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【ウマ娘】「ウマシコ」とは何か【法学】

 のっけから令和史上最低最悪なタイトルである。

 筆者は一応法学部を卒業した身とはいえ既に10年以上前の話、普段の業務で使う法律や民法行政法ならともかく著作権法など勉強したことはなく、刑法やら憲法やらも引っ張り出されたらそこらの学部生やアマチュア法律に自信ニキ程度以下の知識しかないウマシコ野郎だと思っていただいて結構です。実際こっそり訂正しまくってる

 令和オタク界で禁忌とされていることの一つに「サイレンススズカの乳を盛る」ウマシコ」が存在します。
ド直球に言ってしまえばスマホアプリ「ウマ娘 プリティーダービー(以下、「ウマ娘」とする)」及びその他メディアミックスコンテンツに登場する美少女キャラクターを性欲処理のために用い自慰行為を行うことです。

 当作品においては実在する競走馬をモチーフとした非常にデリケートな二次創作作品であることから、開発元である株式会社Cygamesより二次創作ガイドラインが発出されています。内容は以下の通り。

二次創作全面禁止しているわけでもなく、むしろガイドライン内であれば
二次創作も構わないという極めて無難な内容と言えるだろう。

 そして、
以下に当てはまる創作物の公開はご遠慮ください。
2.暴力的・グロテスクなもの、または性的描写を含むもの
(他にも1,3~5の条項も存在しますが、概ね問題となっているのは2.性的描写の項目でしょう。たまにグロとかもありますが…ドリジャのファンアートとか反社会的な表現じゃないのか?

を根拠としたうえでオタク界隈においてもいわゆる性的描写を含む創作物の製作及び公開の自粛が少なくとも表向きは行われている、という次第です。

 おそらく普通に読めば、「ああそうなんだな、エロ禁止か」くらいしか思わないでしょう。そしてその解釈はおおむね正しい。それで問題ない。

 しかし、である。「性的描写」とは何であろうか。ウマ娘作中のスクール水着描写は性的描写なのか?ブルマは?温泉は?ファンアートであればトレーナーとウマ娘のキスシーンは?抱擁は?下着姿は?トップレスは?ヌードは?前戯は?本番行為は?どこに「性的描写」のラインが引かれているんだ?ガイドラインは何も答えてくれない。むしろあえて詳細に設定していないという方が正しいだろう。

 有名な判例があります。法律を学んだことのあるものであれば必ず名前を聞いたことのある1957年最高裁判決「チャタレー事件」。
論点は小説「チャタレイ夫人の恋人」が非常にエッチな小説であったことから刑法第175条(わいせつ物頒布等の罪)にある「わいせつな文書」に該当とされ起訴された事に対し、刑法175条が憲法21条に規定される表現の自由に反していないか、また反していたとして規定されている表現の自由は「公共の福祉」による制限が可能か、の2点。

 この中で最高裁は「わいせつ三要件」として
1.徒らに性欲を興奮又は刺戟せしめ、
2.普通人の正常な性的羞恥心を害し
3.善良な性的道義観念に反するものをいう

を挙げたうえ、まず作品が法175条に規定されるいわゆる「わいせつな文書」に該当するかを論じます。
 ある文書が「わいせつな文書」であると言うためには作者本人の主観的意思は関係なく、一般的な社会通念及び通常人基準により客観的に判断されるべき問題であり、要するに常識的な通常人が「これエッロwwwwヤッベwwwアカンやろwww」と判断したらわいせつ性が認められる、とされました。(とかく昔の判例は読みづらい、今も読みづらい)
 また、仮に作品が芸術性を有するとしても、その芸術性は作者の主観ではなく客観的に判断されたうえで、仮に芸術性が認められたとしてもそれをもって必ずしも猥褻性を否定するものではない、いかな素晴らしい芸術品であってもそれだけでわいせつ性を否定してOKです、とはならず、刑法175条の処罰の対象となること。
 また憲法21条に規定された表現の自由も絶対無制限のものではなく、「公共の福祉」に反することは許されない。
 として有罪判決を導き出しました。(出たな無敵の理論公共の福祉)

