『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』を見る金曜日の休日
その日は金曜日の休日だった。それは何も詰まっていない福袋のような休日だった。
そんな日に目覚ましを掛けずに起床することが最も良いと考えていたぼくは10時ごろには意識があったと思う。
ところで、ぼくは映画に少し苦手意識がある。何がそんなに苦手なのだろうか。6秒ほど考えて思いつくのは「2時間は拘束される」「つまらなかった時に時間を無駄にした感じがすごそう」「映画って結局内容についていけなくてよくわかんない」などである。でも多分、そうじゃないと思う。答えは未だに出ていないんだけれど。
こういうぼくが、「007」を見に行こうと思ったのは、まったくの偶然、気まぐれにすぎない。
というのも、休日は外に出ないと決めていたし、出たとしても散歩か喫煙のためだし、あるいは図書館か美術館に行こうかと思っていたし、いざ家から出てみると薄着で来たために寒風が身に刺さるから早いところ帰りたいと感じていたし、何冊か本をリュックに携えて近所の図書館に自転車を走らせていたら急に虚無感に襲われてすべてがどうでもよくなってもいたし、そのときはとにかく遠くに行きたいけれど、帰りを考えるとそんなに遠くにも行きたくなかったし、会社の同僚や友人が、尊敬するクリエイターたちが映画を見ている、という記憶が脳のシナプスのいたるところにシミのように散在してこぶりついていたし、これから見る映画は到着したときにすぐ見れる映画にしよう、と決めていたし、見てみれば007があと30分後に上映開始だってことになってたってからかな。
そんなことで2時間43分、—ジェームズ・ボンド作品で最長らしいが、ぼくはそもそもシリーズを一作もみていないので知らない―数人しか客がいないシアターで座ってみていたってこと。
先月DUNEを同様に見ていたのだけれど、もしかしたらぼくの環境DNAにはアクション映画がよく見れる遺伝子情報が組み込まれているのかもしれない。実際、よく見れたんだ。SFのDUNEは見れなかったけど。うん、007最長といわれる映画なのに没入感で見れてしまって、そうして楽しんでしまったんだ。
例に漏れずストーリーラインは正直よくわからなかった。これはぼくが悪いのか?シリーズ作品を見ていないからね。「スペクター」ってだれ?なぜ殺されるの?悪役はだれ?そもそも存在するのか?FBIとMI6が仲悪そうだけど、映画内ではMI6内でも仲悪そうなのはなに?
とはいっても特によかったのはカメラワーク。ジェームズ・ボンドの全身をなめつくすような動きはしびれたね。それに加えて音の演出。ジェームズが爆破に巻き込まれて重傷を負っているとき、鑑賞者にも同じ気持ちを味合わせてやろうというサウンド・変態・クリエイターたちがもてる精を出しきって耳鳴り感を演出、疑似音響外傷をぼくたちに食らわせたんだ。4DXじゃなくてもやられたよ。あと個人的にはOPや最初の氷点下の山荘シーンでのカメラの入り方には魅せられたし、静的なダイナミックっていうのはこういうことか、と見せつけられたよ。
とにかく、こんな感じで、なんとなーく見てたって感じが、11月12日の金曜日だったよ。
ではまた。
__2021.11.13記