度、左脳を回転させておきましょう。


タスク or フィール

まず初めに、セバスチャン・トータントというライダーについて、僕がどういう印象を抱いているかについて書いておきます。

これは、完全に僕の偏った考えですが、ライダーには「タスク型」と「フィーリング型」の2種類に分けることができます。

タスク型のライダーとは、そのライダーにとって攻略すべきセクションや斜面があり、そこでどんなパフォーマンスを発揮するかがスノーボードをする動機となるタイプ。

フィーリング型のライダーとは、外部環境や自分が与える影響などを考慮せずに、自身の欲求で行動を決めるタイプ。

つまり、タスク型は外発的動機、フィーリング型は内発的動機によってどんなスノーボードをするかを決めている、とも言えます。


では、セバスチャン・トータントはどっちに分類されるかというと、タスク型スノーボーダーの極地にいるライダーだと思います。
スノーボードを、自分の内側から湧き出るものを表現する手段としてではなく、「既に存在している問題を攻略することを目的にやっている」という印象です。

その証拠に、彼の過去のお仕事をもう一つ観てみましょう。

ALL 8 Project

https://youtu.be/ulO84XhII1g

同じ形状のレールを8本、一直線に並べて8通りの270onをやるという企画です。

セクションのクオリティが凄いし、ライダーのスキルの高さがよく分かるいい企画ですね。

ただしスキルと反比例するかのように、難しいことを頑張って成功させた割には、彼に対する感情移入が全然できていないのも興味深いです。

これ程までに「問い」と「答え」がハッキリと決まっていて余白が無いスノーボードは、観ていて楽しい反面、感情を揺さぶるといった類の効果はあまりないことに気付かされます。
それもそのはず。この企画は、結果が最初から分かっているので。
「どこまでできるか」ではなく「これができればOK」と、合格ラインを決めたと同時にパフォーマンスの上限が設定されてしまいす。

じゃあ、セバスチャン・トータントというライダーと彼がやってきたことは、他の感情を揺さぶるような滑りをするライダーや映像作品と比べて劣るのかというと、全くそうは思いません。

ただ単にそれらは向かう方向が違うだけであって、みんな違ってみんな良いの一言に尽きます。



けど、ここではまだその一言では尽かせないように屁理屈を並べていきます。

それではまず初めに、セバスチャン・トータントは他のライダーとどう違ってどう良いのかを考えてみましょう。


先ほど、彼のスノーボードは凄いし楽しいが感情移入はできないと書きました。

どこかでこれと似たような感想を抱いたことがある気がしたので、色々と思い出してみるといくつか思い当たる節があります。

例えば、工場の製造ラインの映像。
材料が少しずつ加工されて、最終的に製品になるまでの一連の流れを特に詳しい説明もなく淡々と映すアレです。
何気なくテレビをザッピングしていたら、ときどきEテレあたりでやっていてついつい最後まで観てしまうアレです。
これとセバスチャン・トータントのスノーボードとの共通点は、スタートとゴールが明確で、対象物が正確にコントロールされているという快感じゃないでしょうか。

もしくは、Eテレ繋がりでいうと、ピタゴラスイッチにも近いかもしれません。

あともうひとつ挙げるなら、横スクロールアクションゲームの定番、スーパーマリオじゃないでしょうか。
あれこそ感情移入ゼロ、スタートからゴールまで決まっていて、スキル次第でクリアか失敗かの明確な結果が出るもの、という点でかなり共通点があります。
プロゲーマーの攻略動画を観ている時と同じ快感がセバスチャン・トータントにはあります。

この「All 8 Project」でのライディングには、彼がどんなスノーボーダーなのかが良く表れています。

そしてあともう一点、この8本続くレールセクションはこの企画のために作ったということを見落としてはいけません。
このことを頭の片隅に置いたまま、冒頭の映像についてあれこれ深掘りしてみましょう。


INCREDIBLE Snowboard Trick Shot Run (in one take)