 このチャタレー事件の「わいせつ三要件」はその後も判例として堅持されていくこととなります。

 次に挙げるは1969年最高裁判決「悪徳の栄え事件
この作品も上記「チャタレイ夫人の恋人」同様性描写の含まれた小説であり、チャタレー事件の審査基準に準拠する形で一審では被告・二審では原告勝訴のうえ上告された最高裁にては、「~芸術的・思想的価値のある文書であつても、これを猥褻性を有するものとすることはなんらさしつかえのないものと解せられる。もとより、文書がもつ芸術性・思想性が、文書の内容である性的描写による性的刺激を減少緩和させて、刑法が処罰の対象とする程度以下に猥褻性を解消させる場合があることは考えられるが、右のような程度に猥褻性が解消されないかぎり、芸術的・思想的価値のある文書であつても、猥褻の文書としての取扱いを免れることはできない」と、「これエッロwwwwヤッベwwwアカンやろwwwでもすっげえ芸術的、はっきりわかんだね、エロとか気にならんわ」という程度に芸術性が猥褻性を上回ることがない限り刑法第175条の処罰の対象となることは免れない。またチャタレー事件同様、また憲法21条に規定された表現の自由も絶対無制限のものではなく、「公共の福祉」に反することは許されない。
 としてチャタレー事件同様有罪判決を導き出しました。
刑法175条については、結局三要件により猥褻性が認められてしまえば芸術性が猥褻性を上回らなければアウトという事です。


 次に挙げるは2008年最高裁判決「メイプルソープ事件
この時期筆者は大学卒業直前だったため授業で学んだ記憶はありません。論点はメイプルソープが日本へ持ち込もうと試みた写真集に無修正の男性器が露出された写真が含まれていたことから東京税関により当写真集が税関関係の法律、関税定率法21条1項4号の「風俗を害すべき書籍、図画」に該当すると判断し輸入禁制品該当通知を行われました。
 その後一審は原告・二審は被告勝訴のうえ上告された最高裁にては、国家賠償こそ否定したもののメイプルソープが日本に持ち込みを試みた写真集のうち無修正の男性器が掲載されたページが少数に限られること及び芸術性の肯定読者の好色的興味に訴えるものとは認められないとして上告を棄却。日本国の敗訴となりました。
 要するに、「芸術的な価値はあるしこれじゃシコれないだろ、エロくないな…ヤバくもないな…普通やろ…これじゃ関税定率法で言うところの風俗を害すべき書籍とは言えないな…」という判決です。
憲法第21条1項(表現の自由)との絡みもありますが割愛します。

 で、ここまで3件の最高裁判例の検討を行ってきたわけですが…
読者の方としても疑問に思うのではないでしょうか。私も思っています。

「で、結局”性的描写”って何?」

 そう、チャタレー事件を始めここまでの判例で論点となっているのはおおむね刑法第175条の構成要件となる「わいせつ性」であり、わいせつ性と性的描写って結局何の関係が?同一の概念なの?と感じるのは当然だと思います。俺もわからん…何でチャタレー事件から始めたんだろ…ここまですべて無駄では…?性的描写を論じようにも本番描写ありのエロ小説や無修正チンポ丸出し写真集など性的描写を論じるもクソもないエロの塊のような事件ばかりなので論ずる必要すらなかったのでしょう。

 あえて個人的な意見を述べるなら「性的描写」と「わいせつ性」は完全に重なり合う概念ではないと思われます。じゃあ結局今までの前フリは何だったんだよ…一時間以上かけたんだぞこれ…
性的描写あり-わいせつ性あり…当たり前だよなあ
性的描写無し-わいせつ性あり…性的描写をどの程度まで拡大解釈するかにもよりますが、性的描写を本番行為及びそれに準ずる行為に限るとするならば考えられないことはないでしょう。本番無しショタ完全受けおねショタエロ漫画とかですかね
性的描写あり-わいせつ性なし…漫画版釣りバカ日誌とかですかね
性的描写無し-わいせつ性なし-いたって健全です

