タイムカレンダー 6
これは夢だ。試しに思いっきり走るととんでもないスピードで走ることができ、息が切れることもない。場所は自宅の近所だ。自転車に乗っている人や、歩いている学生、スーツを着て辺りを見渡している人、車の往来。SCスタジオに向かうとスタジオに陽が重なっている。西日のはずなのに全く眩しさを感じない、夢だからかと思う。スマホをポケットから出してみると16時を指している。沼田の交差点に立つ。もういいやと思い意識を離すと、ソファの上で目が開く。やっぱり夢だ。場所も家の近所だしある意味夢のない夢だと思った。
7日土曜日。今日はライブの日。まだ時間は8時だから長い1日になりそうだ。スマホを見ると、昨日何枚も撮った遥との写真が開きっぱなしになっている。そうか、昨日は帰ってきてスマホを見ながらソファで寝てしまったのか。どうやら半日近く寝ていたらしい、頭の中がこんなにスッキリしているわけだ。首をグッと傾げると骨がゴキゴキッと鳴り、左右の腿を勢いよく交差させると腰辺りの骨も鳴った。夕飯も食べずに寝たから随分腹が減っている。鼻歌交じりに昨日コンビニで買ったパスタとサラダを食べた。
受信音が鳴り、スマホを見ると遥からLINEが届いている。
昨日は楽しかったね。今日はライブ頑張って。見に行くからよろしくね。
俺は
おはよう。昨日は楽しかったな。ライブ頑張るよ。ライブハウスで待ってるね。
と返信した。
だいたいひと月かふた月に1度ライブをしているが、やはり当日は少し緊張する。初めてのライブは3年前だったけど、あの日は客は10数人しか居なかったのに相当緊張したな。リズムを外さないようにだけ必死になり、曲として成り立っていたかも微妙だ。誰の曲かは忘れたけど全てコピーだったはず。無駄にMCを挟んでつまらない身内ネタを話したり、しどろもどろになったりと散々だったと思い返した。
煙草の灰を灰皿に落とすと、また受信音が鳴りグループLINEが届く。
集合時間厳守な。今日も楽しんでやろうぜ。
了解。
とだけ返信した。
ふと時間の隙間を埋めようと横になって詩を書いた。
2hourmovie
雫はいずれ空に還る
誠実な場所でまた出逢う
耳には届かないが
わたしはわたしの物語を描いている
コンクリートに覆われる道々の勾配
メランコリックに輝く星々の楽団
ひとりを怖れず闇夜に語りかける
涙は追憶の彼方へ
歓喜は宙から手の中へ
昇る火は朝靄を照らし猫の導きも照らす
上昇気流を掴まえて
鉱石の中の微かな光へ飛んで行く
物語はフィクションから遠ざかる
わたしはわたしの物語へ駆けて行く
と記した。
中学生の頃の作品で、今に至るまで、何度も見直した映画をイメージした詩を書いてみた。俺はこれから自分の進む道をまだ明確には考えていないが、この作品には負の要素が無く前向きになれる一種の精神安定剤的な物語だ。ただ作品は歳をとる事がないが、俺は否応なしに、時間と共に踵を過去に爪先を未来にして自分の道を歩まなければならない。
<続>