このあまりに長いワンカットの作品、順を追ってみていきましょう。

まず、冒頭にバスケットボールを投げて外すNGシーンから始まります。
これが実は、あとでしっかり効いてくるとても上手い編集だと思います。その理由は後ほど。

本編の最初はレッドブルカラーの階段を登ります。
この時点で、これから滑るのは普通のスノーパークではないということを、視聴者に直感的に伝えます。

案の定、バルーンのようなものをフロントフリップで超えていきます。

このセクションを観たときに、レッドブルで変わったパークといえば勘の良い人ならこれを連想したんじゃないでしょうか。

https://www.redbull.com/jp-ja/videos/macaskills-imaginate

しかし、トライアルバイクのそれとは違うんだと、すぐに異変に気が付きます。

次のセクションに行くまでの時間がやけに長いからです。
そして画面左下にはなにかの数字が。

このあたりで、もしかしたらと薄々勘付いていたことが確信に変わります。
「パーク全部をワンカットでいくやつだ」と。

パークラップをワンカットで魅せるといえば、スタンダードフィルム「BLACK WINTER」のトースタイン・ホーグモのパートを思い出してしまいます。
気になる方はYouTubeで探してみて下さい。10年以上前の作品なので今見ると普通ですが、当時の僕はこれが世界トップレベルのパークラップかと衝撃を受けたことをハッキリ覚えています。
ホーグモのパートを観たいがためだけにこのDVDを買って何回も観たけど、今見返してみてセバスチャン・トータントも出ていたことに気が付きました。
当時はホーグモパートがあまりに注目されていたので、今回の「INCREDIBLE Snowboard Trick Shot Run」は、セブが10年越しにワンカットパークラップでホーグモにリベンジ!という解釈もありですね。


話が逸れたので戻します。

これは最後までワンカットでいくやつだと分かってからも尚、変則的なセクションと決してイージーじゃないトリックが続きます。
特にジャンプセクションでは、いきなりヒール抜けのBS900でさりげなくかつ強烈に自己主張してからの、タイトな2連キャニオンをしっかりこなす。
それでも画面左下の数字は13/22と、やっと半分を過ぎたところ。

「もしかしたらこれ相当凄いことやってるかも・・」と、この挑戦のハードルの高さを実感してきた頃に、やっとアレが効き始めます。

「最後の最後にバスケ残ってるってマジか」と。
ここまでやってきた事があのボール投げひとつで台無しになるなんて、全く割に合いません。そう考えると、その先いかに無難にセクションをこなそうとも安心して観ていられなくなります。
そういった意味で、冒頭にあのNGシーンをもってくるという判断は大成功していると思います。

そして、そこから掘って作るジャンプセクションが3つ続きます。
この範囲にこの深さを作るって、どれだけの雪の量を集めたのかが気になるのと、最近SNSを通して海外のパークでよく見る、色も形もレインボーなレールで多様性への尊重も欠かしません。
その反面、このコースでは多様性ある滑りを全く認めてもらえない非常にタイトな設計となっています。
この対比は製作者の意図なわけないですよね。

そしていよいよ最後のレールセクションを過ぎてバスケットボールを投げてクリアして大団円を迎えます。


考察など

あえていじわるな見方をするなら、当然クリアしたからこそこの映像が完成しているのであって、つまりはこの映像作品を観ているということは皮肉なことに、成功したというネタバレになってしまっています。
そんな重箱の隅をつつくのは不毛なのでこれ以上触れませんが、それよりも重要な問題は、
「なんで最後いきなりバスケやったのか」です。

確かに、このオチのキャッチーさは普段スノーボードを観ない人の興味をひくことができるし、単純にチャレンジの難易度も上がって良い効果だらけです。
それでもあえて僕がこのことに言及するのはなぜかというと、
バスケットボールである必然性がまったく無いと思うからです。

スノーパークやスキー場の駐車場にあると不自然なものをわざわざ持ち込んで、スノーボードとは無関係なことをやって、インクレディブルスノーボードといえるのかどうか。

じゃあ難しそうなことならなんでもOKなのか?と思ってしまいます。
例えば、最後にフラッシュ暗算だったらどうか。
難しい計算に正解すれば凄いことには変わりないが、凄ければなんでも良いんだっけ?という部分がより顕在化されると思います。

これも相当な重箱の隅案件ですが、このような疑問を払拭するにはどうすれば良いのか、僕なりのアイデアを出してみます。

直線から円環に

端的にいえば、最後にバスケットボールが登場することに何かしらの脈絡や必然性があればいいんじゃないか、という話です。

スノーボードとは重力に従って高いところから低いところへと移動していくことでできている事です。(位置エネルギーを運動エネルギーに変換)
そしてボトムまで移動すると、位置エネルギーが無くなりこれ以上動けなくなる。
これがスノーボードの原理です。

本作はそれがそのまま表現されています。最初に階段をのぼり、そこからはノンストップで滑り降りていく。
あえて物語と呼ばせてもらうと、本作の物語の構造は直線状になっています。