 結局「性的描写とは何か?」を正面から論じた判例及び論文は見つからなかったのですが、例えば

pixivのヘルプでは
軽度な性的描写(小説作品は設定する必要がありません)
年齢・性別を問わず、性的なものを想起させる、キス・抱擁・下着の露出や、性行為およびその前後を連想 させる表現・表情、またはそれらを模した表現を含むもの
胸・胸の谷間・乳首・臀部・股間等の強調、またはそれらの可視を際どくした表現や構図
極端に面積の少ない衣服や水着を身に付けた人物の描写や、露出度の非常に高い人物の描写、シースルーの衣服を身につけた人物の描写、また、明らかに裸体と思われる人物の描写など
R-18性的な表現
性に関連したもの、あるいはそれを表現しており、性器の結・接合、あるいは性行為を想起させるものを表現してあるもの

ツイッターのガイドラインでは
成人向けコンテンツの定義
全裸または半裸(性器、臀部、胸部を拡大して撮影したものを含む)。
性行およびその他の性的行為など、明示的または暗示的な性的行動または性的行動を模倣した行為。

映倫の規定としては
R15+
これまでと同様にPG12より刺激が強いものに加え、いじめ描写(『コックリさん (2004年の映画)』等)や暴力(ODS先行上映が行われたOVA『コープスパーティーTS』等)も審査の対象になる。また放送禁止用語を使用した作品(『寝ずの番』『座頭市』等)や、北野武監督作品(『アウトレイジ』シリーズ等)を筆頭とする暴力団もの、偽造犯罪(『スワロウテイル』等)を題材にした作品も対象となる。
R18+
これまでと同様にR15+に加え、著しく性的感情を刺激する行動描写や著しく反社会的な行動や行為、麻薬・覚醒剤の使用を賛美するなど極めて刺激の強い表現が審査の対象となる。指定された作品例として『丑三つの村』(初回上映の際に)『シャブ極道』『私の奴隷になりなさい』(以上日本)『屋敷女』『アデル、ブルーは熱い色』(以上フランス)『ウルフ・オブ・ウォールストリート』『ニンジャアサシン』(以上米国)などが挙げられる。

概ね通常人程度の判断基準としては、性的描写=18禁描写ということであると考えられるますが、ツイッターと映倫を比較しても差異が多くみられ、統一見解は得られません。(おおむね映倫よりツイッターの方が規制は厳しい、思ったよりpixivが厳しい。軽度な性的描写までをすべてガイドラインにある性的描写とみなされると何も描けなくなるのは目に見えている。二次と三次の違いか?)

以下は筆者個人の意見ですが、
NG(R18):全裸・性行為本番描写・または直接的に性行為を暗示する描写(性器・乳首の描写のないパイズリ描写・結合部こそ描いていないものウマ娘が男性の上にまたがり発情している様子なども含む)
グレー(PG15):上からNG目
非性行為中の性器描写(これはNGに入る可能性はかなり高い、特に対象が未成年ウマ娘も成人年齢は18歳なのだろうか?であることを考えるとほぼNGだろう)・半裸(乳首の描写はおそらくNG寄り、映倫基準ならOKか?)服の上から透ける局部描写(これもNG寄り)・下着描写・極度に露出の多い服装・間接的に性行為を暗示する描写(朝チュン・妊娠姿・避妊具の所持はどうかな…だいぶNG臭い?など)・女性的な身体的特徴を極端に強調した描写(これはOK目かなと、露出度や身体的部位にもより微妙ですが…)・キス・抱擁(この辺はセーフだと思いますけどね…)
このようになるだろうかと考えます。あくまで個人の意見です。

 ちなみにアズールレーンはR16、ドルフィンウェーブはR17、NIKKEはR18です。何の目安にもならん。下に載せた画像は露出だけでいえば全然布面積の多い方。多分アズレンのガチでえっちなスキンをウマ娘に着せたらウマシコ警察に現行犯で射殺されます。 

