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タイムカレンダー 7


   道、夢、と作品の余韻から現実に戻ると11時を過ぎていた。電子ドラムの前に座りヘッドホンを付ける。30分程軽くリズムを刻みながら調子を整えた後、今日のライブの曲順通りにドラムを叩く。breedに始まりタイムジャックで締める。この調子なら問題無さそうだと思う。後は本番にノッて叩けるかだ。今は緊張よりも楽しみの方が勝っている。どんなライブになるかな。

   14時半になり身支度を整える。既にみっちゃんにスティックとスネアは渡してあるから服を着替えるだけ。白い無地のTシャツの上に黒い衿つきのシャツを羽織り、下は熟れた生デニムに着替える。靴はライブの時には必ずこげ茶のブーツを履く。15.6分バイクで走るとみっちゃんの家に着く。

    みっちゃんは実家暮らしで自室は防音加工されていて、ギター用アンプが2台、ベース用アンプが1台、電子ドラムも置いてある。爆音でなければ合わせで練習できるほどの部屋だから、地元の数少ないスタジオの予約が取れない日はみっちゃんの家に集まる。みっちゃんの家に着くとヤーの車が置いてある、ターくんはまだ来ていないようだ。
   お邪魔しますと家に上がりみっちゃんの部屋に行く。
「うぃっす、お疲れー」
「よう」とヤー。「いらっしゃい」とみっちゃん。
ターくんはまだなんだ?と話したところでターくんの車が着く。
「おはよう」と少し怠そうにターくんは入ってきた。 

    今日はリハまで楽器使わないから車に乗せちゃおうかとみっちゃんが言う。みっちゃんはギブソンのレスポール、ターくんはギブソンのSG、ヤーはミュージックマンのスティングレイを使っている。足元のエフェクター関係は俺にはさっぱり分からない。俺が使っているスネアはパールのCS1450。リハは17時半スタートだからまだ2時間余っている。みっちゃんの部屋に戻り俺は電子ドラムで遊んで、みっちゃんはSwitchで何やらゲームをし、ターくんとヤーは今日の打ち上げ何処でやるかとかと話している。だらだらと時間を費やし、17時になりみっちゃんの車でLOCKsに向かう。

    LOCKsは110前後くらいのキャパのライブハウス。ビルらしいビルではないが、2階建てで、コの字型にスナックやらカラオケパブやら小料理屋など他の店も入っていて、そのひとつがLOCKsだ。腰から下は板張りで、客席を仕切る胸丈の壁を挟み小さなバーカウンターがある。壁もトイレもステッカーやフライヤー塗れで、俺たちからすればそこそこな大きさだが、世間的にはかなり小さな部類に入るライブハウスだろう。

    LOCKsに着くと今日出演する3バンドも来ていた。Loop works、呉軍、Protbrothers
。3バンドとも顔馴染みで、お疲れーとか調子どうとか意味もなく機嫌を取り合った。俺たちは今日のトリを務める。ケツからリハが始まるからまずは俺たちT-Ashからリハをする。俺はスネアの位置やシンバル、タムの位置を確認した。ターくんはマイクの音量をチェックしてもらっていた。コーラス用のマイクも2本立てそれらも確認していた。ギターとベースの音量も確認し、タイムジャックをワンコーラスだけ演奏した。他のバンドもリハを終え18時30分開場した。遥は40分くらいにLOCKsに来た。
 「よう」
「元気ですかー!」
「いやいや、どんなテンションだよ」
俺らは声を揃えてつっこむ。
「元気があればあ?」
「何でもできるっ」
何言わせてんだよと更に3人でつっこむ。
「見ろよみっちゃんなんてバツが悪そうにしてるだろ」
「みんなに気合い入れてあげようと思ってね。今日何番目?」
「俺らはトリだよ」
「そっか、楽しみだなあ」
「まだまだ先だし寛ごうぜ」
「頬に注入してあげようか?」
「もういいよ」

   19時、ライブが始まる。客は60数人程。最初の演者は呉軍。控え室は無いから1曲だけ見て、遥とメンバー合わせて5人で階段に座りだべる。遥は酒を飲むとすぐ赤くなるくせに缶ビールを1本飲み、LOCKsの中でレゲエパンチを頼み2杯目を飲んでいる。ピンクのミニスカートから伸びる足は既に赤らみだしている。
「俺たちのライブまで持つのかよ」
「平気、来る前に牛乳飲んで胃をガードしてるもん」
「お前それってほぼ暗示レベルじゃん。俺も試したけど大抵その日は潰れるよ」
「任せとけっ」
「どっちのだよ」
「お前ら本当に漫才みたいだな」とターくんが半ば呆れたように言い、みっちゃんはにこやかにしていて、ヤーも本当、本当と相槌を打っていた。「なんかお前らを見てると緊張ほぐれて良いわ」ターくんの言葉にみっちゃんはうんうんと頷き、ヤーは本当、本当と言った。

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