これを円環構造にしてみるとどうでしょうか。
パークのスタート、もしくは前半部分でバスケットボールを登場させる。
ただ単に画面内に登場するのではなく、なにかしらのパークアイテムとして機能させて、しかも画面の外に飛んでいくという演出にする。
例えば、高いところに置かれているボールを、ジャンプを飛んでいる最中に蹴り飛ばしてボールがどこかへ転がっていくなど。

そして、それによって転がってきたと思われる(当然、実際には別の)ボールが最後に登場し、拾ってリングへ投げる。

これなら、みんな大好き伏線回収となります。
円環構造を更にクドイぐらいにやるなら、リングに入ったそのボールがまたどこかに転がっていき・・・という終わり方にして、またループするのかと想像を膨らます余地を残す。
それなら取って付けたようなバスケットボールの存在が、物語の重要な縦糸へと変化しますね。

そんな安いフィクションじみたことやる必要が無いのも重々承知ですが、そんな想像も脳の中ならいくらやってもいいじゃないですか。

本当にワンカットか

想像は自由だということに甘えてもう一点、重箱の隅どころか裏側をつつかせてもらいます。

もし仮に、これがワンカットじゃなかったとしたら?

よく映画であるらしいのが、アクションシーンなどで長回しのワンカットにみえて、実は途中でカットを繋いでワンカットにみせているという手法です。

本作でそれをやるとしたら、2:15 〜 2:20あたりの、ライダーの姿が完全に画面から消える瞬間が繋ぎ目なのでは。
そう考えると、最後のバスケを失敗しても後半部分だけやり直せるので、すごくリーズナブルです。

カメラアングルや、雲の形や、太陽の位置などを考えると難しそうなんですが、映像製作を専門でやっている人なら答え合わせできるかもしれません。これは技術的に可能なんでしょうか?

誤解のないようにはっきり言っておくと僕自身は「実はワンカットじゃないだろう」なんて1ミリも疑ってません。
もしも繋いでいるとしたら?そして技術的に可能なのか?と想像してみただけです。

スノーボードとは大喜利である

ここまで想像に任せて好き勝手書いてきましたが、この「INCREDIBLE Snowboard Trick Shot Run」は個人的には非常に好きな作品です。
なぜなら、パークを滑るのも、滑っているのを観るのも、更にはパークを作るのも好きな僕がこの作品を無視できるわけないじゃないですか。
そしてコンセプトがハッキリした企画も大好物。なので早く次回作が出ないかと期待しています。

唯一、野次を飛ばすとすればセバスチャン・トータントの滑りが、スキルは高いがスタイルや独創性をあまり感じないという点でしょうか。

パークライディングでは、各アイテムでどんな技をチョイスするかがセンスの見せ所です。
なのに、この人は単純に「難しさ」だけを判断基準に技を選んでいないか?と思ってしまうことがしょっちゅうです。

ただ、この企画はもともと設置されているパークをワンカットで撮影したものではなく、専用に一からつくられたパークです。
そう考えると独創性が感じないどころか、実は独創性の塊だということに気が付きます。

前に僕は、ストリートでのスノーボードは大喜利である。という趣旨のことを言ったことがあります。

これはどういう意味かというと、
出されたお題にどう答えるかが問われているのは当然ながら、「どんなお題を出すのか」というセンスもより問われてくるものだと思うのです。

これは、パークでも同じことが言えます。
設置されたアイテムをどうやって滑るのかはもちろん重要です。滑った結果、スキルやスタイル、独創性があるかどうか判断することができます。
ですがその背後には、「どんなアイテムをどうやって設置するか」という、可視化されにくいが非常にシビアな「大喜利のお題づくり」があることを忘れてはいけません。

おそらくセバスチャン・トータント自身もこのコース設計に深く関わっているでしょう。
この余白がほとんど無いライディングを発揮するために、雪と斜面という制約以外はほぼ無限と言っていいようなレイアウトのバリエーションの中からこれを作り出したこと自体が快挙です。

先ほど「この映像が配信された時点で、チャレンジが成功したということが予想できてしまう」と書きましたが、
作り手の方々はそのはるか手前の、このパークを作り出した時点で、つまりはいいお題を出題できた時点でパークライディングという名の素晴らしい回答が返ってくることが予見できていただろうと思います。


一人でIPPONの作品をつくりあげたセバスチャン・トータントに座布団一枚!

お後がよろしいようで。


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