性的な指使いはいいぞ
こんなもんがR16で許可されていること自体がおかしいのでは…

 で、仮に個人的に「性的描写」に当たらないだろうとして二次創作を行い公開を行ったところで、株式会社Cygamesが「いやこれアカンやろ」と判断してしまえばどうしようもない。法的措置も検討とあることから最終的には何らかの法的措置が取られることが予想されるが、その取られる法的措置とは何か。
 今まで散々刑法第175条について論じてきましたが、刑法第175条の保護法益が個人的法益ではなく、起訴する権限も検察のみが有することから株式会社Cygamesが気に入らないからと言って刑法で直ちに何かどうこうできるわけではありません。
 であれば、取るべき手段は著作権法違反による訴えとなる…が、ここで問題になってくるのが先ほどのガイドライン。

 アズールレーンやブルーアーカイブなど18禁要素すら許容の上(「公序良俗に反する内容」等はNGとしている事項は存在するエロ同人誌を作成していた作者に公式に仕事を依頼する等するなど事実上18禁許容…というかアズレンに関しては歓迎している節すらある)ほぼ完全に二次創作許容を明文化している異常なコンテンツもある中、ウマ娘のガイドラインは二次創作の完全許容までは明言していない。
あくまでも条項1~5に該当する内容の創作物の自粛のお願いと、「本ガイドラインは『ウマ娘』を応援していただいている皆様のファン活動自体を否定するものではございません。皆様に安心してファン活動を行っていただけるよう、ガイドラインを制定しておりますので、ご理解ご協力のほどよろしくお願いいたします。」の文だけである。
 しかし「禁止されていないということは許されているということではない」とはいえ、ガイドラインを発出した上でそれに抵触していない二次創作に対し著作権侵害というカードを切るのは株式会社Cygamesとしても企業への信頼や予測可能性の面から危うい行為でしょう。

 弁護士ドットコムニュースにも全く同様の内容が記載されていました。
つまりガイドライン上問題のない創作物については著作権上問題のない二次創作作品とみなされる可能性が非常に高いという事です。

 で、話はループします。
ガイドラインに抵触しない二次創作、つまり「性的描写」のない二次創作、その性的描写ってのは結局どこまでの話なのよ?と。

 結論としては、上記の通り本番行為は間違いなくNGでしょう。全裸もほぼNGでしょうね。性器及び乳首の露出もまあNG、局部以外の露出多めの下着姿や水着姿であればまあOKかな…とは思いますがそこは株式会社Cygamesの裁量及び裁判所の判断が全てとなるのでこれ以上個人的な意見を述べるのはやめておきます。

 なお、このガイドライン。「創作物の公開はご遠慮ください」なので、すでにガイドラインに違反し公開されたガイドライン違反の創作物を使用すること、公式コンテンツを使用すること及び自分でガイドライン違反の創作物を作成・使用する事は(倫理的にはともかく)禁じられていないと解釈すべきでしょう。禁じようがないですしね…
 「ウマシコ画像の作成自体は可、公開はサイゲの判断するライン次第、使用するのは可」ということになります。

 以上となります。
なおこの記事はガイドラインぎりぎりを攻めて脱法ウマシコ創作をしてくださいという意図は一切ありません。これだけははっきりと真実を伝えたかった。

異論等あったらご指摘ください。

※重要な追記
 これはあくまで二次創作者と権利者(株式会社Cygames)間との関係について述べたものであり、pixiv等創作物を公開する際に使用するプラットフォームについては適用されない。つまり、二次創作者「これならええやろ」→サイゲ「アカンやろ著作権侵害や」→pixiv「はい削除します」→二次創作者「えっ」は現実に発生しているし、これに関してはプラットフォームに文句をつけても解決はしない。
 あくまでも司法の場に出るまではガイドラインの解釈権限は権利者側が有するうえ、(そのための「性的描写」という曖昧な書き方である)プラットフォーム側に異議を申し立てるメリットが何一つ存在しないからだ。


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