タイムカレンダー 4
アラームより先に目覚める。今日は9月10日か・・・うん?スマホを見ると5日木曜だった。また夢かと思う。未来の夢を見るのは珍しいなと感じた。一昨日のような嫌な気持ちと体が騒つく気分にはならないが、何となく夢を引きずってしまう自分がいた。
今日は、と静かに呟く。正午からスタジオで練習か。昨日歌詞も完成させたし、皆どんな反応を示すか楽しみだな。これでタイムジャックを合わせてライブでやる曲は全て決まりだ。腹は減っていなく、まだ6時過ぎだからドラムは叩けないし読書でもしようと思うが、どうにもながら作業は出来ないから、スマホで鳴らしていたフォールアウトボーイの音を止めた。
俺は私小説のような作品を好んで読む。この小説の作者は生前、様々な弦楽器を演奏したり音楽が好きだったのも好みの要因のひとつだ。いいんだぜという曲の歌詞は結構過激だが、ストレートで荒々しくもどこか繊細な良い歌だと思った。昔から映画にしろ音楽にしろ小説にしろ、何度も繰り返し見聞きする癖のような習性がある。今日も四度目か五度目に読む小説を開いた。冒頭から世界観に引き込まれて、登場人物の心情や背景描写、設定などが全て面白い。アルコール中毒にはなるまいと思う。煙草の描写が出ると、つい自分も吸いたくなる。ニコチン中毒ではあるようだ。
2時間程読み進めた所で腹がぐうと鳴り、空腹を感じたが、重いものは食べたくなくシリアルに牛乳を入れてサラッと食べた。アイスコーヒーを片手にベランダに出て、置いてある小さな椅子に座り煙草を吸う。今日も当たり前な日常に安堵して刻々と暑くなる空を見上げた。うん、快晴だ。
部屋に戻り溜まっていた食器を洗い、洗濯機を回した。時刻は9時20分 。昨日はドラムの練習をサボったからスタジオ練習までの時間ぎりぎりまで叩こうと思った。電子ドラムの電源を入れて椅子に座り、8ビート、ダブルキック、フィルインを入念に叩き今日の感覚を確かめると調子は悪くなさそうだ。暫くして何か音がしたと感じ、洗面所に行くと洗濯機が回り終わっていた。洗いたての服を籠に入れてベランダに干した。今日もどんどんと気温が上がっていく。
部屋に戻りまたドラムの椅子に座りライブで演奏する曲順通りに通しで練習した。ニルヴァーナのbreedに始まり、オアシスのDon't Look Back in Anger、フォールアウトボーイのThis Ain't A Scene It's An Arms Race、オリジナルの衝動、タイムジャックを叩く。
時計を見ると11時40分になり、無地の黒いTシャツを羽織りボタニカル柄の綿のハーフパンツに履き替えて外に出た。バイクで出発し、いつものように沼田の交差点を曲がりスタジオに着く。今日もメンバーは全員先に集まっていて俺待ちの状態だった。
皆で「お疲れっ」と挨拶し、早速完成した歌詞を見せた。「やっぱり良い感じの歌詞書くよな」とター君が言い、みっちゃんとヤーにも「タイトルにある合ってるし良いよ」と言われ皆、満足そうにしていた。「これでライブの曲は全部完成したし、ぼちぼち始めますか」とみっちゃんが言い、地下に降りてスタジオに入った。今日はライブ前最後の合わせだからみっちりと練習した。途中、ピッチの事などそれぞれの楽器の音量具合を話したりするぐらいだった。2時間の練習を終えて流石に全員疲れた様子だった。
俺とヤーとターくんは太陽の下、これ以上吸い込めないくらいに煙を肺に満たし思いっ切り吐き出した。みっちゃんはやれやれといった表情で「じゃあ明後日は集合15時な、機材は俺の車に乗せるから家に来てくれ」と言い、「了解」と、各々答えた。「ターくん当日歌詞飛ばすなよ」と俺は少し茶化すと「問題無いっしょ」とターくんは不安を微塵も込めずに答えた。お疲れと言い合い解散した。
バイトまで時間があるし仮眠を取ろうと思い自宅に戻る。ソファに横になっているとスッと眠っていた。スッキリと目覚め時計を見ると15時30分だった。歯を磨き、下だけワークパンツに履き替え整備工場に向かった。今日は何事もなく、殆ど何時ものようにオイル交換やタイヤ交換、洗車などの仕事をして、途中イマイさんや社長と短い休憩を挟んだ。20時少し前社長から声がかかり今日の仕事を終えた。つなぎから着替えて、帰りにスーパーで食材を買い自宅に戻った。特に何も思い浮かばなかったからカレーを作る事にした。レッチリを流しながら、人参、玉ねぎ、じゃがいも、鳥モモ肉を切り、それらを炒めて煮込む。20分程煮てルーを割り入れトロみがつくまで再度5分程煮る。曲を聞きながらカレーを食べると、予想通りの味だとまずまず納得した。食後もぼんやりしながら曲を聞き流し、23時にシャワーを浴びて缶ビールを飲みながら
明日暇?時間あったらツーリング行こうぜ。
と遥にLINEを送った。
直ぐに返信が来る。
オッケーだよ、何時にする?
10時に家に迎えに行くよ。
了解、また明日ね。おやすみ。
時刻は日が変わり1時過ぎ。薄い毛布を来て寝た。
<続>