vol.1 悪魔が…
朝、起きてくるなり、
「悪魔が…」って私の布団に倒れこむ。
え、どうしたの?学校へ行きたくなくて、そんなこと言うの?
「何が悪魔?」
「うるさい、いちいち質問、まじうざい」
中学2年生、男子らしい言葉が返ってくる。
そうだよな。いちいち、発する言葉に対して「どうしたの、なにがあったの?」って母の押しつけがましい、愛情たっぷり盛られた質問に、いちいち答えるのは、マジうざいだろうよ。
悪魔の正体を知りたかったが、これ以上機嫌を損ねられるのは避けたい。
軽く返答を受け流し、朝のルーティンをこなす。
玄関で見送るときに、悪魔がやっぱり気になる私は、
「覚えてる?小さい頃、君の背中には天使の羽がついていたんだよ。大人になるにつれて、羽は無くなってしまうんだよね。天使だったのにな~」と、
メルヘンチックになり損ねたような話をして見送る。
「母さん、またおかしなこと言ってるな」って。笑いにならないゆがんだ顔で家を出ていった。
こんな朝のやり取りがあったその夜。
「何が悪魔だったの?」って、聞いてみる。
「悪魔的に布団が気持ちよかったんだよ」とのこと。
悪魔的に、気持ちいい?悪魔かよ。気持ちいいのかよ。どっちだよ。
現代の子どもたちにとって、悪魔は最大限のポジティブワードなのか?
悪魔的に旨い。悪魔的に気持ちい。悪魔的に…。
天使がネガティブになっていないことを祈る。